企業では時として,法や規則から逸脱した不正行為が長期的に行われる.本稿はこれを逸脱行為の常態化と捉え,自動車会社の燃費不正行為を題材として,不正行為に関する三つの視点(倫理的,合理的,社会的)から分析した.そして,法令・規則とは異なる組織慣習に正統性が付与され,常態化する要因を 指摘した.そこには,社会的行為として組織内で継承され規範化する慣習的な不正行為が存在した.
これまで組織の両利き性におけるトップの役割の重要性については語られてきたが,ミドルの主体的な役割については十分に検討されていない.本稿では,組織の両利き性を促進するミドルの主体的な役割とその作用を明らかにした.インタビュー調査と質問紙調査の結果,ミドルにはビジョンを形成する役割が求められ,それが企業文化の醸成に繋がり積極的な企業提携活動を促し,両利き性を促進することが示唆された.
クロスセクター・コラボレーション研究は,①コラボレーションに影響を及ぼす多様なアクターとそのエージェンシーがどのように可視化されるのかが見落とされている,②可視化された敵対的・非協力的なアクターをいかに巻き込むかが十分に検討されていない,という課題が存在する.本稿では,アクター・ネットワーク理論を用いた事例研究を行うことで,先行研究の限界を克服できることを議論する.
本研究の目的は,研究開発における社内外への人的資源投入が企業の知識創造にどう影響するかを明らかにすることである.日本の総合化学メーカー8社の特許出願データを用いた分析から,外部連携への人的資源投入は,外部連携由来の知識創造には正の効果を有するものの,企業全体の知識創造や社内研究開発由来の知識創造に与える影響は明確ではないことを明らかにした.連携成果が社内研究開発に拡散,統合される管理が求められる.
本研究は,社会におけるデジタル・トランスフォーメーション(DX)の認知はCOVID-19感染拡大を経てどのように変化したか検討した.認知を技術・組織・環境フレームワークに基づき3つの文脈に整理し,新聞記事データを用いた定量分析を行った.その結果,COVID-19感染拡大への対応策としてDXの正当性が高まった可能性などが示唆された.
本稿では新規医療イノベーションである粒子線治療技術の開発と普及プロセスを,技術の社会的形成(SST)の理論視座で解明した.先行研究では,複数の技術シーズが単一に集約される現象に偏って分析されるという理論課題を有していた.しかしながら,本稿の事例である競合関係にある2 種類の粒子線技術は,同じ病気をターゲットにしながらも,共に医療現場に普及している.分析の結果,独自の強みを生かし棲み分けを実現したプロセスを見いだした.
標準化及び標準化団体は,企業のイノベーションにどのような影響を与えるのか.HDMIフォーラムの参加企業の339 社が出願した67 万件の米国登録特許データを分析した結果,標準化団体への参加の効果はネットワークサイズ,メンバーシップポリシー,企業規模によって調整されることが明らかになった.ネットワークの影響がメンバーシップポリシーによって変化することから,標準化プロセスと企業イノベーション間の複雑性が示唆された.
本稿は,科学技術研究調査から得られたパネルデータを用いて,R&D資源の外部調達活動が研究者の転出に及ぼす影響を実証した.分析結果は,(1)R&D資源の外部調達を行うこと自体は研究者の転出を増大させるが,外部調達金額の増大はむしろ研究者の転出を減少させる,(2)多様な社外組織からR&D 資源の調達を行うほど研究者の転出が増える,ことを示していた.