産学連携政策は,地域クラスターにおける産学間での先端的な知識と市場ニーズに関する知識移転ネットワークを開発し,地域的なイノベーション能力を活性化することが目標の一つである.本稿は,関西バイオクラスターにおける2000年代の組織間の共同特許ネットワークについて経時的分析を行い,研究開発面での産学間の組織間の知識移転ネットワークが構造的に成長したものの,経済成果になかなか結びつかない面を検討する.
データの活用は,合理的な政策決定にとって重要である.しかし,複数の異なる業種の組織にまたがるデータの共有や活用は,ほとんど進展していない.この問題を解決するため,組織を横断したデータの共有,連携,相互運用を可能とするソーシャルデータコモンズについて提案する.そして,利益共同体がエビデンスに基づいて政策立案を行うためのデータ駆動政策決定支援システムの社会実装例について述べる.
本研究では,組織内外データ活用について実証分析を行う.分析の結果,自社データ活用率は36%,他社データ活用率は19%に留まることが分かった.さらに,「経営者がデータ活用を学ぶ」,「代表者を若い人とする」,「企業規模を大きくする」,「社員の自発的参加を促し,合理的管理をする」,「強制的,命令的な組織とし,データ活用をトップダウンで実行する」等の要素が,データ活用促進戦略として有効であることが明らかになった.
多くの分野で,標準や特許による技術の開示を通じて,不特定多数の企業間にわたる技術の共有が進んでいる.技術の共有により,企業は産業や技術の進歩に影響を与えることが可能である.一方で,技術の共有は企業の能力を喪失させる恐れもある.本稿では,移動体通信分野における標準必須特許の引用を時系列的に検討し,技術共有を通じた,企業の効果的な知識構築を理解するための,分析の視点と手法を提示した.
本研究の目的は,顧客と知識の関係を明らかにすることである.本研究の問いは,顧客関係の広さと深さが知識の広さと深さにどのような効果を持つかである.本研究では,ポートフォリオの概念を用いて顧客の構成を捉えた.日本の特許・法律事務所100件を対象にした実証分析の結果明らかになったのは,次の三点である.⑴顧客ポートフォリオを広げると知識も広くなる,⑵顧客ポートフォリオを大口顧客に集中化すると知識は深まる,⑶顧客ポートフォリオを大口顧客に集中化すると知識を広げることはできるが,顧客ポートフォリオを広げても知識は深まらない.
本稿は,主に金融業界を例に,既存企業が新規参入企業に自社プラットフォームへのアクセスを許容した結果,ある期間を経て新規参入企業による既存企業の既存ビジネスへ参入を招いてしまうメカニズムを論じる.具体的にはEC決済代行へ参入したベンチャー企業が,ある期間を経てデビットカード決済への参入を果たした過程を分析する.そして,現在進行しているAPI活用の潮流が,既存企業の将来にもたらす影響を実務的観点から示す.
先行研究が企業間の協調に注目してきたのに対して,本論文は共同研究開発プロジェクトにおける協働(参加主体間の行為の調整)が共同研究開発の成果に及ぼす影響を探究した.新エネルギー・産業技術総合開発機構の支援を伴う研究開発プロジェクトのデータを分析した結果,自律的なプロジェクトほどプロジェクト内部の協働の程度が高く,そうしたプロジェクトほど事業化可能性の高い技術的成果を獲得しやすいことが明らかになった.
東日本大震災後に起きた空洞化危機を脱するために,日本の中小製造業者はグローバルな生産拠点の見直しを行った.本稿は,DC(dynamic capabilities)論の文脈で,拠点配置戦略の成功の源泉が,新たな学習を通じて獲得できたDCによるものなのか,現場競争力の強化(OC:ordinary capabilities)によるものなのかを問題にする.検証の結果,前者の影響の方が大きいことなど,いくつかの知見が得られた.
本研究は情報サービス産業における産業内多角化と業績の関係に資格の多様性が与える効果を分析した.産業内多角化の先行研究は技術資源が重視されるハイテク産業の研究が主であり,産業特性などの影響が考慮されていなかった.本研究の分析結果から,受託型事業である情報サービス産業では産業内多角化と業績に逆U字型の関係が存在し,資格の多様性が逆U字型の関係を強化するモデレータの役割を果たしていることが判明した.