JCO事故,金融不祥事,食品偽装事件など,企業の非倫理 的行動によって社会の安全が脅かされる事例が頻発している.正規の意志決定によって非倫理的決定がなされている事例が多い.本稿はそれらの原因として,意志決定手続の不備,不適切な忠誠心,内部申告制度の未発達,不適切な組織風土,不適切な権威主義の問題を指摘し,その一部につき,それを実証する調査データを提示した.このような認識に立ち,社会心理学的手法により,企業行動の安全性と倫理性の維持・向上を目指す具体的な手だてを例示した.
仕事におけるコンスタントな成果は,個人の高い意欲,必要な知識やスキルの学習,およびチームによる創造的なコラボレーションによって生まれる.これらを促進する心理的条件について最新の研究知見をもとにして整理を行い,「目標」の設定がこれらのいずれをも促進する重要な要因であることに気づく.これを踏まえて,近年の我が国において制度として実施されている「目標による管理」の効果的な運用方法について応用的な示唆を提供する.
本稿は広義の進化心理学が組織研究に対してもち得るインプリケーションを論じる.Toda(1961)の「キノコ喰いロボット」を題材に,適応的視点が人間の心理・行動のデザインを探る上で有効であることを示す.次に,人間にとっての中心的な適応問題が,集団生活における正負の相互依存構造から生まれることを論じる.本稿では,社会規範の維持を中心に,組織・集団におけるマイクロ-マクロ・ダイナミクスの特徴を適応の観点から素描する.
キャリアの危機として「非自発的失業者の再就職活動」を取り上げ,これを危機状態という観点から捉えなおし調査を行った.具体的には,再就職を果たした様々な年代の非自発的失業者に対するインタビューを通じて,非自発的失業者が行う再就職活動プロセスにおいて対処する6つの心理的課題として「前所属企業に対するネガティブな感情」「再就職に対する不安」「看板はずし」「働き方の再確認」「居場所の確保」「配偶者との課題の共有」を明らかにした。
実験的研究方略は,因果関係が記述できるなど,他の多くの手法にはない長所を持っている.組織論が反証可能性を確保した通常の科学として発展を遂げていくためには,欠かすことのできない研究方略である.しかし一方で,厳密な科学的手続きを重視するあまり,現場の意思決定の生き生きとした部分の分析は自重してきた観がある.今後は柔軟に新しい領域に展開していくことによって,組織研究全体の発展に資することが期待される.
従来,組織行動の測定は古典的テスト理論にその多くを依拠してきた.しかし,古典的テスト理論は,最近の変貌する組織環境で適切な測定を行う上で深刻な問題に直面している.古典的テスト理論に代わって登場した項目反応理論が,この組織行動測定上の問題点を克服できるか否か,項目反応理論の持つ特長を整理した上で,実際の組織行動測定上の問題点を指摘しながら論考する.
3次元CAD技術と開発効率の関係性を観測すると,理論的 な帰結と実証分析の結果との間には不整合性がある.なぜこのような不整合がおこるのであろうか.本論文は,3次元CAD 技術と開発効率との間の関係を,企業間コミュニケーションを考慮しながら共分散構造分析を行ったものである.分析結果として,3次元CAD技術は,問題解決サイクルの数を減らして開発効率の向上に貢献する正の効果と,企業間のコミュニケーションの量や頻度の増加によって問題解決サイクルの数を増やす負の効果を同時にもたらしていることが見出された.この結果により,前述した不整合はこれら両方の効果が打ち消しあうため,3次元CADの使用と開発効率との間に相関が見出せなかったと解釈できよう.