社会科学者と歴史研究者との間には,認識論的あるいは方法論的に埋められない溝が存在し,両者の和解はとうてい不可能である,というのが一般的な理解である.保城(2015)では,そのような溝を埋めるための条件と方法論を提示し,両者の融合可能性を模索した.本稿ではその方法論の概略を改めて述べるとともに,その中で提案した「過程構築(process creating)」の具体例を紹介する.筆者の専門分野に即して外交政策決定過程の分析に特化するが,国家だけではなく企業や国際機関といった,他の組織分析にもその方法は有用であると考える.
本稿の目的は,食品スーパーの顧客満足を規定する要因を,集合論を基礎とする質的比較分析(fsQCA:fuzzy set Qualitative Comparative Analysis)を用いて分析を行うことで,この方法の有用性を議論することである.
分析の結果,顧客満足に影響を与える要因の組み合わせが明らかになったが,それは従来の統計解析からの発見事項とは異なり,因果非対称性を示唆するものであった.
本研究では,組織の双面性とパフォーマンスの関係について,52篇の先行研究の成果をメタアナリシスによって統合し,統一的な見解の導出を試みた.分析の結果,組織の双面性とパフォーマンスはプラスの関係にあることが明らかにされた.さらに,コモン・メソッド,パフォーマンスの測定尺度,調査対象の業種といった測定方法や調査方法が両者の関係へ及ぼすモデレータ効果も確認された.
社会集団や組織における協力行動の形成の問題は,様々な分野の研究者の興味を引いてきた.本稿では,集団における協力状態を実現するメカニズム,特に,直接互恵,関節互恵,マルチレベル淘汰,ネットワーク互恵を,計算機シミュレーション研究を中心とした近年の動向を踏まえつつ概説する.
モメンタムは組織慣性の方向を決定づける力であり,本稿ではプロセスマネジメント(PM)が戦略的モメンタムに与える影響を実証した.化学災害データ116件による負の二項回帰モデルの分析結果から,事故発生企業のPM経験が長いほど,人的要因以外の事故や小さな事故が大幅に減少する一方で,重大事故の増加が確認された.本稿には,PMが化学災害を低減させる効果の実証による実務的及び理論的貢献があると考えられる.
オンライン・コミュニティ研究は増えつつあるが,参加者たちの協働プロセスと,問題の調整に関する理解は十分ではない.そこで本研究は,約10年のケーススタディを行った.その結果,参加者たちは,対話による調整,階層組織やルールといった構造的な調整,目標や方針など参加者に共有された情報による調整,自らの活動を自発的に変化させる「調節」の4つの手段を組み合わせて調整を実現し,協働を進めることが明らかになった.
本稿は,どのような環境にある企業が自社以外の組織に技術を提供しているかを,第2回全国イノベーション調査の結果を用いて計量的に検証した.その結果,イノベーションの収益化のための専有可能性として法的保護の有効性が高い企業ほど,また自社の補完的資産を把握している企業ほど,多様な外部組織へ技術提供していることがわかった.さらに,市場環境の変化が企業の技術提供に影響を及ぼしていることも明らかとなった.