経営学における組織行動論は,心理学にベースを置き,しばしば社会学からも影響を受けてきた.心理学の影響で感情の機能が扱われ,社会学に依拠して感情にまつわる労働が注目され,ようやく経営における感情の研究が姿を現しつつある.その姿を,まず感情の定義,機能,種類,そして感情と行動との関係を踏まえ,トピックとしては,文化に規制される感情の表示規則,感情労働などに見る感情のマネジメント,経営層(マネジメント)の抱く不安などの感情,リーダーシップに伴う感情過程,カリスマの言説,ポジティブ組織行動における感情の扱いなどの論点について試論的にとりあげて,組織理論における感情研究のおおまかな地図を提示する.
人間の意識は理性的な意思決定を志向するが,人間の意思決定の主役は無意識であり,無意識からのシグナルが感情となって意識に押し寄せてくる.ある種の意思決定に関して感情には理性を上回る合理性があるが,意識は無意識を適切に解釈できず,感情を非合理的とみなしてしまう.意識によって感情を否定するのでなく,感情を理解し感情と折り合いをつけることで,より生産的な意思決定が可能となる.
感情は評価決定にバイアスをかけるが,感情が介入しない合理的評価が被評価者の納得感や肯定的な態度・行動を促すとは限らない.両者のバランスのとれた評価が望ましい.また,その決定の公正性を適切に伝えることが重要である.本稿では,感情と合理性の評価決定への影響バランスを考察するために感情知能という概念を,また,評価結果の公正性を適切に伝達するスキルを提示するために相互作用的公正という概念を応用する.そして,適切な評価のための両者の統合モデルを構築する.
本稿は,組織と感情との関連で問われてきた,感情労働と自己への否定的効果という疎外論モデルの再検討を通して,感情労働へと人々が動員される機制を分析するものである.まず,感情労働は三者関係で捉えられるべきものであり,クライエントも「感情労働者」として振る舞わざるをえないこと,ならびに,組織が感情を要求しつつ/拒絶するということが,感情労働を職務の魅力と感受させる機制を持つことが示される.
近年の文化心理学の知見から,文化と心の相互構成プロセスについて様々なことが明らかにされてきた.本論文では文化と感情の関わりについての理論と実証研究について述べる.特に,ヨーロッパ系アメリカの文化と日本文化を比較した際には,主体性と自己観の異なるモデルがみられることを示し,それに対応する感情経験や感情表出の文化差についての知見をまとめる.また,組織の中での感情と文化との関わりについて考察する.
「外部人材」と「競争優位」とはどのような関係を持つのか.技術的特性の異なる二製品で高度な設計開発能力を持つメーカーを対象に,この関係について分析した.技術系外部人材は設計開発の根幹に関わる業務を担っておらず,両者の関係は直接的なものではなかった.外部人材の活用は,企業に社員の技術者の役割を鮮明に意識させるという影響をもたらしており,そうした二次的な効果が競争優位に貢献している可能性があることを論じた.
製品アーキテクチャの変化は,既存の組織の不適合を招き,企業の競争力を著しく低下させる恐れがある.既存研究では,その変化に合わせて,企業は事業組織全体を改編すべきことが主張されていた.本稿ではこれに対し,事業組織の全てを変更せずとも,コンポーネントの技術的相互関係が直接に影響する組織だけを変更することによっても対応できることを,記録型 DVDドライブのイノベーションの事例から検討する.