組織進化のモデルは変異-選択-保持の3段階からなる.組織変動研究に進化モデルが多く採用されてきた理由は,変異の段階に組織の自発的・創造的な側面を,選択の段階に環境からの影響を強調するというかたちで組織と環境の相互作用を変動分析に組み込むことが可能な点にある.進化モデルはいくつかの局面で「時間」の捉え方が重要な意味をもつ.本稿では時間について従来の循環型・線型の区別に加えて有界型・無界型の区別を導入し,組織=環境関係のモデルの精密化を図ると同時に現代日本に生じている組織進化の状況について考察する.
本論文は,データ・リッチな実証研究を行なうためのコンソーシアムを形成して行なわれている,組織の 重さ プロジェクトの主要な知見を紹介する.コンソーシアムに参加した企業のBUに関しては,内部調整に約4割の時間が割かれていること,また比較的容易に調整が達成できる組織は有機的組織の特徴と機械的組織の特徴を両方備えていることが明らかにされる.
電機・精密機器業界の一部上場企業を,長期にわたる売上高営業利益率の降順に並べてみると,上位を占めるのは創業第一世代期にある企業で,下位を占めるのは創業第一世代が姿を消した後の企業であることがわかる.経営体制の属性は時の流れとともに必然的に変わりゆくが,それに応じて業績水準も変位する可能性がここに示唆される.本稿は,その可能性をデータで実証し,変化の早い企業と変化の緩やかな企業の間に横たわる差異を探索的に検証した.
企業間の競争力差の内実を根本から解明するためには,経営戦略論と技術・生産管理論の連携が望ましいが,現実には空隙が生じている.これを埋める一策として,「組織能力」概念を中核においた「長期継続的なデータ収集に基づく定量的・定性的実証分析」が有効だと論じる.例として,筆者らが20年以上続けてきた「自動車製品開発国際比較調査」を示し,組織能力の具体的中身や発生過程の動態を理解するには,長期間の測定や定点観測が不可欠だと主張する.継続は力である.
本稿の目的は,東大阪地域の金型産業の事例研究を通じて,産業集積が存続してきた理由を検討することである.金型産業では需要変動に対応するために,独自の取引の仕組みが存在する.さらに,その形成プロセスでは,既存企業から放出された人材が,取引の仕組みの中に組み込まれる形で創業を行っていた.産業集積が存続してきた背景には,取引の仕組みと創業が密接に関係している可能性がある.
組織メンバーの自発性発揮の典型としてコンプライアンス経営において注目される内部通報を取り上げ,自発性発揮をどのように捉えるべきかを理論的に検討する.組織市民行動との対比から内部通報の特性として複合性の増大を取り上げ,それを起点とした複合性縮減の可能性を指摘する.さらに,こうした組織メンバーの自発性発揮による複合性の提供を活用するための手がかりとしてルーマンによる相互浸透概念を提示する.
本稿では,アサヒビールの組織革新を概念変化という認知現象から追及する.この概念変化を追及する方法としてテキストマイニングという手法を用いる.テキストマイニングを用いた発見事実として,アサヒの組織革新に先行する形で,概念数の増加および概念の変化が見られることを挙げる.最後に,認知的組織革新研究との知見と本稿での発見事実から,認知的組織革新研究でのモデルと作業仮説を提示することにする.