日本の各地には興味深い工業集積地が広く成立している.そして,それは地域経済の主要な担い手としての役割を演じてきた.だが,全国の工業集積地は,地域内の大手企業のアジア移管などにより,現在,大きな曲がり角に直面している.本稿では,全国の工業集積地の中でも,精密機械工業の集積によって知られる長野県岡谷に注目していく.現状の岡谷の苦しみと,それに対する取り組みは,全国の工業集積地の先駆的なものであろう.
昏迷する日本の産業にとって,情報技術を利用することによって日本の産業集結を更に高度なものへと変化させることと,需要側と供給側のコラボレーションを可能にすることが必要である.これによって日本の産業が行ってきた高度化の方向と,多様で高い価値を持つものづくりを目指すことが可能になる.
量産市場でアジア諸国との厳しい価格競争に曝されているわが国の製造業では新たなものづくりの方向が模索されている.その一つが,製造の小ロット,短納期化への対応を背景として,ユーザと製品の設計過程から協力する超多様な市場の創出である.本稿では,このようなものづくりの展開の契機として,大学における研究試作への工業集積の協力を提案し,自律移動ロボットの試作事例を通じて,その可能性と課題を検討する.
本稿では,中小企業工業集積を基盤に持ち,分散型の繰返し単品受注生産システムによって作り手企業と使い手の消費者が直結したオープンなものづくりという新たな産業構造のビジョンを論じる.そこで⑴設計図をユーザにオープンにして作り手と知識を共進化させる,⑵多数の中小企業を結んで繰返し単品受注生産による生産を効率的に行えるといった特色を持ち,需要家の側に工業製品の多様性のソースがあるものづくり新しい産業構造について,その産業創成の可能性とそのために必要なビジョンと制度,生産システムやビジネスモデルの構造などを検討する.
京都の産業集積には,都としての特徴が影響している.まず,それは都の産業集積を起源とし,リスクテイカーとリスクアボイダーの共存が,生業的形態を含む様々なモデルを域内で誕生させた.さらに都の文化としての誇りとあいまい性があり,それは変化指向のクリティカルシンキングと多様性の受容というメタルカルチャーにつながった.それらは日本においては,異質なリスクヘッジ機能を醸成させる.これらの数々の要件を踏まえて,京都産業集積の新しい試みも始まっている.
本稿の目的は,日本の製造業におけるNC工作機械の技術普及を分析対象とし,その規定要因を実証的に明らかにすることにある.本稿の基本的な主張は,NC化以前の旧技術における学習,知識の蓄積が新技術の採用を促進する要因であったというものである.換言すると,代替的な新・旧技術間には,技術能力の点でスピルオーバー効果が存在しており,それが技術普及に決定的に重要な役割を果たしていたのである.