日本臨床外科学会雑誌
Online ISSN : 1882-5133
Print ISSN : 1345-2843
ISSN-L : 1345-2843
59 巻, 2 号
選択された号の論文の53件中1~50を表示しています
  • 小林 建司, 福井 拓治, 橋本 俊, 真辺 忠夫
    1998 年 59 巻 2 号 p. 327-330
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    進行大腸癌患者に対する病名,病状のより良い告知の方法を考える目的で患者,および家族に対する告知後のアンケート調査を行った.
    前期は家族に本人への告知の同意を求め,同意の得られた患者にのみ告知した.その結果,アンケートに回答した患者12名のうち1名が告知を受けたくなかったと回答した.そこで,後期は患者自身の意志が重要であると考え,まず患者に病状説明を受ける意志を確認した後,希望した患者(18名)にのみ告知した.アンケート結果からは,後期の方法で,患者,家族とも満足していると考えられた.しかし,現時点では,日本において主治医の判断での一方的な告知は時期早尚であり,患者の病状を正確に知る権利と知らずに過ごす権利とを重視した告知が重要である.
  • 三瀬 圭一, 菅 典道, 児玉 宏
    1998 年 59 巻 2 号 p. 331-338
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1979年11月より1996年12月までの女性乳癌初回手術症例2,413例中490例(20.3%)に再発を認めた.初回局所(患側胸壁)再発症例は107例であり,他病死4例を除く103例を対象として予後およびその関連因子に関して検討した.無病期間(disease free interval: DFI)は平均24カ月(中央値18カ月),再発後3生率57.9%, 5生率39.4%,また手術後5生率59.8%, 10生率35.4%であった.DFI (p=0.0002),エストロゲンレセプター(p=0.0004),他臓器転移合併(p=0.0313)の3因子が有意な予後関連因子であった.他臓器転移合併症例では転移発生期間がその予後に有意に (p<0.0005) 影響した.局所再発様式を病理組織像から3型(筋内型,皮下型,皮内型)に分類すると,筋内型の予後は比較的良好であったが,皮内型は予後不良であり全身病と考えられた.局所再発の予後関連3因子に局所再発様式,転移臓器,転移発生期間を加味した再発時における局所再発の病態分類が必要と考える.
  • 森山 裕煕, 岡村 進介, 桧垣 健二, 小野 田正, 塩崎 滋弘, 大野 聡, 二宮 基樹, 池田 俊行, 小林 直広, 朝倉 晃
    1998 年 59 巻 2 号 p. 339-343
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    最近26年間に当科で経験した原発性乳癌1,600例のうち114例 (7.125%)に他臓器との重複癌を認めた,乳癌を第1癌とするものは65例(A群),他臓器癌が先行するものは男性1例を含む27例(B群),そして乳癌との間隔が1年未満とした同時性例は22例(C群)であった.第1癌の治療ののち発生した第2癌は, A群では1次関数的に増加しているのに比べ, B群では約半数の症例が10年をすぎても認められた.重複臓器別では,一般と同様に消化器系が多いほか,B群では子宮が44.8%と最多で同じ女性ホルモンの環境がうかがわれた.乳癌進行度はA・B群ともI・II期が多く,予後は重複癌の進行度に左右されることが多かった.乳癌後の後療法による第2癌の発生に関しては統計学的有意差は見られなかったが, CPAの影響が推測された急性リンパ性白血病の発生を1例経験したので併せて報告する.
  • 戸倉 夏木, 小林 一雄, 加瀬 肇, 鷲沢 尚宏, 松本 浩, 大谷 忠久, 渡辺 正志, 中崎 晴弘, 永澤 康滋, 辻田 和紀, 柳田 ...
    1998 年 59 巻 2 号 p. 344-350
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胃癌の術前後補助免疫化学療法が,どのように宿主へ影響を与えるのかをみる目的で,1988年から1993年までに根治度A, Bの手術を行ったstage II&III胃癌のうち術後同一の化学療法を行い,免疫パラメーターを1年間観察し得た34例を対象とした.そして化学療法単独群 (UFT, MMC) (n=16),術前・術後OK432併用群 (n=10),術後PSK併用群 (n=8) と3群に群別した. OK432併用群は術後1カ月以降CD4 (+) CD45RA (-) (helper T) 細胞比が高値で, CD11b (+) CD8bright (+) (suppressor T) 細胞比は術後2週以降低値で推移した.またCD11b (-) CD8 (+) (cytotoxic T)細胞比は3カ月目, 6カ月目に高値を示した. PSK併用群は術後2週以降CD11b (+) CD8bright (+) 細胞比が低値で推移した.以上より,進行胃癌に対する補助療法として,化学療法に併用する免疫賦活剤が宿主免疫能を改善する効果を認めた.
  • 森永 聡一郎, 今田 敏夫, 蓮尾 公篤, 笠原 彰夫, 宮崎 卓哉, 鈴木 弘治, 野口 芳一, 天野 富薫, 田辺 浩悌, 赤池 信, ...
    1998 年 59 巻 2 号 p. 351-356
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    大腸癌肝転移根治的切除32例について検討した.再発は75%にみられ,再発部位は残肝再発のみ33.3%,残肝および肝外再発37.5%,肝外再発のみ29.2%であった.残肝再発は,肝転移の程度Hl症例にくらべ, H2・H3で有意に多くみられ,原発巣の因子では有意差が無かった.生存率は, H1症例で5年累積生存率50.0%, H2・H3症例では3年生存例はみられなかった. H1症例の検討では,壁深達度の進行例で予後不良の傾向がみられた.肝転移切除後の肝動注補助化学療法により,残肝再発率,生存率ともに改善する傾向がみられたが有意差は無かった.肝切除後再発例の66.7%に肝外再発をきたしていることから,さらなる治療成績の向上のためには,残肝再発予防のための肝動注と,肝外再発予防のための全身補助化学療法を有効に組み合わせていく必要があると考えられた.
  • 平松 聖史, 千木良 晴ひこ, 加藤 岳人, 柴田 佳久, 尾上 重巳, 杢野 泰司, 吉田 克嗣, 安部 哲也, 江崎 稔, 前多 松喜
    1998 年 59 巻 2 号 p. 357-360
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1988年1月から1994年12月の間に経験した直腸カルチノイド腫瘍16例を臨床病理学的に検討し,外科的根治手術の適応について検討した.全例内視鏡的あるいは経肛門的に腫瘍が切除され,組織学的にカルチノイドと診断された.腫瘍径が10mm以上でリンパ管侵襲陽性の3例に対し外科的根治手術としてリンパ節郭清を伴う腹会陰式直腸切除術が行われた.それ以外の13例は腫瘤切除のみ行った. 16例の腫瘍径の平均は9.8mmで,径15mm未満の14例はすべて深達度sm, 15mm以上の2例は深達度はそれぞれmp, alで,第2群リンパ節転移を認めた.平均50.7カ月の観察期間で局所再発,遠隔転移例はみられなかった.以上から,直腸カルチノイドに対する外科的根治手術の適応は,腫瘍径15mm以上が妥当と思われた.
  • 筒井 完, 山口 浩史, 佐々木 一晃, 平田 公一
    1998 年 59 巻 2 号 p. 361-367
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    低位前方切除術後1年以上15年未満の長期生存例についてアンケート調査を行い(回答率96.7%), 89例について排便障害を中心としquality of life (QOL)を検討した.歯状線~吻合線間距離でみると,排便回数は2cm, 5cmそれぞれ4.3±1.6回, 2.9±0.9回(p<0.02), soilingは2cm 69.2%, 4cm 23.7% (p=0.009), 5cm 19.2% (p=0.003),下剤の使用は2cm 69.2%, 5cm 30.8% (p=0,026) で有意差を認めたが,便とガスの識別,残便感は有意差が無く,排便障害は直腸complianceの低下と口側結腸の授動操作に基因する腸管運動異常が関係すると推測した.戸外活動,宿泊旅行の参加では有意差は無かったが2cmで支障が増す傾向が認められた.手術結果に対する患者の評価は満足,おおむね満足計87.60%,やや不満12.4%で,後者は2cmで多い傾向を認め,郭清と無関係に頻回排便が理由で多かった.本術式は一般に満足度が高いが吻合が低位の場合,貯溜嚢造設がQOLに役立つと考えられた.
  • 山口 敏之, 横川 雅康, 鈴木 衛, 山本 雅巳, 中島 邦喜, 三崎 拓郎
    1998 年 59 巻 2 号 p. 368-373
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    虚血-再還流を受けた組織には白血球が集積することが知られている.腹部大動脈瘤手術においても腹部大動脈の遮断と解除がなされるため,下肢は虚血-再灌流に晒される.われわれは,腹部大動脈瘤手術後の下肢への白血球の集積の有無を検討するため,腹部大動脈瘤患者8例を対象として術前後に定時的に大腿静脈血中と橈骨動脈血中の白血球数を算定した.好中球数と単球数は腹部大動脈遮断解除後に静脈,動脈の両者において有意に増加し,リンパ球数は逆に有意に減少した.しかし大腿静脈血中,橈骨動脈血中の好中球数,リンパ球数の間に統計学上有意な差は認められなかった.腹部大動脈瘤手術時には,大腿静脈血中と橈骨動脈血中の白血球数に差が生じる程大量の下肢への白血球の集積は生じていないものと考えられた.
  • 土井 美幸, 浅越 辰男, 花谷 勇治, 三吉 博, 長岡 信彦, 葉梨 圭美, 小平 進, 今村 哲夫
    1998 年 59 巻 2 号 p. 374-377
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腋窩リンパ節転移を主訴とする潜在性乳癌 (Occult carcinoma) を4例経験した.このうち2例は腫脹リンパ節生検・病理像より同側乳癌からの転移と診断し, 1例はリンパ節の穿刺吸引細胞診の病理像より同側乳癌の存在を予測できた.しかし他の1例(37歳,女性)は,腫脹リンパ節の生検を施行したが,病理学的に未分化腺癌の中に扁平上皮様成分の混在を認め,極めて悪性度の高い腺癌由来のリンパ節転移病変と推測された.原発巣の同定が困難であったため,全身検索を施行した.その結果,甲状腺嚢胞・大腸ポリープ・卵巣嚢腫が認められたが, CT上これら臓器から腋窩までの途中経路にリンパ節腫脹がなく,消去法にて同側乳癌の存在を同定せざるをえなかった.画像診断機器の進歩に伴い乳腺内病変の診断能が高まってはいるが限界もあり,積極的なリンパ節生検が本病変の的確な診断には最も大切であると考えられた.
  • 瀬戸 啓太郎, 松下 昌弘, 秋山 高儀, 斎藤 人志, 喜多 一郎, 高島 茂樹
    1998 年 59 巻 2 号 p. 378-382
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肝に圧痕を形成し,その圧痕に陥入した肋間神経原発神経鞘腫の稀な1例を経験したので報告する.患者は63歳,女性.主訴は右季肋部痛.身体所見では右側胸壁下部に皮膚の軽度膨隆を認めた.腫瘍マーカーを含む血液生化学的検査に異常はなく,腹部超音波, CT scanでは肝右葉S5に陥入する径約5cmの腫瘤陰影を認めた. MRIでは腫瘤はT1強調像で肥厚した被膜を有し, gadoliniumにより内部が造影され, T2強調像で高信号を呈した.血管造影では右第9肋間動脈よりの腫瘍血管を認めた.以上より,腹壁原発腫瘍の診断で手術を施行した.手術所見では腫瘍は右側腹壁より腹腔内に半球状に突出し,圧痕を形成した肝S5に埋没していた.肝との癒着はなく周囲腹膜を含め腫瘍を摘出した.摘出標本では腫瘍は白色で光沢のある弾性軟6.0×4.5×4.0cmの腫瘤で,割面は黄色で,中央部に嚢胞を認めた.病理組織学的には神経鞘腫で, antoni type AとtypeBが混在してみられた.
  • 中尾 雅朋, 吉井 康欣, 衣笠 誠二, 小玉 敏宏, 上野 浩, 黒田 克彦
    1998 年 59 巻 2 号 p. 383-387
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肺腫瘍のなかには胸部X線写真・胸部CTなどにて悪性を疑うものの,気管支鏡下肺生検・CTガイド下肺生検にても確定診断が得られないものが存在する.これらの内,末梢型腫瘍病変に対し,診断目的の開胸を極力回避するために胸腔鏡下肺生検は有効であると思われる.今回,胸腔鏡下肺生検にて確定診断を得,開胸下に肺葉切除を施行した肺癌の3例を経験した.症例1に関しては,術前の本人の希望により,症例2は, T2腺癌であったため,症例3は2cm以下の末梢型肺癌であったが,左下葉S6の腺癌のためリンパ節郭清が不充分になることを危惧し,いずれも標準開胸下に肺葉切除および2a群までの完全なる縦隔リンパ節郭清術を施行した.
    これら,確定診断を得るための胸腔鏡下肺生検は3症例ともに有効であった.
  • 中川 浩一, 森谷 宜朋, 大江 新野, 橋本 雅明
    1998 年 59 巻 2 号 p. 388-391
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は72歳・男性.平成8年6月,胸部食道癌に対し根治術を施行されたが,平成9年3月呼吸困難が出現した.胸部CTにて気管分岐部に再発浸潤を認め,このため左主気管支の完全閉塞と左下葉の無気肺を認めた.直ちに放射線療法を開始したが,呼吸困難が進行したため4月1日,気管閉塞部にEMS留置を施行した.挿入翌日にはほぼ最大径まで内腔拡張が得られ,挿入後の疼痛や難治性咳漱もなく呼吸困難および無気肺は著明に改善した. EMS留置後4カ月,胸水貯留の増悪と局所病変の進行により縦隔内血管と穿通し気道内大量出血により死亡した.
    気道閉塞に対するEMS留置は, dilator挿入時の出血やexpandableであるが故の長期留置による周囲臓器に対する瘻孔形成などの危険性も示唆されたが,低侵襲でQOLを劇的に向上することができ,特に末期癌患者に対して非常に有用であり今後の普及が望まれる.
  • 松田 充宏, 佐藤 裕俊, 渡辺 義二, 山崎 将人, 鍋谷 圭宏, 唐司 則之
    1998 年 59 巻 2 号 p. 392-396
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は64歳男性.突然の吐血で発症.近医で上部消化管出血,出血性ショックの診断を受け,当センターに転送された.上部消化管内視鏡検査で,噴門直下前壁に2型病変を認めた.潰瘍面からの出血を内視鏡下に止血できず,胃全摘術を施行した.術中所見はT3N1P0H0M0Stage IIIaであった.切除標本には,内視鏡で認めた2型病変とは独立して,胃体上部後壁にIIa病変も存在した.病理組織検査では, 2型病変部は, N/C比の高い短紡錘型の小型細胞のびまん性の増殖を認めた.また,免疫組織化学染色でchromogranin A陽性, epithelial membrane antigen陽性であり,電子顕微鏡で神経内分泌顆粒を確認したことから,胃小細胞癌と診断した. IIa病変部は,高分化型管状腺癌であった.胃小細胞癌は稀であるが,本症例のごとく腺癌を合併した症例は,内外の文献で過去に2例の報告があるのみであった.
  • 小林 裕之, 井田 健, 青木 孝文, 河本 泉, 寺村 康史, 坂本 力, 田中 豊彦, 松本 正朗
    1998 年 59 巻 2 号 p. 397-401
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    ガストリノーマは稀な疾患で,悪性にも関わらず非常に長い経過をとる場合があることが知られている.最近われわれは,非切除手術から15年後に診断が確定し,その間の自然経過を観察しえた1例を経験したので報告する.
    症例は76歳の男性. 1982年に十二指腸潰瘍の診断で開腹手術を受けたが,このときの所見で,膵頭部の腫瘍,多発性肝転移,総肝動脈周囲の著しいリンパ節腫大を認めた.治癒切除は不可能な膵癌と判断され,広範胃切除のみを施行された.その後CTなどで経過観察されていたが, 1987年頃から受診しなくなっていた. 1996年,腹部腫瘍と体重減少を主訴に来院した.その時の病態の再評価を行ったところ,血中ガストリン値 (1,440pg/ml), CT,血管造影,生検病理所見からガストリノーマとはじめて診断した.
    本疾患は稀ではあるが,胃・十二指腸潰瘍においては常に本症の可能性を念頭に置く必要があると考えられた.
  • 加藤 俊二, 恩田 昌彦, 徳永 昭, 松倉 則夫, 田尻 孝, 田中 宣威, 山下 精彦
    1998 年 59 巻 2 号 p. 402-407
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は,高ガストリン血症をともなう難治性食道,胃,十二指腸潰瘍で初発,経過中に食道の潰瘍搬痕狭窄,十二指腸潰瘍穿孔を併発した.穿孔部の大網充填による閉鎖術と胃瘻造設後, H2レセプター拮抗剤 (ranitidine) およびプロトンポンプ阻害剤 (PPI: lansoprazole) を投与しその効果を全量採取した胃液にて検討したところ, PPIの倍量投与で著明な胃液量の減少と減酸効果を認めた.画像診断や血管撮影によるガストリン値の選択的測定でもガストリノーマの局在を確認できない高ガストリン血症と強度の食道潰瘍瘢痕狭窄に対し, 2期的にガストリンの標的臓器である胃を全摘し軽快したが,短期間の経過中にS状結腸ポリープ, 1年を経過した段階での左結腸癌の発生,さらに半年後の肝転移と多彩な臨床症状を呈し,さらに臓器摘出後の血清ガストリン値の変動など,高ガストリン血症と悪性腫瘍の関連も注目された.
  • 平野 貞夫, 阿南 陽二
    1998 年 59 巻 2 号 p. 408-411
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    小腸アニサキス症による腸重積を生じた稀な症例を経験したので報告する.
    症例は35歳女性. 1994年1月29日サバの刺身を食べたところ, 30日夜より心窩部痛が出現した.近医で胃内視鏡検査を行うも異常は認められなかった.しかし心窩部痛が増強してきたため2月1日当院を受診した.腹部エコーではmultiple concentric ring signを,またCTでも小腸がリング状に嵌入している状態が認められ,腸重積と診断した.さらに小腸造影においても蟹爪状陰影が認められた.開腹したところ, Treitz靱帯より80cmの部位で5cmにわたり腸重積を認めたため小腸部分切除を施行した.肉眼的所見では,切除部位にアニサキスが迷入しており,同部の壁肥厚を認めた.病理組織所見では,アニサキスの迷入・全層にわたる好酸球主体の炎症性細胞浸潤を認めた.小腸にアニサキスが迷入し,その部位を先進部として腸重積を惹起したと考えられた.
  • 吉羽 秀麿, 木下 敬広, 森田 克哉, 大村 健二
    1998 年 59 巻 2 号 p. 412-415
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は12歳,男性.貧血にて入院・加療を受けた既往がある.今回,下腹部痛を訴えて当科に入院となった.血液生化学検査にて,鉄欠乏性貧血を認めた.入院後,下腹部痛の増強に加えて腹膜刺激症状が出現したため,急性虫垂炎の診断にて開腹した.腹腔内には淡血性の腹水が貯留していた.回盲弁より約90cm口側の回腸に,穿孔した大きさ6cm×3cmのMeckel摂室を認め,憩室の楔状切除を行った.虫垂突起には炎症所見を認めなかった.病理組織学的検査にて,憩室頂部付近に異所性の胃底腺組織を認めた.穿孔部は異所性胃粘膜近傍の回腸粘膜領域に存在し,活動性消化性潰瘍の像を呈していた.ギムザ染色にて,異所性胃粘膜からHelicobacter Pyloriは検出されなかった.本症例では,異所性胃粘膜から分泌される胃酸やペプシンによって近接する回腸粘膜に消化性潰瘍を形成し,出血による貧血,さらには穿孔をきたしたと推測された.
  • 林 昌俊, 広田 俊夫, 市橋 正嘉, 多羅尾 信, 後藤 明彦, 田中 卓二
    1998 年 59 巻 2 号 p. 416-418
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    今回われわれは稀な虫垂の杯細胞カルチノイドの1例を経験したので報告する.症例は64歳,女性,右下腹部痛を主訴に受診した.急性虫垂炎の診断で虫垂切除術を施行した.術後の病理組織学的検査にて体部に虫垂杯細胞カルチノイド (mp, ly1, v1) を認め,先端部は蜂窩織炎性虫垂炎の像を呈していた.したがって回盲部切除術, D2郭清を追加した.再切除標本に腫瘍の遺残,リンパ節転移はなく,術後9カ月を経過し,再発の兆候はない.
  • 竹村 隆夫, 野木 裕子, 土肥 直樹, 平林 剛, 井上 康一, 畝村 泰樹
    1998 年 59 巻 2 号 p. 419-422
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    虫垂粘液嚢胞は,虫垂内腔に粘液が貯留し嚢状に腫大した病態を示すまれな疾患であり,正確な術前診断が困難とされている.今回われわれは,嚢胞内の各種腫瘍マーカーが高値を示した1例を経験した.症例は47歳の女性,右下腹部腫瘤を主訴に来院した.子宮内膜症の診断にて開腹したが,子宮内膜症と手拳大の虫垂腫瘍を認めたため単純子宮全摘術および虫垂切除術を施行した.虫垂は表面平滑で弾性軟,単房性嚢胞で内腔には淡黄白色のゼラチン様物質が充満していた.組織学的には単純性虫垂粘液嚢胞と診断された.嚢胞内容液の腫瘍マーカーは, NSE, IAP, CA125, CA15-3, CA72-4, BFPは正常値であったが,CEA2,680ng/ml, TPA1,290U/l, CA19-9 386U/ml, CA-50 726U/ml, SPan-1 950U/ml, SLX 767U/ml, NCC-ST-439 294U/ml, STN 3,690U/mlと異常高値を示した.以上示唆に富む症例と考えられたので,考察を加え報告する.
  • 南部 弘太郎, 佐藤 薫隆, 為我井 芳郎, 今井 茂, 内山 正一, 渋谷 哲男
    1998 年 59 巻 2 号 p. 423-427
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    10年以上に及ぶ原因不明の腹壁腫瘤を魚骨の横行結腸穿孔による腹腔内炎症性腫瘤と術前に診断しえたので若干の文献的考察を加えて報告する.症例は74歳の男性,主訴,腹痛.来院時所見,臍左上部に圧痛を伴う腫瘤を触知.血液検査では白血球の増多とCRPの上昇を認めた.腹部CTおよび超音波にて,直径約5cmの腫瘤とその中心部に線状の高吸収域を認めた.注腸検査では,横行結腸中部に伸展不良部位を認め,大腸内視鏡検査で腫瘤部位直下に横行結腸粘膜のfoldの腫脹,発赤を認めた.以上の所見と患者が魚類を頻回に摂取していた事より魚骨の横行結腸穿孔による腹腔内炎症性腫瘤の診断で手術を施行した.手術所見では大網に腫瘤の形成を認め横行結腸,空腸,腹壁に癒着していた.腫瘤を摘出し内部に約2.5cmの魚骨を認めた.術後経過は良好で12日目に退院した.原因不明の腹部腫瘤を認めた時,腹腔内異物の可能性も念頭におく必要があると思われた.
  • 小林 裕幸, 山内 晶司, 熊沢 平次, 浅野 浩史, 庄野 聡, 石榑 清
    1998 年 59 巻 2 号 p. 428-431
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    有鈎義歯の誤飲によるS状結腸穿孔の1例を経験したので報告する.症例は63歳の男性.平成8年2月10日義歯を誤飲したため救急外来を受診した.腹部単純X線像にて心窩部に義歯の陰影を認めたため内視鏡による胃内の異物の摘出を試みたが残渣が多く発見できなかった.翌日単純X線像にて義歯は小腸内に移動していたが自覚症状がなかったため,そのまま自然排出を待った.誤飲後4日目にS状結腸内に停滞し腹痛を訴えたため入院した.大腸内視鏡検査を施行したが腸粘膜の浮腫による閉塞のため摘出できなかった.腹痛が増強したため穿孔を疑い手術を施行した.有鈎義歯の鈎が腸管壁を貫通し穿孔を起こしていたため, S状結腸を約25cm切除した.術後の経過は良好で3週後に退院した.
  • 山根 成之, 牧野 正人, 山代 豊, 貝原 信明
    1998 年 59 巻 2 号 p. 432-435
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    腸間膜リンパ節結核を併存し,これを第4群リンパ節転移陽性と術中過診断した進行盲腸癌の1例を経験したので報告する.症例は68歳,女性.精査の結果,盲腸癌の診断にて当科に入院した.結核の既往.家族歴は認めなかった.術中,回結腸動脈に沿って上腸間膜動脈根部まで,また第1, 2空腸動脈領域にも1~3cm大のリンパ節腫大を数珠状に認めた.第4群リンパ節転移陽性盲腸癌と判定しD3に加えて可及的第4群リンパ節廓清を含めた右半結腸切除術を施行した.術後の組織学的検討では進行盲腸癌であったが,リンパ節腫大は癌の転移によるものでなくリンパ節結核によるものであった.大腸癌手術の際,他の遠隔転移がないにもかかわらず著明な腹腔内リンパ節腫大を認めた場合,術中迅速組織診によって腸間膜リンパ節結核の除外診断を行うべきである.
  • 能浦 真吾, 古川 順康, 中口 和則, 岡島 志郎, 陶 文暁, 吉原 渡
    1998 年 59 巻 2 号 p. 436-440
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    患者は49歳の女性,右下腹部痛を主訴に,平成4年4月当院内科を受診した.便潜血陽性のため注腸造影を行い,回盲部に全周性狭窄と隆起性病変を認めたため,当科を紹介された.眼瞼結膜に貧血を認め,右下腹部に圧痛を認めるも,腫瘤は触知しなかった.腫瘍マーカーはCEA, CA19-9がともに高値であったか,腹部CTでは盲腸の壁肥厚を認めるのみで,肝転移等は認めなかった.盲腸癌と診断し,右半結腸切除術を施行した.病理組織検査の結果,腺扁平上皮癌と診断され,組織学的病期はP0H0n0seでstage IIであった.術後約5年経過するが再発を認めていない.
    大腸原発の悪性腫瘍は,肛門,直腸下部を除くとほとんどは腺癌であり,腺扁平上皮癌は極めてまれで,その発生頻度は0.1%前後と報告されている.今回私たちは,盲腸原発の腺扁平上皮癌の1例を経験したので,若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 斎藤 文良, 鈴木 修一郎, 小野 聡, 増山 喜一
    1998 年 59 巻 2 号 p. 441-444
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    〔症例〕60歳,女性.平成8年6月3日より排便がなく腹痛が続いていた. 6月7日激しい腹痛のため近医の往診をうけ腹膜炎と診断され,当院に搬送された.血圧86/34mmHg,脈拍112/分.腹部は板状硬.顔面,頸部,胸部に皮下気腫を伴っていた.胸腹部X線検査, CT検査にて大量の遊離ガスと広範囲の皮下気腫を認め,汎発性腹膜炎の診断にて緊急手術を施行した.腹腔内には大量の遊離ガス,便臭を伴う腹水がみられ, S状結腸が腸間膜側に穿孔し,間膜内には多量の便を認めた.便を除去し腸管を検索すると,直腸S状部に全周性の直腸癌を認めた.同部を含めた結腸切除を施行し,腹腔内を35リットルの温生食水で洗浄した.口側結腸は人工肛門を造設した.術中より敗血症性ショックとなるが術後回復し, 39病日より化学療法を施行,第84病日目に退院した.
  • 片桐 義文, 尾関 豊, 立山 健一郎
    1998 年 59 巻 2 号 p. 445-449
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は57歳,男性.主訴は便潜血陽性.健診で便潜血陽性を指摘され,直腸指診で肛門縁より5cmの直腸前壁に母指頭大の腫瘍を触知した.大腸内視鏡検査で直腸腫瘤を認め,生検でカルチノイドと診断された.腹部超音波検査およびCT検査で肝転移を疑われ当院へ紹介された.血管造影検査で肝腫瘍は腫瘍濃染像を認め,直腸カルチノイドの多発性肝転移と診断した.筋層を含む直腸カルチノイド切除,拡大肝左葉切除を施行し,術後に肝動脈塞栓治療を行った.術後1年7カ月無再発健在である.直腸カルチノイドの肝転移症例の予後は不良とされているが積極的な肝切除は有効であると考えられた.
  • 中崎 隆行, 飛永 晃二, 武冨 勝郎, 君野 孝二, 森永 真史, 柴田 良仁, 岸川 正大
    1998 年 59 巻 2 号 p. 450-453
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    近年, Crohn病も潰瘍性大腸炎と同様に大腸癌の発生が高頻度であることが報告されている.今回, Crohn病に合併した直腸癌の1例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例は32歳女性で,肛門部の疼痛のために当院入院となった. 15年前にCrohn病の診断を受け,狭窄や瘻孔のために3回の腸切除の既往があった.注腸,内視鏡検査で直腸腫瘍を認め,腺癌の診断を得た.手術は腹会陰式直腸切断術を行い,腟への浸潤のために腟後壁合併切除を行った.腫瘍は25×30mmのびまん浸潤型の腫瘍で病理組織学的所見は低分化腺癌, ai (腟), Ly3, v3, n0であった.
  • 佐藤 隆次, 木村 良直, 加藤 栄一
    1998 年 59 巻 2 号 p. 454-458
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    右横隔膜下腔に迷入したため肝腫瘍との鑑別に苦慮した腹腔内遊離体の1例を経験したので,文献的考察を加えて報告した.症例は68歳,男性.交通外傷で当科へ入院した.入院時の腹部CTで肝腫瘍が疑われたため,症状の改善の後各種画像診断を施行した.しかし確定診断には至らず,肝悪性病変を否定できないため手術を行った.肝後上区域に薄い偽膜に覆われ肝内に埋没する形で約2cmの腫瘤を認め容易に摘出された.肉眼的所見および病理組織学的検査から腹腔内遊離体と診断された.
    腹腔内遊離体は臨床的には稀ならず経験するものであるが,文字どおりそのほとんどが腹腔内に遊離状態で認められる.しかし本症例のように肝腫瘍との鑑別を要した腹腔内遊離体の本邦での報告例は,われわれが調べた限りではなかった.
  • 袖山 治嗣, 岨手 善久, 花崎 和弘, 望月 靖弘, 五十嵐 淳, 横山 史朗
    1998 年 59 巻 2 号 p. 459-462
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肝嚢胞自然破裂による腹腔内出血で緊急手術を行ったきわめてまれな症例を経験したので報告する.
    症例は30歳,女性.右背部の張り感を自覚し,近医で右上腹部腫瘤を指摘された.腹部超音波検査およびCT検査では肝右葉の大部分を占める最大径16cmの単房性嚢胞を認めた.自家用車で舗装道路を走行中に突然腹部全体の激しい痛みが出現し,右上腹部腫瘤は消失した.当院を受診し緊急入院した.腹部超音波検査およびCT検査より肝嚢胞自然破裂による腹腔内出血と診断し,緊急手術を行った.肝右葉に単房性嚢胞を認め,右三角間膜に近い部で嚢胞壁が約3cm破裂し,この部より出血していた.嚢胞前壁切除術を行った.術後経過は順調であり,手術6ヵ月後の腹部CT検査でも嚢胞の再発などは認めなかった.
  • 鈴木 秀昭, 安井 章裕, 重田 英隆
    1998 年 59 巻 2 号 p. 463-467
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肝単包虫症はこれまで本邦では非常に稀な疾患であった.しかし,近年の汚染地域からの移住者の増加により,本邦での増加が予想される.今回,術前に診断しえた肝単包虫症の1例を報告する.症例は28歳,ネパール人,男性.腹部不快感を主訴に入院した.その2カ月前まで,ネパールに在住していた.入院時,上腹部に8×12cmの腫瘤を触知し,軽度の好酸球増加と胆道系酵素の上昇を認めた.腹部USと腹部CTで,肝左葉に薄い中隔を有する多房性の嚢胞2個と,内側区域から右葉前下区域にかけて単房性の嚢胞を1個認めた. MRI, T2強調像で,各嚢胞の周辺に境界明瞭な低信号帯を認めた.これらの所見と居住歴から,肝単包虫症と診断し,血清学的検査で確認した.拡大肝左葉切除を行った.嚢胞吸引液中にEchinococcus granulosusの原頭節を認めた.
  • 橋本 興, 飴山 晶, 植木 幸一, 岡野 光伸, 吉田 寛, 玉井 允
    1998 年 59 巻 2 号 p. 468-472
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肝蛭症の1切除例を経験したので報告した.症例は71歳の男性で,心窩部痛のため腹部超音波およびCT検査を施行し肝内異常陰影を指摘された.血液生化学的に好酸球増多,胆道系酵素の軽度上昇,高CEA血症を伴い,画像診断にて肝左葉に限局した多発性結節性腫瘤を認めた.肝内胆管癌が否定できず,肝左葉切除を施行した.切除標本では境界明瞭,黄白色の多結節癒合型腫瘤を認め,組織学的には好酸球浸潤の著明な膿瘍であった.寄生虫感染が疑われたが,切除標本および糞便内に虫体,虫卵は証明できず,術後血清免疫学的検査(Ouchterlony法および免疫電気泳動法)にて肝蛭症と診断された.手術および術後のPraziquantel内服により血液生化学的検査所見は改善された.
  • 徳永 信弘, 中崎 久雄, 添田 仁一, 田仲 曜, 石過 孝文, 貞廣 荘太郎, 田島 知郎, 幕内 博康
    1998 年 59 巻 2 号 p. 473-476
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    十二指腸平滑筋肉腫の壊死と感染による多発肝膿瘍の1例を経験したので報告する.
    患者は55歳,男性.持続する原因不明の発熱を主訴に来院した.上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行脚に潰瘍をともなう隆起性病変が認められ,腹部超音波検査では肝の両葉に多発性の低エコー病変が認められた.腹部CT検査で十二指腸下行脚の4×5cm大の造影強陽性の腫瘤と肝両葉の多発性の低吸収域像が認められ,十二指腸原発の悪性腫瘍と多発性肝膿瘍の診断にて開腹した.膵頭十二指腸切除術を施行し,病理診断は中心壊死をともなう十二指腸原発の平滑筋肉腫であった.
    この平滑筋肉腫は腫瘍の中心壊死をともない,消化管内腔と交通して局所で感染巣が形成され,感染が経門脈性に肝に拡がることにより肝膿瘍が形成されたと考えられた.
  • 小林 浩司, 高橋 弘, 三浦 豊章, 会田 征彦, 梶原 哲郎
    1998 年 59 巻 2 号 p. 477-481
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は71歳,男性で食後右季肋部痛を主訴に来院.肝機能障害を認め精査目的にて入院となった.超音波検査では, S2に内腔に可動性のあるstrong echoを有する5cmの嚢胞様腫瘤を認めた. CTでは嚢胞の壁は不整に肥厚し, ERCでは,肝内胆管S2末梢部に造影剤のpoolingが認められた.また血管造影では腫瘤に一致し無血管野を認めた.以上より肝嚢胞腺腫あるいは嚢胞腺癌の内腔に発生した結石の診断下に肝外側区域部分切除を施行した.切除標本では,単房性嚢胞の壁は平滑で内腔に漿液性の感染胆汁と4個のビリルビン結石を認めた.病理検査では,杯細胞を含む腸上皮化生を示す異型上皮が乳頭状に増殖しており,肝嚢胞腺腫と診断した.内腔に結石を有する本症は他に報告はみられず,胆管と交通を有する症例も自験例を含め17例とまれでありこれらの検討を加えて報告する.
  • 倉立 真志, 村澤 正甫, 倉橋 三穂, 三好 康敬, 岩坂 尚仁, 増田 和彦, 松本 隆裕, 井口 博善, 四宮 禎雄
    1998 年 59 巻 2 号 p. 482-486
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    6年間経過観察し切除した肝細胞腺腫(本症)の1例を経験した.症例は75歳,男性.1990年悪性リンパ腫に罹患, CHOP5クール施行し寛解した.その時の腹部CT検査で肝S6に2cmの低吸収な腫瘤陰影を認めた.
    HCCを疑い針生検を行うも確診できず,定期的に腹部CT,超音波, MRI検査で経過観察していた.腫瘤は1996年の画像診断で5cmと増大し,針生検で悪性も否定できず, 2月20日腫瘤を含むS6部分切除を行った.摘出腫瘤は被膜を有し,割面は分葉し,黄褐色一部緑色で中心性瘢痕は認めなかった.組織所見は,肝細胞類似の索状配列を示す異型の乏しい淡明な腫瘍細胞の増殖像を呈し,非腫瘍部は正常肝であり,本症と診断された.
    本症はFNH,高分化HCCとの鑑別が問題となる,本邦では比較的稀な肝良性腫瘍であり,若干の文献的考察を加え報告する.
  • 松岡 伸一, 服部 優宏, 斉藤 正信, 真鍋 邦彦, 秦 温信, 佐野 文男
    1998 年 59 巻 2 号 p. 487-491
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    肝硬変を合併したstage IV-Aの肝細胞癌に対し集学的治療を行い,有効であった1症例を経験したので報告する.
    症例は60歳男性で,糖尿病のため近医通院中に肝腫瘍を発見され,平成7年2月当科に入院となった.肝予備能は低下しており,臨床病期IIであった. CT上,肝外側区,内側区,前区に計4個の腫瘍を認めた.血管造影では外側区の腫瘍のみ血管に乏しく,他は腫瘍血管に富んでいたが,針生検の結果は外側区の腫瘍も肝細胞癌であった.外側区域切除術を施行し,残存腫瘍に対してTACEを10回, PEITを5回定期的に繰り返し,初診後2年7カ月間良好に経過している.
    肝予備能が不良であり,また腫瘍が両葉に多発するため切除不能な症例であったが,減量手術およびTACEなどの集学的治療を行い,有効であったので報告した.
  • 重政 有, 初瀬 一夫, 青木 秀樹, 岩本 一亜, 玉熊 正悦, 望月 英隆, 赤尾 信吉, 勝然 秀一, 長谷 和生
    1998 年 59 巻 2 号 p. 492-495
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胆道内で死滅した回虫を核とした回虫結石を手術的に摘出しえた症例を経験したので文献的考察を加え報告する.症例は38歳,男性.主訴は心窩部痛,悪心. ERCPにて総胆管内に虫体様陰影欠損を認めたため,胆道回虫症を疑い駆虫剤を投与したが,虫体・崩壊物の排出は認めなかった.その後心窩部痛を繰り返したため保存的治療は困難と考え,再度ERCPを施行し前回と同様の陰影欠損を確認した後,開腹術を施行した.胆嚢内に結石を1個,また総胆管内に紡錘型,表面は白色,内部は褐色の結石を2個認め,胆嚢摘出・総胆管切開・載石術を施行した.光学顕微鏡像より結石内部に筋層,角皮の構造を認め,雌の成虫と確認された.一方,回虫結石の分析ではコレステロール結石であった.文献的に回虫結石症の結石はほとんどがビリルビン系であり,本症例は極めて稀な症例であった.
  • 伊藤 久美子, 秦 温信, 大沢 昌平, 小笠原 和宏, 奥 哲男, 上林 正昭
    1998 年 59 巻 2 号 p. 496-500
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    最近3年間の胆石症による胆摘288例中, 7例(2.4%)の黄色肉芽腫性胆嚢炎(以下XGC)を経験したので報告する.症例は男性1例,女性6例, 35歳~77歳(平均58歳).発症より手術までの期間は2~8週(平均5週間).腹痛を伴う6例中発熱4例,黄疸3例, septic shock 1例を認めた. USでは全例に胆嚢壁肥厚と結石を認め,胆道造影では胆嚢陰性が4例, CTでは壁肥厚部は低吸収域を示し,気腫性胆嚢炎を1例認めた.術中に肝床部膿瘍を3例認めた.結石はコ系6例,ビ系1例,大きさは0.2~4.5cmで数は1~約60個. XGCの局在は胆嚢全体型が5例であった. XGCの主な誘因は結石であるが,胆嚢癌合併の1例を経験した. XGCは画像診断で胆嚢癌との鑑別が困難であり,癌との鑑別のみならず,癌の合併を考慮に入れた注意深い検索が必要である.
  • 佐藤 達郎, 中井 堯雄, 松浦 豊, 河野 弘, 北川 喜己, 西垣 美保, 小森 康司, 伊藤 直人, 濱野 浩一, 石川 和夫, 横山 ...
    1998 年 59 巻 2 号 p. 501-505
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は80歳,女性.腹痛を主訴に当院入院.腹部CTで膵頭部の腫大と腹水を認めた.膵癌末期として保存的に経過を観察されたが,腹水が増加し,腹水穿刺を行ったところ胆汁が吸引されたため,経皮的腹腔ドレナージを行った.全身状態の改善を待ってERCPを行い,胆嚢結石を認めたものの,膵に異常を認めなかったため手術を行った.胆嚢頸部で直径1cmの穿孔を認めた.胆嚢壁には著変を認めず,胆嚢摘出術を行った.摘出標本では胆嚢の粘膜面はほぼ正常で,病理組織学的にも炎症性変化に乏しく,血管性変化も認められなかった.以上より特発性胆嚢穿孔と診断した.
  • 曽我 良平, 杉岡 篤, 安田 有祐, 江崎 哲史, 小森 義之, 蓮見 昭武
    1998 年 59 巻 2 号 p. 506-511
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    胆嚢線維性ポリープの1例を経験したので報告する.症例は51歳男性で,検診で胆嚢の隆起性病変を指摘された.腹部超音波検査(US)および超音波内視鏡検査(EUS)で,胆嚢底部に最大径22mmのポリープが描出され,その表面は不整で,表面を縁取るようなhigh echo lineと,内部に不均一なlow echo spotの散在が認められた. Ip型,深達度mの早期胆嚢癌の可能性も否定しえなかったため,腹腔鏡下胆嚢摘除術を施行した.摘除胆嚢の病理組織学的検討の結果, WHO分類の線維性ポリープと診断した.
    本症は稀な疾患で,本例は本邦26例目の報告例と考えられた.画像診断上,本症と胆嚢癌との鑑別は困難な場合が少なくないが, US, EUSで特徴的な所見を認めた場合には本症を疑い,腹腔鏡下胆嚢摘除術を積極的に選択して確定診断を下すことが,現時点での本症に対する適切な治療方針と考えられた.
  • 森下 実, 金平 永二, 大村 健二, 宇野 雄祐, 吉羽 秀麿, 渡辺 洋宇
    1998 年 59 巻 2 号 p. 512-515
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    妊娠27週に対して低圧気腹を併用した腹壁吊り上げ式腹腔鏡下胆嚢摘出術を経験したので報告する.患者は27歳.胆石症経過観察中,妊娠8週より右季肋部痛を頻回に繰り返すようになり,妊娠22週目に肝機能酵素の上昇を認めた.その後も仙痛発作を繰り返すため手術適応と判断し,妊娠27週目に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した.手術は全身麻酔にて腰直上および右肋骨弓の吊り上げと, 4~8mmHgの低圧気腹を必要に応じて併用することで比較的良好な視野で行うことができた.経過は良好で無事出産となった.腹腔鏡下胆嚢摘出術は妊婦に対して大変有益な術式と考える.
  • 西崎 和彦, 山崎 元, 桑田 圭司, 山崎 芳郎, 畑中 信良, 山本 重孝
    1998 年 59 巻 2 号 p. 516-520
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    1991年2月から1997年2月の6年1カ月間に腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行した1,400例のうち,術中,術後の病理検索にて8例に胆嚢癌が発見された.年齢は39歳から74歳の平均57.5歳で,男性2例,女性6例である.術前診断は胆嚢ポリープが2例,胆石症が6例であった.胆嚢ポリープの術前診断であった2例は術中病理診で胆嚢癌と判明し,うち1例は開腹術に移行,根治術を施行した.胆石症との術前診断であった6例は術後病理診断にて初めて胆嚢癌と判明し,このうち3例に対し二期的手術を施行した.その他の4例はm癌との理由から経過観察をしている.また, se癌であった1例は,約1年後にトラカール挿入部に腹壁再発し切除術を施行した.術後8カ月~4年5カ月,平均約2年が経過するがse癌であった1例を除き生存中である.胆石症といえども術後必ず切除胆嚢の十分な病理学的検索を施行し,早急に二期的手術も考慮すべきである.
  • 延澤 進, 松本 日洋, 大林 日出雄, 小倉 祐紀, 酒井 英樹, 田中 昇
    1998 年 59 巻 2 号 p. 521-525
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は38歳男性で,別医で胆嚢腺筋腫症として経過観察されていた.激しい心窩部痛で当院内科に入院し,超音波, CTの結果,胆嚢腺筋腫症および頸部結石嵌頓による急性胆嚢炎と診断された.経皮経肝胆嚢ドレナージによる炎症の消退の後,胆嚢摘出術を施行.病理組織診の結果,胆嚢腺筋腫症に深達度ssの胆嚢癌の合併が判明し再手術を施行した.
    胆嚢腺筋腫症はその特徴的画像診断に関しては多数の報告がある.しかし癌化しやすい病変であるか否かについては定説がなく,つい最近までその癌化はきわめてまれと考えられ,一般的には胆嚢腺筋腫症と診断されれば経過観察でよいと言われている.今回われわれは,胆嚢腺筋腫症に合併した胆嚢癌の1手術例を経験したので若干の文献的考察を加えて報告する.
  • 安井 元司, 角尾 英男, 中原 秀也, 浅野 倫雄, 藤田 治樹
    1998 年 59 巻 2 号 p. 526-531
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    偶然診断された門脈走行異常の1例を経験したので発生学的考察を加えて報告する.症例は65歳,男性.大腸癌検診で便潜血反応陽性を指摘され,精査の結果盲腸癌と診断された.術前精査中にUSおよびCT検査にて肝門部で蛇行する門脈を認め,肝内ヘタコ足状に分岐していた.腹腔動脈造影にて異常なく,門脈造影にて膵下縁で右方に偏位し, L字型を示し,膵上縁で左右に分岐していた.開腹時左右門脈は総胆管の腹側を走行し,十二指腸球部後面を通り,膵頭部の前面を走行していた.門脈走行異常を伴った盲腸癌の診断にて,平成7年8月31日結腸右半切除を行った.肝十二指腸間膜において門脈は右枝左枝ともに総胆管の腹側を走行し,十二指腸後面を走行していた.肝の形態異常・胆嚢の位置異常を認めなかった.術中門脈圧は130mmH2Oであった.発生学的には膵前十二指腸後門脈と考えられ,文献上3例あり, 4例目と考えられ,極めてまれである.
  • 宮本 康二, 戸川 保, 清水 幸雄, 山北 宜由, 池田 庸子, 玉木 雅人
    1998 年 59 巻 2 号 p. 532-536
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    副腎腫瘍に対する内視鏡下手術はまだ日が浅く中でも褐色細胞腫に対する内視鏡下手術の報告例は少ない.今回われわれは左副腎褐色細胞腫の2症例に対して腹腔鏡下に摘出術を施行したところ良好な経過を得たので報告する.症例はいずれも女性で年齢は73歳, 43歳であった.発汗,心悸亢進などを主訴として来院し,腹部CT, MRIで左副腎に腫瘤を認めた.131I-MIBGシンチグラフィーでの陽性所見,内分泌検査で尿中および血中catecholamineの高値を認めたため副腎原発の褐色細胞腫と診断された.手術は右側臥位で腹腔鏡下に腫瘍を摘出した.副腎静脈の処理は終盤に行ったが術中の血圧上昇は軽度で術後経過も良好であった.今回の2症例は腫瘍の大きさ,症状などの点で内視鏡下手術の適応と思われたが今後なお重ねて検討する必要がある.
  • 北島 知夫, 内村 正幸, 脇 慎治, 木田 栄郎, 甲斐 信博, 西脇 由朗
    1998 年 59 巻 2 号 p. 537-540
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は29歳,女性.主訴は上腹部痛.既往歴,家族歴に特記事項なし.夕食後より心窩部痛,嘔気が出現.その後,腹痛が増強し,近医での胸腹部単純X線写真検査上,左右横隔膜下に遊離ガスを認め,穿孔性腹膜炎の診断で当院入院となった.入院時,上腹部を中心に圧痛,筋性防御を認め,白血球数, CRPの上昇を認めた.胃もしくは十二指腸潰瘍穿孔による腹膜炎を強く考え,手術を選択した.術中所見では,気腹を認めたが,腹水や炎症性の変化は認められず,肉眼および術中内視鏡でも明らかな穿孔部位は確認しえなかった.
    既往症に膠原病を考えるような疾患はなく,女性生殖器を介した気腹としても,発症機転となるエピソードもなく,気腹の誘因を確定できず,特発性気腹症と診断した.成人気腹症の中でも極めて稀な例と考えられるので報告する.
  • 松友 寛和, 後藤 明彦, 仁田 豊生, 市橋 正嘉, 多羅尾 信
    1998 年 59 巻 2 号 p. 541-544
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    68歳,女性. 1994年10月26日,子宮癌検診を受診したところ,左下腹部に手拳大の腫瘤を指摘されたため,精査加療目的で入院した.腫瘤は弾性硬,凹凸不整であり,軽度の可動性が認められた.腹部CT, MRIで左下腹部に手拳大の充実性腫瘤が認められた.注腸造影では特に異常を認めなかった.腸間膜腫瘍を疑い,手術を施行した. S状結腸間膜に手拳大の腫瘤を認め,腫瘤とともにS状結腸約20cmを合併切除した.腫瘍は,凹凸不整,充実性で線維性被膜に被われ,組織学的に平滑筋肉腫と診断された.本邦におけるS状結腸間膜原発性平滑筋肉腫症例は現在までに自験例を含めて10例が報告されているにすぎず,まれな疾患である.本症に対しては化学療法や放射線治療は効果がないとされ,積極的に外科的切除を行うことにより,予後が向上すると考えられた.
  • 島田 謙, 横田 等, 西山 保比古, 泉家 久直, 吉田 宗紀, 比企 能樹, 柿田 章
    1998 年 59 巻 2 号 p. 545-551
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は28歳女性で,呼吸困難を主訴に近医を受診し,左側胸水と腹腔内腫瘤を指摘され,精査目的にて当院を受診した.術前の画像診断では腫瘤の質的診断はできなかったが,von Recklinghausen病を合併していたことから腹腔内悪性神経鞘腫を疑い,手術を施行した.手術所見では腫瘤は大網より発生し,胃に直接浸潤していたが,胃を部分切除することで根治的に切除し得た.切除標本は29×24×10cm, 4,800gで腫瘍は殆ど偽被膜に覆われており,切除断端は陰性であった.病理組織学的には平滑筋肉腫で,術中所見と併せて大網原発であると考えられた.
    大網原発平滑筋肉腫は稀な疾患で,今までに本邦で29例が報告されている.自覚症状に乏しく,臓器特有の症状が無いため,術前診断は困難である.治療には転移巣や浸潤臓器を含めた充分な外科的切除術が必要である.
  • 竹林 徹郎, 森田 高行, 藤田 美芳, 樋田 泰浩, 北城 秀司, 宮坂 祐司, 加藤 紘之
    1998 年 59 巻 2 号 p. 552-556
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    内ヘルニアの中でも極めてまれな疾患とされるWinslow孔ヘルニアの1例を経験したので文献的考察を加え報告する.
    症例は25歳女性.平成7年8月6日上腹部痛にて発症し入院,経過観察していたが8月8日腹痛増強し,腹部単純X線写真像で小腸ガスの増大を認めたため絞扼性イレウスの診断のもとに緊急手術を施行した.開腹所見では小腸ほぼ中央部がWinslow孔を通過し網嚢峡部に嵌頓していた.網嚢峡部の一部を切開し開放したところ嵌頓は解除され,整復とともに小腸の血行は改善したので小腸切除は不要であった. Winslow孔を三針縫合閉鎖しイレウス管を留置し手術を終了した.術後経過良好で再発は認めていない.本症例では術前診断はできなかったが本疾患を強く示唆する肝十二指腸間膜背側を通過する腸管像が術前の腹部CTおよび腹部USにて認められており,当初から本疾患を念頭においていれば術前診断は可能であったと思われた.
  • 工藤 道也, 熊木 俊成, 赤羽 康彦, 野村 和彦
    1998 年 59 巻 2 号 p. 557-560
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    症例は, 41歳女性.右下腹部の鈍痛を主訴に来院,右下腹部に腫瘤を触知した.腹部CTにて,肝下面から骨盤腔に至る巨大な多房性の嚢胞性腫瘤を認め,手術を施行した.摘出標本の組織学的検討により,後腹膜由来のbenign multicysticmesotheliomaと診断された.腹膜中皮腫はびまん性,悪性のものがほとんどで,限局性で良性のものは稀である.そのなかでもmulticystic typeは特殊型で,組織学的に良性と診断されたものでも25%に再発を認め,十分な経過観察が必要である.
  • 中島 康晃, 芦川 敏久, 杉原 国扶, 石川 敏昭, 櫻沢 健一, 毛受 松寿, 中嶋 昭, 佐藤 康
    1998 年 59 巻 2 号 p. 561-564
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    ヘルニオグラフィーにて,術前診断を行い,腹腔鏡下手術を施行した閉鎖孔ヘルニアの1例を経験したので報告する.
    症例は58歳女性. 1991年頃より時折右鼠径部・下肢のしびれ感を自覚していた.原因検索中に,頻回に激しい右殿部・鼠径部・下肢のしびれ感,疼痛を認めるようになったため,これらの症状をHowship-Romberg徴候と判断した.このため,ヘルニオグラフィーを行い,右閉鎖孔ヘルニアと確定診断し,待期的に腹腔鏡下手術による治療を行った.
    非嵌頓例の閉鎖孔ヘルニアの診断には,ヘルニオグラフィーが非常に有効であると考えられた.同時に,腹腔鏡下閉鎖孔ヘルニア根治術は,手術手技が比較的容易で,かつ,術後の疼痛も少なく,非常に有用な治療法であると考えられた.
  • 飯野 善一郎, 大谷 剛正, 高橋 毅, 吉田 宗紀, 比企 能樹, 柿田 章
    1998 年 59 巻 2 号 p. 565-569
    発行日: 1998/02/25
    公開日: 2009/01/22
    ジャーナル フリー
    軽度の腹部症状のうちに閉鎖孔ヘルニアと診断され,待期的に腹腔鏡下ヘルニア修復術を行った症例を報告する.症例は65歳女性,慢性胃炎にて通院中,食後に腹満感と便意をもよおすようになり,注腸検査を行ったところ閉鎖孔ヘルニアと診断された.ヘルニア内容はS状結腸で,充影像にてRichter型のヘルニアを認めたが空気注入後,この所見は消失した.閉鎖孔ヘルニアの診断にて待期的にメッシュを用いて腹腔鏡下ヘルニア修復術を行った.閉鎖孔ヘルニアはイレウスで発見され緊急手術となる症例が多く,待期手術が可能な症例は稀である.反対側の閉鎖孔ヘルニアや他のヘルニアの合併も多いため,腹腔鏡下ヘルニア修復術は非常に有用な術式と考えられる.腸閉塞に至ると患者が高齢な為,重症化することも多い.軽度の腹部症状の患者も本疾患を念頭におき早期診断に努めることが重要である.
feedback
Top