本稿では,組織がどの程度存続すると予測されるかという意味での組織の寿命と組織構成員が持つ時間展望,とりわけ未来に対する時間展望との関係を検討する.本稿ではまず,この未来の時間展望と組織の寿命との関係について,組織の寿命の長さと組織への依存度によって未来の時間展望が異なりうることを示した上で,戦前から戦後にかけての企業の寿命の変化に応じて未来の時間展望がどのように変化してきたかを論じる.
ハイブリッド・ワークではどの場所にどのように時間を配分すべきかが問われる.本研究では,ある企業から取得したオフィス内の位置情報とオンラインチャットのデータ,質問紙調査のデータを分析した.その結果,オフィス内利用場所の多様性が中程度であるとクリエイティビティが高いことが明らかとなった.このことは,場所と時間の配分に関する制約がなくなる中,主体的にそれらの配分を選択できていることの重要性を示唆するものであった.
本稿で行った質問票調査によると,人事評価の公正性認知は,現在や将来に関する時間展望をより前向きなものにする.また,人事評価の手順や実務を入念なものにすることは,従業員の総合的公正判断を高めると同時に,時間展望に対して直接的で否定的な影響を部分的に与える.配置転換が多く行われがちな日本の人事慣行の下では,人事評価に関するそれまでの好ましい経験が将来も継続するとは限らないことを,従業員が予期している可能性がある.
本研究では,リーダーシップの新しい関係性アプローチとしてセキュアベース・リーダーシップの可能性と独自性に着目した.107チームの調査から,セキュアベース・リーダーシップは「安全」と「探索」の2機能を加えた3因子で構成され,既存のリーダーシップ理論とも独立していることが明らかになった.さらに,セキュアベース・リーダーシップは心理的安全性を醸成し,チーム成果に結実することが明らかにされた.
本論文は,新事業等の企画プロジェクトの質問票調査(n=400)により,チームの創造的成果と多元的視点取得(様々なステークホルダーの立場に立って世界をイメージする視点取得の多様性)との関係を検証した.多元的視点取得は創造的成果と直接的にプラスの関係があった.チームの多様性は,チームが接触する相手の多様性を介して多元的視点取得に,接触相手の多様性は多元的視点取得を介して創造的成果に間接効果があった.
本稿では,不明部分の多いリーダーのダブル・ループ学習のプロセスについて,使用理論を手がかりに調査した.食品メーカーZ社での研修を通じ,使用理論を形成したリーダー13名とそのフォロワーに対し,ダブル・ループ学習の傾向を識別する基準を設定し,比較ケース・スタディにより分析した.その結果,ダブル・ループ学習の傾向のあるリーダーは建設的な対話を通じて予測範囲を広げ,使用理論を改訂していることが見出された.
『組織科学』第55巻第3号,72頁,左段13行目および図8内の式に誤植がありましたので,以下のとおり訂正します。
(誤)∆Y/∆X = -0.874 + 2.770X
(正)∆Y/∆X = -0.874 + 2.770Z