本稿では,イノベーションの議論は,製品/サービスを生み出す側の論理に基づき顧客のニーズ(価値の一部)を満たすような機能の開発を中核にしたものから,顧客の保持する価値の総体を満たせるように,「経験」を顧客の視点から創りあげるものへと移り変わっていくべきであるという立場をとる.その立場から,経験革新を今後研究するための第一歩として,経験と近接するサービスを取り上げ,その革新を考えたものである.
技術と経営の接近,一体化は商品開発の生命線であるが,最近はデザインのファクターを加えることが大変重要になっている.デザイナーのもつイメージ,感性を技術者,経営者に明確に伝達するためには数値化しなければならない,“Data Driven Technology”が必要である.この変換のスピードア ップ,相互理解がビジネスとしての成功に大きく影響する.実例としてお尻洗浄機(ウォシュレット)をとりあげ,技術・経営そしてデザインの関係を分析,ポイントを明確にする.
薄型テレビやDVD機器を代表とするエレクトロニクス産業では,急激な価格低下によって収益獲得が困難になりつつある.本稿はテレビにおけるイノベーションの展開を観察することで個別企業の取り組みに触れ,ブラックボックス化による利益獲得の難しさを指摘する.そして,より高度な利益獲得方法を模索するため,近年の収益獲得に向けた取り組みからハード以外(ソフトウェア,サービス)のイノベーションの重要性を指摘する.
本稿では,技術革新をきっかけとした既存品と代替品の代替構造を分析し,代替戦略の構築方法を提案する.まず,代替品と既存品の関係を4つに分類し,各分類毎に代替品企業の攻撃戦略と既存品企業の防衛戦略の定石を示す.次に,提案するフレームワークをICタグの事例に適用して,方法の有効性を例示する.代替品と既存品は,買い手のニーズをそれぞれの製品機能によって取り合う構造になっている.この機能に着目する考え方が本稿に一貫する着想である.
コーポレートR&Dの技術的成果にとって,事業の構想やビジネス・アイデアの持つ意味を明らかにするのが本研究の目的である.この論点について探求するため,本論文では,R&Dプロジェクトを単位として調査を実施した.その結果,重量級PLの存在と事業部知識の反映の2要因がR&Dプロジェクトの技術的成果の向上に寄与していること,および技術的不確実性がモデレータ要因となっていることが確認できた.
日本の自動車産業における部品取引は,サプライチェーン・マネジメントの理想的なモデルとして注目されているが,トヨタグループと日産グループでは,取引企業間の利益とリスクの分配のパターンが異なっている.本研究では,自動車産業のような長期継続的取引において,アセンブラーとサプライヤーが,ともにメリットを得るためにはどのように利益やリスクを分配する必要があるかという問題について,財務データに基づいて考察を行っている.
中国では,会社制度の改革に伴い,多様な企業統治構造が生み出されつつある.本論では中国企業の統治構造のタイプと企業業績の関係を分析し,高い業績をもたらす企業統治構造を探る.統計分析の結果,「有効な牽制力を有する公的株主」が存在するような企業統治構造が有効であることが明らかになった.この結果は,中国では単純な民営化ではなく,政府が実効的な牽制株主となるような民営化が望ましいということを示唆している.
本稿の主たる目的は,新興企業における創業社長の交代を含めたTMT の構成と組織の成長性との関係を探求することにある.そこで新興企業のマネジメントの変節点としてIPOを取り上げ,TMT を分析単位とした実証分析を行った.その結果,創業メンバー比率とIPOに際し加入した新メンバー比率の適度な高さがIPO後の成長性を高める重要な要因であることが見出された.