本稿は,日本的雇用慣行に注目した既存研究を紹介し,その変化について全体像を描くことを目的とする.第一に,長期雇用慣行は必ずしも全面的に衰退したわけではない.第二に,年功賃金体系は,2000年代以降,維持と緩和に両極化してきた.第三に,非正社員の増加と対応したのは自営業の減少であって,正社員の比率は基本的に1980年代以降安定していた.1980年代以降の日本の労働市場の基調は常に被用者が増大してきたことにあり,日本的雇用慣行の少なくてもコアの部分は維持されたことが示唆される.
本稿は,バブル経済崩壊後の雇用のあり方の変化について,広義の労使関係の視点に立ち,生産性向上との関係性を軸に分析しようとするものである.経済環境や社会条件の変化によって日本的労使関係に破綻が生じ,そこに成立していた生産性向上の意味にも変質が見られ,安定的な雇用が動揺することとなった.労使関係の構造的変化によって,現在の雇用は,いかなる特徴や問題点を持つこととなったのか,職場の実態調査をもとに明らかにした.
日本経済の低迷とともに,その原因は日本の雇用システムにあるとの見解がマスメディアの上を飛び交い,既存の制度の根本的変革を唱える議論が繰り返された.しかし2つの岩盤,長期雇用と職能賃金はなおも維持されている.よって2つの変革がさらに声高に叫ばれるのであるが,むしろ冷静に考えるべきは,1つのシステムが備える制度的強靱性であろう.改革のためにも日本の雇用システムの正確な理解が必要とされている.
2009年に大手が経営破たんを迎えたアメリカ自動車産業にとって,生産現場改革は急務である.本稿では実証研究を中心に,改革の実情,課題,日本との相違点についてまとめる.GMでは日本の作業組織がベンチマークとされ,従来よりもち密な方針管理の枠組み作りに成功した.ただし,伝統的な経営管理構造,労使関係など,固有の経路依存性が障害となり,思うように改革が進展していない.以上を明らかにすることを通じて,日本との相違点を浮き彫りにする.
本稿は,株主による企業への関与が,株主総会への参加という手段を通じて,どのように生じているかを検討した.1984年から2014年における日本企業の株主総会を事例に実証分析を行った結果,(1)企業パフォーマンスの低下は,株主総会への出席者数には影響を与えない一方,株主総会での質問者数を増加させること,(2)関与の手段の利用可能性の向上は,株主総会の出席者数および質問者数の両方を増加させることが明らかにされた.
新技術の制度化を進める上で,制度的企業家が誰をどのように支援者にすればよいのかという問題は,既存研究では十分には解明されていない.制度的企業家は,技術を正統化する権力の構造を読み解いて,制度化の鍵となる支援者を見出し,その支援を引き出すためにフレーミングを通じて政治的に働きかけるのである.本論文では,支援者の選別とフレーミングによる政治的働きかけが新技術の制度化の成否を左右することを示す.