本稿では,同族企業における事業承継問題が長期的投資行動に与える影響について考察した.中小同族製造業企業のデータを用いて分析したところ,経営者の事業承継に関する期待が長期的投資行動に対して正の影響を与えること,そしてその影響は,自らの子供以外の人物による事業承継の可能性が高いと経営者が考えている場合には,自らの子供による事業承継の可能性が高いと考えている場合よりも,大きくなることが明らかになった.
本稿では,撤退の意思決定に外部取締役が与える影響がその属性によって異なる可能性を検討する.具体的には,外部取締役の負の影響を観察した渡辺(2017)について,この負の影響はどのような取締役によるものなのか,逆に正の影響をもたらす取締役はいないのかを明らかにする.分析の結果は,ボード・クオリティの研究にもとづき,独立性と専門知識に注目して解釈を行い,両側面とも低い取締役が負の影響をもたらすことを議論する.
本稿の目的は,権力を持った個人がいわゆる「身びいき」を行いやすくなるか検討することである.具体的には,内集団ひいきが社会的勢力感の上昇により促進されるという仮説を導出し,質問紙を用いた場面想定法実験によって検証を行った.MBA課程に在籍する大学院生を対象に実施した実験からは,日本語を母語とする男性の参加者においてのみ,上記の仮説を支持する結果が得られた.
J1リーグを題材にSHRM(戦略的人的資源管理)におけるミクロ的基礎に関する実証研究を行った.既存のユニットレベルの人的資本研究の課題に対して報酬分散の概念を援用し,ユニットレベルの人的資本の分散と人員構成が,順位に与える影響を検討した.分析の結果から,⑴チーム内での報酬分散は順位に負の影響を与えること,⑵タスク型のダイバーシティは,順位に正の影響を与えることを指摘する.
技術供与に関する既存研究では,対象となる企業や技術を制限する限定的な技術供与政策について,製品市場を拡大しつつ,市場競争を抑えるという点で,積極的な意義が議論されてきた.それに対して,本稿では,競合技術で開放的な技術供与政策が採用される場合には,限定的な技術供与政策が,供与の対象外となった企業による競合技術の開発を促進して,当該技術の優位性に負の影響をもたらす可能性を指摘する.
集団内において非公式リーダー(公式リーダーよりもリーダーシップ行動が顕著な部下)が生じる状況要因を,国内アパレルチェーン410店舗に勤める1719名の店員への質問票調査により明らかにした.その結果,非公式リーダーの登場を促進・阻害する要因が,構造づくり行動に関しては集団サイズや公式リーダーの課題達成力,配慮行動に関しては公式リーダーや部下の成員理解力にあることが示された.