本研究では,商業高校生のアントレプレナーシップを高めるメカニズムについて定量研究を行い,以下の3点を明らかにした.①生徒のアントレプレナーシップを高めるには越境学習を促進することが有効である.②越境学習の促進にはサードプレイス特性を実践共同体に持たせることが有効である.③サー ドプレイス特性を高めるには教員がサーバント・リーダーシッ プを発揮し,実践共同体に自発性や非公式性を持たせることが有効である.
アントレプレナーシップ教育(EE)への社会的期待・機運が高まる一方で,研究・実践における論点は多く残されている.本研究では,問題化レビューの手法を通じて,EE研究における起業意思の実証的研究112報告を分析した.その結果,2010年代より先行研究で指摘されていた問題点の加速と研究・実践の近視眼化を特定した.これらの克服に向けた今後の研究アジェンダとデザインの提言を行う.
各成長ステージの助成金からスタートアップはどのような資本を得られるのか.本研究では日本の技術系スタートアップを対象にしたアンケートからその解明を試みる.探索的因子分析の結果,創業 - 構想段階における助成金を通じて起業家の成熟度,ビジネスアイデアの発展といった資本が得られることがわかった.一方で構想- 商業化段階の助成金では,チームの成熟度,製品の実用化,業界での正当性といった資本が得られることが明らかになった.
Scheinの8因子モデルの改良版として提案された9因子の キャリア・アンカーモデルの適合性を日本の大企業に勤める1,083サンプルを対象に検証した.定型的なプロセスに沿って誤差共分散を導入し,適合度を勘案しながらモデルの改善を行った結果,創造性因子の概念的実在性を理論面から再検討する必要性が示唆された.また,キャリア志向調査票特有のワーディングの修正が喫緊の課題であることが示された.さらに,誤差共分散をモデルに導入する有用性が示された.
非生産的行動は,組織や被害者だけでなく目撃者にも悪影響を及ぼすと考えられる.本研究では,対人的な非生産的行動の目撃に着目した悪影響の二重プロセスモデルを非生産的行動全般に拡張し,仕事や組織への態度に非生産的行動の目撃が及ぼす影響を検討した.ウェブ調査で集めた402名の回答を分析した結果,非生産的行動の目撃はストレス反応を高め,組織的公正を低下させ,種々のアウトカムに影響を及ぼすことが示された.
企業組織による戦略的な撤退行動は,成員の配置転換を通じて通常であれば生じなかったような社内の知識移転を生じさせる機能を持つ可能性がある.分析の結果,携帯電話事業から撤退した三菱電機株式会社において,携帯電話にかかわる特許の社内における影響力が撤退後に強まっていたことが示された. この結果は,撤退を契機として,ある事業の知識が他の事業で活用されるようになり得ることを示唆する.
本稿の目的は,企業が歴史を戦略的資源として利用するために,長期間にわたってどのような工夫を行っているのかを検討することにある.これに対してパナソニックが刊行した社史の変遷を分析した結果,①歴史利用の制約性を超克するためのラディカルな再解釈による創業者の「神格化」の克服,②歴史資源を利用可能なものとするための公共性の獲得,という段階的な過程が重要であることを明らかにした.
希求水準は組織が達成を期する目標であり,その成否が以後のリスクを伴う意思決定を左右する.しかし希求水準の操作化と実際の目標設定行動との整合性は未検証である.実測が可能な目標である業績予想値の更新行動を分析した結果,前期の業績予想値と実績,各々への加重配分は一定ではなかった.この傾向は組織スラックが乏しい組織で顕著だった.簡素かつ機械的に設定される変動の少ない目標を想定する希求水準には再考の余地がある.
企業不正は個人の動機よりも組織における不健全なパワーに起因する.では,どのような種類のパワーとメカニズムによって不正は起こるのか.日本の東証一部上場企業において2015-2022年に発生したデータ改ざんにかかる第三者調査委員会報告書35件を分析した結果,公式のパワー,規範のパワー,無視するパワーという3種類のコアカテゴリが特定された.そしてデータ改ざんは,公式のパワーの介在がなくとも,規範のパワーと無視するパワーの両立によって発生するというメカニズムを明らかにした.