本稿は,多国籍企業の組織設計に組織内競争の論理を導入することの意味を議論するものである.多国籍企業の内部では,各国拠点が異なる立地優位性に基づいて多様な組織能力を構築している.環境の不確実性が高い時,この多様な組織能力を前提として拠点間が組織内競争を行うことで,企業全体の環境適応可能性が上がりうる.本稿はこれらの論理の妥当性を,昭和電工の事例分析を用いて示した.
製薬企業間の戦略的提携が積極的に行われているが,企業は別々の組織形態を保ったまま協働するため,その信頼構築は困難を極める.特に,国際戦略的提携では信頼関係を構築することはきわめて難しい.そこで,本研究では日米製薬企業間の戦略的提携において,協調性を高めるにはどのような信頼が構築されており,さらにその信頼を高める要因は何かという2点を探った.質問票調査の結果,能力的信頼が協調性を高めていることが分かったが,その能力的信頼を高める要因は日米間でかなりの相違があることが見出された.
経営資源や競争優位性に乏しい地域が立ち上がるのは容易なことではない.本研究は,日本と中国の地域における花卉関連事業の事例を通して,地域がグローバル連携をひとつの触媒として,競争優位の核となる差異化価値の種子を生み出し,これを上手に育て上げ事業開拓を行っていく過程を調査・分析した.力の弱い地域が立ち上るための貴重な示唆として,事例に示されるような多様なグローバル連携の意義を考える.
本研究は広州プジョーの経営破綻の主な要因,及びこの失敗経験が後の広州市乗用車産業の発展に与えた影響について分析したものである.筆者は中国側のパースペクティブからアプローチし,広州プジョーの歴史的なプロセスを整理したうえで,国際合弁事業の理論的な視点から,同社の初期条件,経営状況,パートナーシップの変化,マネジメント・コントロールと組織における問題点について分析を試みた.
本研究は,競争優位の劣化・逆転の要因について,個々の要素技術や製品アーキテクチャのレベルではなく,企業のビジネスシステムのレベルにおいて考察する.これら分析レベルの相違は,問題に対する解決方法の相違にもつながる可能性がある.本研究では,外部環境変化への適応の問題を「認知」とその後の「アクション」の問題に区分した上で,新たな競争優位劣化・逆転の仮説を提示し,事例研究により検証を行う.
組織的決定のゴミ箱モデルは,「構造が未分化になるほど『問題解決』は一般的なスタイルではなくなり,『見過ごし』と『やり過ごし』が増える」としてきた.そこで,シミュレーションによって検討したところ,⑴構造が未分化になっても,「問題解決」に大きな変化はなく,むしろ「決定を要求される頻度」が低いと増加する傾向がある,⑵「見過ごし」が急減する,⑶「やり過ごし」が急増することが明らかとなった.
会社法第105条①は,株主の三つの権利を,1)剰余金の配当を受ける権利,2)残余財産の分配を受ける権利,3)株主総会における議決権,としている.本稿は,このうちの1)残剰余金の配当を受ける権利,3)残株主総会における議決権に,持分比率を維持する権利を加えた三つの権利に焦点を当てる.戦後の日本企業の経営者がこれらの権利を侵害したことを,既存の調査・研究,論文・論考のサーベイと独自の分析に基づいて示す.