近年,イノベーションに関連した文脈で「エコシステム」という分析単位でビジネスを議論することが頻繁に見られるようになっている.本稿では,このやや曖昧なエコシステム概念を,新しい価値システムの構想の実現に対して人工物(artifact)の開発・生産などによって貢献するエージェントの集合体として定義し,その含意について議論する.
IT産業におけるイノベーションの相互依存的性質を考慮し た時,3つの中核的な原理,すなわち選択,機会,そして相互運用性の原理が,エコシステムの原理として指摘できる.本稿では,PCを中心とした時代のソフトウェアのイノベーションから,近年のウェブを中心としたソフトウェアのイノベーションに移行していく際に,これらの原理が継続して重要であったことを確認する.
本稿は,企業間競争を「資源吸引」という視点から議論する.資源吸引とは,当該企業が相手先の限りある経営資源を,どれだけ優先的に自社に配分してもらえているかを表す言葉である.本研究ではコンビニエンス・ストアのセブン-イレブンの事例を通じて,この資源吸引がビジネス・パートナーとの長期的な協調関係から生み出されることを明らかにする.また理論的な課題をビジネス・エコシステムとの比較を通じて議論する.
本稿では,複数のエコシステムからなる製品システムを,パラレルプラットフォーム市場と呼び,その市場特有の戦略的観点について事例分析を通じて論じる.事例分析から抽出されたポイントは以下の5つである.⑴ネットワーク効果のマネジメント,⑵利益格差のマネジメント,⑶セットとしてのプラットフォーム製品のマネジメント,⑷結合プラットフォームのマネジメント,⑸マルチホーミングのマネジメント.
デジタルゲームは,アーケードゲームとコンシューマゲームに大別される.本稿はコンテンツの権利関係および継承関係と階層性の観点から,デジタルゲームのコンテンツ間関係モデルを導出し,原作・補完コンテンツの移行オプションのパターン化を試みる.デジタルゲームの事業者側が原作・補完コンテンツの移行オプションのデザインの視座を持つことは,エコシステムの構造把握や断続的な業績変化の予測に役立てることができる.
研究開発の対象を拡大することは,変化の激しい業界において不確実性を吸収する機能を強化し,組織の存続可能性を高める.しかし,経営資源の制約により,市場の変化に対し機動性が鈍化する可能性もある.分析では半導体メーカー10社をサンプルとして,米国特許の取得状況から研究開発における探索の範囲と機動性の関係を検証した.その結果,探索範囲の拡大によって,組織に蓄積される知識は多様化していること.しかし,探索範囲の広い組織は,研究開発の機動性を低下させていることが明らかとなった.
本稿の目的は,老舗企業の長期存続のメカニズムを明らかにすることである.RBVの影響下にある老舗企業研究の多くは,老舗特有の伝統的資源の現状分析を中心に行ってきた.本稿では,全国で最も古い歴史を有する味噌メーカーを取り上げ,長期存続プロセスの経時的分析を行う.事例分析から,伝統的資源の維持,活用といったサステイナブルな戦略によって長期存続を確保する老舗企業のダイナミズムが明らかとなる.
本研究では海外派遣から帰国した帰任者の新組織への適応を組織再社会化と捉えた上で,先行研究の理論的枠組みを批判的に継承しつつ,情報入手行為,期待,および組織適応という3者間の関係の検討を行い,モデルを構築した.そして,多国籍企業に勤務する海外帰任者を対象とした調査をもとにモデルの検証を行った.分析の結果,本研究が提示するモデルは支持され,情報源としての上司の役割の重要性も見出された.この結果を踏まえ,理論および実践への提案を行った.