本稿では,人々が「残業を肯定的に捉える他者の信念」を実際よりも過大に推測している可能性(i.e., 多元的無知の生起),そして多元的無知が行動に及ぼす影響における心理的安全の調整効果を検証した.その結果,残業に対する他者の肯定的態度を人々が実際よりも過大視していたことと,多元的無知状態の個人は,職場の心理的安全風土を高く知覚していると意見表明が促進されることが示された.
本論文の目的は,近年組織行動論で注目され始めている非倫理的向組織行動(Unethical Pro-organizational Behavior:UPB)を理論的に検討することである.蓄積されつつあるUPBの先行研究をレビューし,UPB概念と他の類似概念との違い,社会心理的メカニズム,およびUPBを扱った経験的研究の内容について整理する.そのあとで今後のUPB研究の発展に資する考察を加える.
日本企業の職場と人事管理に関する2つの変化について2時点で収集されたデータを用いて,ソーシャル・キャピタルと人事管理施策が職場業績に与える影響を検討した.分析の結果,ソーシャル・キャピタルが職場業績に影響を与えることが確認され,さらにソーシャル・キャピタルの規定要因として能力開発施策が有効であること,さらに予想に反して成果主義施策がソーシャル・キャピタルに正の影響を与えることが明らかになった.このことからソーシャル・キャピタルの形成においては,これまで人事管理で整合的とされていた内部育成と年功的処遇の組み合わせではなく,内部育成と成果主義という組み合わせが合理性を持つことを指摘する.
有力とされてきた知見や議論に,発想を縛りつけられていることはないのか? 組織が抱えているパラドックスの観点から,組織,集団,個人を見つめ直してみると,重要でありながら,看過されている組織行動のダイナミックスと原理が洞察できる.本稿では,モチベーション,リーダーシップと集団活動,そして創造性とイノベーションの3つの領域に絞り,パラドックスを意識化することで,従前の見解や論理をとらえ直し,再考を迫っている新たな研究も随時引用しながら,組織行動研究の新たな展開可能性について論じる.
本稿の目的は,破壊的イノベーションによる転換期に,転換への適応が困難な既存企業とアライアンスを結んで新規技術を提供する,という新興企業の事業機会について検討することである.市場調査業界における技術転換を事例として分析した結果,業界の既存企業,新規技術を用いる先発の新規参入企業,および後発の新規参入企業の者の間での競争関係が,新旧3企業間でのアライアンスの先行要因として示唆された.
改善活動は,分権的組織によって創出される多数のインクリメンタル・イノベーションの集合として,半ば規範的に捉えられることもある.これに対し本稿は,インクリメンタル・イノベーションとしての改善活動の実態が必ずしも上記規範に一方的に規定されるとは限らないと指摘し,そこには「どのような規模のものに集中し,どのような組織で取り組むか」という全社的な戦略的意思決定の余地が残されていることを明らかにした.