日本臨床免疫学会会誌
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38 巻, 4 号
第43回日本臨床免疫学会総会抄録集
選択された号の論文の229件中51~100を表示しています
ビギナーズセミナー
  • 河上 裕
    2015 年 38 巻 4 号 p. 282
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      長年期待されていたT細胞応答を利用するがん免疫療法が,免疫チェックポイント阻害療法(PD-1/PD-L1,CTLA4阻害など)と培養T細胞利用養子免疫療法(遺伝子改変抗腫瘍T細胞など)として,従来免疫療法が効く特殊ながんとされた悪性黒色腫や腎がんを超えて,肺がんや白血病など多様ながんに対して,進行がんでも持続する腫瘍縮小効果を示したことは,がん免疫療法の位置づけを一変させ,世界中でがん免疫療法の開発が進められている.一方,効果が認められないがん種や患者も多く,今後,治療効果を予測して症例を選択したり個別化治療を可能にするバイオマーカーの同定,治療効果が期待できない症例を効くように変える方法も含めて,抗腫瘍T細胞応答に重要な複数のポイントを制御する複合免疫療法による治療効果の改善が期待される.この解決のためには,ヒトがん免疫病態の理解と制御法の開発が必要である.実際,ヒト腫瘍免疫学は,がん免疫療法の開発と並行して発展してきた.我々は,がん細胞のpassenger変異由来変異ペプチドに対する抗腫瘍T細胞応答が起こること,driver変異などで起こるがん遺伝子活性化はむしろ免疫抑制機構を作動させることを明らかにした.がん細胞の遺伝子異常に加えて,患者の免疫体質,腸内細菌叢などの環境因子の影響も考えられている.本セミナーでは,ヒトがん免疫病態とがん免疫療法の最新知見を紹介したい.
  • 岡田 随象
    2015 年 38 巻 4 号 p. 283
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      遺伝統計学とは,遺伝情報と形質情報の因果関係を統計学の観点から評価する学問であり,解析手法の一つとしてゲノムワイド関連解析(genome-wide association study; GWAS)が知られている.ゲノムワイド関連解析は,数千人~数十万人を対象にゲノム領域全体を網羅する数十万~数千万の遺伝子多型(=ゲノム塩基配列の個人差)における疾患罹患リスクを検定する手法であり,我が国の理化学研究所で世界に先駆けて実施された.現在,ゲノムワイド関連解析は次世代シークエンサーと並んでヒト疾患ゲノム解析の代表的な手法となっており,免疫関連疾患を含む数百以上のヒト形質を対象に無数の疾患感受性遺伝子領域が同定されている.近年では,ゲノムワイド関連解析の結果を多彩な生物学的・医学的データベースと分野横断的に統合させることにより,新たな疾患病態の理解や,疾患疫学の再解釈,新規ゲノム創薬が可能になることも明らかとなってきた.これらの成果の大半はWeb上で公開されており,誰でも簡単に閲覧することが可能になっている.本セミナーでは,ゲノムワイド関連解析を取り巻く最新の状況を概説すると共に,一般の研究者にとってどのような活用方法があるか述べたい.
  • 浅原 弘嗣
    2015 年 38 巻 4 号 p. 284
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      従来,遺伝子プログラムを書き換える手技としては,ES細胞やiPS細胞を用い,かつ,遺伝子組み換えの技術を応用したものがほとんど唯一の手法であったが,近年,TALENやCRISPRを用いた遺伝子編集技術の開発により,ノックアウトマウス・ラットやノックアウト細胞が簡便,安価,かつ正確に行うことができるようになったばかりか,以下にあげる今まで困難であったジェネティックス研究が可能になりつつある.(1)Y染色体などの高度なリピート配列をもつ遺伝子の改変は困難であったため,ES細胞を用いたY染色体のノックアウトマウスの報告は今までなかったが,TALEN/CRISPRを用いることで,Y染色体上の遺伝子がもつ機能が詳細に明らかになりつつある.(2)腱・靭帯や関節軟骨などの生理・病理学的研究はマウスでは困難なことが解析が多かったが,ノックアウトラットを用意に作成できるようになり,この分野の研究が一段と進むことが期待されている.(3)近い場所に位置する二つの遺伝子のダブルノックアウトマウス作成やUTRにおけるshort deletion,loxなどの小さな痕跡も残さないノックアウトマウスの作成は従来困難であったが,これらの遺伝子改変マウスが簡易に作成できるようになった.我々は,TALEN/CRISPRシステムを導入することで,関節炎,骨格形成をモデルに上記課題に取り組んでおり,これら研究の現況を紹介したい.
ワークショップ
  • 松井 聖, 角田 慎一郎, 佐野 統
    2015 年 38 巻 4 号 p. 285a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      ANCA関連血管炎は難治性血管炎であり,従来の治療である副腎皮質ステロイド剤とcyclophosphamide(CY)などの免疫抑制剤の併用療法は強力な免疫抑制をかけるため感染症等の合併症が多く問題となっており,治療に難渋していた.そこで,欧米ではANCA関連血管炎に対するrituximab治療応用が始められており,我が国においても保険適応となり市販後のデータが集積されつつある.当科では,再燃例10例,初発例3例の計13例,臨床診断は,Granulomatosis with Polyangitis(GPA)7例,Microscopic Polyangitis(MPA)6例であった.再発例は,副腎皮質ステロイド剤と免疫抑制剤(CY, azathioprine(AZA), cyclosporine(CyA))の複数が使用されており,中には生物学的製剤inflixmabが2例に使用されていた.GPA症例は全例でrituximab 4コース後に症状は速やかに改善しPSLを漸減でき,維持療法はPSL+CyA or tacrolimusで行った.MPA症例はPSL+AZAで維持療法を行った.ANCA関連血管炎に対するrituximab治療はCYと同等の効果があると海外で高く評価され,当科でもANCAの抗体価に関わらず,従来治療で難渋していた症例に対して十分効果が得られ,PSLを中心とした内服薬も減薬,減量が可能となった.当科の結果を踏まえて今後の方向性について解説したい.
  • 山原 研一
    2015 年 38 巻 4 号 p. 285b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      近年,骨髄間葉系幹細胞(MSC)を用いた細胞治療応用に関し,その免疫調節作用が注目され,急性GVHD・クローン病に対する臨床効果が示されている.しかしながら,自己骨髄MSCは,(1)骨髄採取は侵襲を伴い重病人には不適である,(2)初代培養時の細胞が少なく,培養時間を要し,迅速対応が困難である,(3)白血病など骨髄疾患では不適である,といった問題点がある.これら問題を解決すべく,我々は(1)通常破棄され,(2)侵襲性がなく,(3)倫理的問題の少ない胎児付属物(羊膜・絨毛膜・臍帯)からMSCの樹立に成功し,その細胞移植による効果を,急性GVHD,心筋炎,腎虚血再灌流,全身性エリテマトーデス,炎症性腸疾患,放射線腸炎,肝硬変といった各種難治性疾患モデル動物を用いて検討を行い,その有用性を証明してきた.これらを踏まえ,我々は胎児付属物,中でも羊膜由来のMSCを用い,同種造血幹細胞移植におけるGVHD,Crohn病などの難治性免疫関連疾患を対象とした細胞治療の臨床応用研究を,当センター,兵庫医科大学および北海道大学と共同で行っている.今年度中に急性GVHDやクローン病,肝硬変を対象とし,羊膜MSCの北海道大学病院CPCを活用した医師主導治験(第Ⅰ-Ⅱ相)を開始し,今後,株式会社カネカが神戸に新たに製造するCPCを用いた企業治験(第Ⅱ-Ⅲ相)も計画している.本講演では,羊膜MSCにおけるこれまでの前臨床研究の成果および臨床試験の状況をご報告できればと考えている.
  • 西小森 隆太
    2015 年 38 巻 4 号 p. 286a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      生体を構成する正常な組織・細胞と異なる物質や細胞を排除し,生体を防御する機構を免疫系という.この生体防御機構が破綻した状態を免疫不全症といいなかでも先天的な機能異常によって発症するものを原発性免疫不全症という.近年,易感染性を中心にした従来の免疫不全症に加え,血球貪食症候群,自己炎症性疾患など炎症等の易感染性以外の表現型をとる先天性免疫異常症も原発性免疫不全症として扱われている.近年の遺伝子解析技術の進歩により,原発性免疫不全症の原因遺伝子探索は分子診断が可能になり,診断の精度向上につながった.また,遺伝子治療,標的分子を狙った分子標的治療のためには,原因遺伝子の同定,病態の解明が特に重要である.本発表では,原発性免疫不全症の治療のアップデートとして,遺伝子治療,ガンマグロブリン皮下注製剤,分子標的治療の試み,幹細胞移植,について最近の新しい知見を提示する.
  • 塚原 智英, 村田 憲治, 江森 誠人, 渡邉 一絵, 鳥越 俊彦
    2015 年 38 巻 4 号 p. 286b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      骨肉腫に代表される高悪性度骨軟部肉腫は予後不良であり,新しい治療法が求められている.我々は骨肉腫の免疫制御を目指し,自家の骨肉腫細胞株とCTLクローンを用いたcDNAライブラリ発現クローニングで世界で初めて骨肉腫抗原PBFを同定した.PBFは転写調節因子であり,骨肉腫のアポトーシスを制御している.PBF蛋白は骨肉腫組織の92%で,骨軟部肉腫全体では87%に発現が見られた.またPBF陽性の骨肉腫患者の予後は不良であり,PBFは予後不良骨肉腫の標的分子となり得る.そこで我々はHLA-A24/A2拘束性PBFペプチドを設計して骨肉腫患者のペプチド特異的CTL応答を解析し,まず骨肉腫患者に対するペプチドワクチン臨床試験を10例に行った.臨床効果は不変3例,増悪6例で,9例でペプチドに対する免疫応答が検出された.多発肺転移および皮下転移をもつ1例で,ペプチドワクチンに対する高い免疫応答がELISPOTで観察された.また局所再発巣に骨化とCD8陽性細胞浸潤を認めた.この症例はペプチドワクチン療法のみで加療され,合計31か月生存した.そして試験的に実施した再発粘液線維肉腫1例においてPBFペプチドに対する極めて高い免疫応答が誘導され,病勢にも相関した.これらの2症例はいずれも化学療法未施行例であり,病巣が小さかった(2 cm以下).これらの知見は今後のペプチドワクチン療法のさらなる実効化に大変重要と考えている
  • 山崎 亮, 緒方 英紀, 河村 信利, 吉良 潤一
    2015 年 38 巻 4 号 p. 287a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      中枢末梢連合脱髄症(combined central and peripheral demyelination, CCPD)は,中枢神経および末梢神経の脱髄をきたす稀な疾患である.近年われわれはこれらの患者血清中で抗neurofascin抗体が上昇していることを見出した(Kawamura, 2013).Neurofascin(NF)は主にランヴィエ絞輪部に存在し軸索と髄鞘との結合に関与する免疫グロブリンスーパーファミリーに属し,NF186とNF155が主なサブタイプであるが,CCPD患者では抗NF155抗体が上昇していた.今回われわれは,抗NF155抗体を測定するにあたり,従来のcell based assayにフローサイトメトリー法を組み合わせ,より客観的かつ定量的な抗体価測定法を開発した.
      CCPD暫定診断基準を用いて全国調査を行ったところ,38症例が抽出された.そのうち,抗体検査を施行した11例中5例(45%)で抗NF155抗体が陽性であった.この結果を踏まえ,当科受診中の脱髄性神経疾患患者における抗NF155抗体陽性率を調査したところ,CIDP 50例中9例(18%),ギラン・バレー症候群26例中1例(3.8%)で陽性となった.多発性硬化症32例,クロウ深瀬症候群3例,健常対照30例では検出されなかった.これらのうち,NF155陽性CIDP患者では,陰性患者とは異なり,若年発症,遠位軸索優位型,MRIにおける神経根腫大などの特徴を有していた.これらのことから,抗NF155抗体は脱髄性疾患の新規自己抗体として重要であることが示唆された.
  • 木村 公俊, 中村 雅一, 佐藤 和貴郎, 岡本 智子, 荒木 学, 林 幼偉, 村田 美穂, 高橋 良輔, 山村 隆
    2015 年 38 巻 4 号 p. 287b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      【目的】ナタリズマブは,T細胞表面のα4インテグリン(CD49d)の発現を低下させることにより,炎症性T細胞の中枢神経内への浸潤を阻害する.しかし,CD49dは制御性T細胞にも発現している.本研究では,中枢神経への浸潤能を保持するCD49d陽性群に着目し,炎症性・制御性T細胞の動態ならびにナタリズマブ投与との関連を明らかにする.【方法】ナタリズマブ投与中の多発性硬化症(MS)7例(以下MS(n)群),同薬投与歴のないMS 29例(以下MS群)を対象とし,Th1細胞,Th17細胞,Treg細胞におけるCD49d陽性率を解析した(以下,CD49d+Th1,CD49d+Th17,CD49d+Treg).さらに,CD49d陽性メモリーCD4 T細胞における各種mRNA発現を解析した.【結果】MS(n)群ではMS群と比較して,全てのT細胞サブセットでCD49d陽性率の低下を認めたが,CD49d+Th1/CD49d+Treg,CD49d+Th17/CD49d+Tregのいずれも高値を示した(p<0.05).ナタリズマブ投与後に悪化を認めた症例では,これらの値が高値を示した.また,MS(n)群ではMS群と比較して,CD49d陽性メモリーCD4 T細胞中の炎症関連遺伝子の発現が高く,制御関連遺伝子の発現が低かった(p<0.05).【結論】ナタリズマブ投与によって,CD49d陽性率は制御性T細胞においてより大きく低下した.中枢神経浸潤能を保持するCD49d陽性T細胞集団においては,炎症・制御バランスの悪化が示唆された.ナタリズマブ不応性の一因になっている可能性があると考えた.
  • 横田 俊平, 黒岩 義之, 西岡 久寿樹
    2015 年 38 巻 4 号 p. 288a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      ヒト・パピローマウイルス(HPV)は一般的な感染因子であり,子宮頸部基底細胞への感染は部分的には癌発症の契機になる.子宮頸癌を予防する目的でHPVワクチンが開発され(CervarixとGardasil),約340万人の若年女性に接種が行われた.しかし,HPVワクチン接種後より全身痛,頭痛,生理異常,病的だるさ・脱力・不随意運動,立ちくらみ・繰り返す便秘・下痢,光過敏・音過敏,集中力低下・計算力と書字力の低下・記憶障害などを呈する思春期女性が増加している.「HPVワクチン関連神経免疫異常症候群(HANS)」と仮称し,当科外来を受診した51例の臨床症状の把握とその体系化を行った.すべての症例は,HPVワクチン接種前は良好な健康状態・知的状態にあり,接種後,全例が一様に一連の症候の重層化,すなわち,疼痛性障害,不随意運動を含む運動器機能障害,感覚障害,生理異常,自律神経障害,高次脳機能障害と進展することを確認した.このように幅広いスペクトラムの疾患の記載はこれまでになく,これらの症候を同時に呈する中枢神経障害部位についての検討をすすめ,「視床下部 下垂体病変」と捉えられることが判明した.病態形成にはミクログリアが関わる自然免疫,HPVワクチン抗原のペプチドと特異なHLAが関わる適応免疫の両者が,強力なアジバントの刺激を受けて視床下部の炎症を繰り返し誘導していると考えている.治療にはramelteon(circadian rhythmの回復),memantine(シナプス伝達の改善),theophylin(phosphodiesterase inhibitorの抑制)を用い対症的には対応が可能となったが,病態に根本的に介入できる薬剤はいまだ手にしていない.
  • 廣畑 俊成
    2015 年 38 巻 4 号 p. 288b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      全身性エリテマトーデス(SLE)は代表的な自己免疫疾患であり,様々な中枢神経病変を生じる.これには,局所病変を主徴とするneurologic syndromesと高次脳機能異常を主徴とするdiffuse psychiatric/neuropsychological syndromesの2があり,後者は従来“ループス精神病”と呼ばれてきた.近年ループス精神病の病態形成において注目を集めているのが,N-methyl-D-aspartate(NMDA)受容体に対する自己抗体である.NR2AとNR2Bに共通するエピトープに対する抗体(抗NR2抗体をマウスの脳に投与すると神経細胞がアポトーシスを起こす.ヒトのループス精神病においても髄液中の抗NR2抗体が病態形成に関与している.一方,抗Sm抗体が神経細胞と反応し,ループス精神病の患者の髄液中で上昇していることも示された.これらの自己抗体の髄液中での上昇は中枢神経内での産生の亢進に起因するのではなく,脳血液関門の障害による血中からの流入の増加による事が証明されている.今後,脳血液関門の障害がいかなる機序で起るのかについて検討してゆくことが病態解明と新たな治療ターゲットの同定のために必要である.一方,neurologic syndromesの病態については,抗リン脂質抗体による血管障害以外についてはよくわかっていない.最近,横断性脊髄炎を初めとしたいくつかの症状について,血管炎が関与する可能性が示唆されている.
  • 新井 万里, 水野 慎大, 南木 康作, 長沼 誠, 金井 隆典
    2015 年 38 巻 4 号 p. 289a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      ヒト腸管には多種多様な腸内細菌が生息し,生体の恒常性維持に重要な役割を担っている.次世代シークエンサーを用いた解析により,炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease: IBD)・過敏性腸症候群などの腸管疾患のみならず,生活習慣病・自閉症など様々な疾患で,腸内細菌叢の構成の異常(dysbiosis)が示されている.特にIBDでは腸内細菌叢の深い関与が明らかになっており,プロバイオティクス投与による腸内細菌叢の制御メカニズムも科学的に解明されつつある.我々のグループでも,プロバイオティクスとして知られるクロストリジウム・ブチリカムが,マクロファージ・樹状細胞を介して腸管炎症を抑制する機序を明らかにした.さらに,ヒト由来の複数種のクロストリジウム属細菌が制御性T細胞を誘導して腸炎を抑制することも報告されており,複数菌種の投与がより効率よくdysbiosisを改善すると考えられている.これらの流れを受けて健常人の糞便を投与する糞便微生物移植(Fecal micro: FMT)が脚光を浴びている.難治性クロストリジウム・ディフィシル感染症に対するランダム化比較試験でFMTが著しい再発抑制効果を示したことも相まって,IBDにおけるFMTの有効性が検討されている.これまで評価は二分されており,我々のグループは本邦初となるIBDに対するFMTを開始した.新たな治療戦略につながる可能性も含め,腸内細菌とIBDの関係性およびFMTの現状を報告する.
  • 久保 亮治
    2015 年 38 巻 4 号 p. 289b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      皮膚には角層のバリアと,その内側で液性環境の恒常性を保つタイトジャンクション(TJ)バリアの2つの物理的バリアが存在する.表皮内樹状細胞であるランゲルハンス細胞(LC)は,TJバリア外に樹状突起を延長して外来抗原を取得し,先制免疫の獲得に働くことを我々はマウスを用いて明らかにしてきた.本研究では,健康人皮膚と,角層バリア破綻が発症因子となるアトピー性皮膚炎(AD)患者皮膚の3次元観察を行った.ヒト皮膚でも活性化したLCはTJを突き抜けて樹状突起を角層直下へと延ばしていた.AD患者病変部では,活性化してTJ外に樹状突起を延ばしたLCが増加しており,経皮感作が亢進している可能性が示唆された.AD患者表皮には,inflammatory dendritic epidermal cell(IDEC)と呼ばれる,LCとは異なる特徴を持った樹状細胞が出現する.今回の観察により,IDECはLCと比較して表皮の深いところに位置し,周囲のLCが活性化してTJバリア外に樹状突起を延ばしている状況でも,常にTJバリア内に留まることを明らかにした.AD患者ではLCとIDECのいずれもがIgEレセプターを発現するが,TJ外に出た樹状突起先端に濃縮するlangerinとは異なり,IgEレセプターはTJバリアの内側の細胞膜に分布していた.すなわち,皮膚バリアを良い状態に保つことにより,新たな経皮感作やIgEを介したアレルギー反応を予防できることが予想され,AD患者の治療におけるスキンケアの重要性を示した.
  • 小林 拓, 中野 雅, 豊永 貴彦, 日比 紀文
    2015 年 38 巻 4 号 p. 290a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease, IBD)とは,原因不明の慢性炎症が主として下部消化管を侵す疾患であり,潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis, UC)とクローン病(Crohn's disease, CD)の2疾患を指す.最近では,全ゲノム関連研究(GWAS)の手法の導入によって多くの疾患感受性遺伝子が報告され,現在ではその数は少なくとも163に上る.これらの疾患感受性遺伝子は,主として1)サイトカインに関するもの(IL12B IFNG, IFNGR2, IL10),2)リンパ球の活性化に関するもの(STAT1, PTPN22, JAK2),3)IL-17産生制御にかかわるもの(STAT3, IL23R),4)細菌に対する防御反応(NOD2, CARD9),5)オートファジーに関するもの(ATG16L1, IRGM),に大別され,炎症性腸疾患の病態を概ね物語っているととらえることができる.しかしながらCD,UCの一方のみで関与があるものは限定的で,大半の遺伝子がCDとUCに同方向性の影響を持っている(Jostins L et al. Nature 2012).本邦のCD患者にはNOD2の変異は存在せず,対してTNFSF15が疾患感受性遺伝子であることがわかっているなど,人種間で疾患感受性遺伝子に関する知見が異なることも興味深い.本ワークショップでは,我々が行ってきたIBD疾患感受性遺伝子NFIL3(Nuclear factor, interleukin-3 regulated)の臨床免疫学的解析の結果を例に示し,疾患感受性遺伝子の研究が病態解析に与えるインパクトについても述べたい.
  • 中川 秀己
    2015 年 38 巻 4 号 p. 290b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      乾癬は慢性の経過を取る炎症性角化症の代表疾患であり,遺伝的素因に種々の環境因子が加わって発症する多因子遺伝性皮膚疾患である.本邦での有病率は約0.3%である.乾癬では自然および獲得免疫の機能異常が知られているが,最近の研究からその発症・維持にT helper 17(Th17)/interleukin 17(IL-17)軸が重要な役割を担っていることがわかってきた.活性化した樹状細胞から産生されるIL-23によりTh17細胞が活性化され,IL-17をはじめとする種々の炎症性サイトカインが産生され,表皮細胞や血管に反応を引き起こす.活性化された表皮細胞は様々なサイトカイン,ケモカインを産生し,炎症性細胞浸潤を引き起こし,乾癬の炎症のループが形成される.IL-17はAからFまでの6つのサブタイプが知られているが乾癬で発現が増強しているのはA, C, Fである.これら事実を背景にIL-17を標的としたsecukinumab(本邦で既認可),brodalumab,ixekizumabの3種類の抗体薬が作られ,臨床試験により乾癬皮疹を著明に改善する結果が得られている.Secukinumabはヒト型IgG1κ抗IL-17A,ixekizumabはヒト化IgG4抗IL-17A,brodalumabはヒト型抗IL-17受容体モノクローナル抗体である.これらの抗体の作用機序,臨床効果,安全性についてのデータを述べ,乾癬治療における位置づけを考えてみたい.
  • 善本 知広, 松下 一史
    2015 年 38 巻 4 号 p. 291a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      アレルギー疾患の本質を担うIgE抗体が発見されて来年で50年を迎える.過去20年ほどの間にアレルギーに関する研究は飛躍的に進展してきた.そこには免疫学の進歩が大きく貢献している.しかし,未だアレルギー発症機序には不明な点が多く,根本的な治療技術は確立されていない.その結果,国民の約40%がアレルギー性鼻炎の症状に悩み,食物アレルギーの児童が学校給食によって死に至る症例も後を絶たない.
      このような問題点が生じている理由として次の2つが考えられる.まず,アレルギー疾患の多様性・複雑性があげられる.アレルギー反応は抗原の種類や感作経路などによって多様な炎症像を呈する.さらに,これまで知られていた免疫細胞に加え,2009年新たに発見された2型自然リンパ球や,上皮細胞などの非免疫細胞がアレルギー性炎症に関与することが明らかになった.2つめの理由として,動物モデルにおける知見とそれの患者への応用との間に大きな乖離が見られることがあげられる.遺伝子改変マウスを用いた研究成果は非常に有用である.しかし,マウスとヒトでの発症機序は必ずしも一致しない.そのためにも,モデルマウスで得られた知見と患者で得られた情報とを相互にフィードバックしていくことが重要である.
      本ワークショップでは,私たちの研究を中心に,様々なヒトアレルギー疾患の病態を基盤としたモデルマウスの作製と発症機序の解明,さらに新規治療技術の開発を紹介したい.
  • 田中 敏郎
    2015 年 38 巻 4 号 p. 291b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      現在,関節リウマチ,若年性特発性関節炎,キャスルマン病に対する治療薬として承認されているヒト化抗IL-6受容体抗体トシリズマブは,他の様々な慢性に経過する免疫難病にも新たな治療薬となる可能性があり,臨床試験が進められている.また,最近,キメラ抗原受容体を用いたT細胞療法に合併するサイトカイン放出症候群にもトシリズマブが著効することが示され,IL-6阻害療法は,サイトカインストームを呈する急性全身性炎症反応に対しても新たな治療手段となる可能性がある.サイトカインストームには,サイトカイン放出症候群,敗血症ショック,全身性炎症反応症候群,血球貪食症候群やマクロファージ活性化症候群など含むが,特に敗血症ショックでは,病初期のサイトカインストームとその後の二次性の免疫不全状態により,予後が極めて悪く,しかし有効な免疫療法がないのが現状である.敗血症患者ではIL-6は著増し,IL-6の血管内皮細胞の活性化,心筋抑制や凝固カスケードの活性化等の多彩な作用,また,同様な病態を呈するサイトカイン放出症候群に対するトシリズマブの劇的な効果を見ると,IL-6阻害は敗血症に伴う多臓器不全に対して有効な治療法となる可能性がある.しかし,現在,トシリズマブは重篤な感染症を合併している患者には禁忌であり,どのように挑戦するのか,症例(報告)の解析,患者検体,動物モデルを用いた我々のアプローチを紹介したい.
  • 藤井 隆夫, 近藤 聖子, 石郷岡 望, 三森 経世
    2015 年 38 巻 4 号 p. 292a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      全身性エリテマトーデスの中枢神経障害(NPSLE)は難治性病態のひとつである.その発症機序は不明であるが,一部の自己抗体が関与している可能性がある.血液脳関門の透過性亢進により血中の抗N-methyl-D-aspartate glutamate receptor(NR2)抗体が中枢神経系に流入し,海馬の神経細胞を直接的に障害することが示唆されている.われわれは,NPSLEにおいて髄液中抗NR2抗体陽性例では陰性例に比し髄液中IL-6濃度が有意に上昇することを確認した(67.4 vs. 22.3 pg/mL, p<0.01).一方,髄液中抗U1RNP抗体陽性が髄液中IFN-αやMCP-1濃度の上昇と関連することを報告し,これらのinflammatory mediators(IMs)がアストロサイトの傷害を示唆する血清中S100B濃度と相関することを示した(IFN-α, r=0.541, p<0.001; MCP-1, r=0.441, p<0.005).したがって髄液中抗U1RNP抗体(あるいはその免疫複合体)はIMsを介して間接的に脳障害に関与すると考えている.しかし,これら髄液中の自己抗体はNPSLEの診断には有用であったが特異的な臨床・画像所見を予測することは困難であった.これはひとりのNPSLE患者がしばしば複数の自己抗体を有すること,また自己抗体のみではすべての病態形成が説明できないことに起因すると考えられる.髄液中の自己抗体が治療ターゲットを決めるバイオマーカーになるためには,他の自己抗体も含め,より詳細な検討が必要である.
  • 森尾 友宏
    2015 年 38 巻 4 号 p. 292b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      原発性免疫不全症は現在,9つのカテゴリーが設定され,今までに300以上の責任遺伝子が判明している.最近では易感染性以外に,炎症や自己免疫を主体とする疾患,疾患群の中に免疫不全症が内包されるもの,なども数多く報告されている.1991年ごろから原発性免疫不全症の原因遺伝子が少しずつ明らかになってきたが,近年は全遺伝子情報とSNP情報が明らかになる中,高速大量シークエンス法の応用により,毎月のように新しい遺伝子が報告されている.既知疾患が稀な表現型をとるものも比較的多いことや,常染色体劣性ではなく,片アリル変異による疾患も多いことが明らかになってきた.私たちの施設は「原発性免疫不全症データベース」の参加・相談施設としてWeb相談システムにより,年間200症例以上の相談を受け,かずさDNA研究所との連携の中年間160以上の検体の既知遺伝子解析を焦点を絞った形で実施している.2011年からは,かずさDNA研究所,理化学研究所などとの共同研究により,90症例前後の全exome解析から責任遺伝子探索を行ってきた.全国的・世界的な共同体制から,真の責任遺伝子を探索することが重要であり,新規遺伝子候補が得られた場合の機能解析の体系化・最適化が喫緊の課題である.この講演では,新規遺伝子探索の進歩と問題点について例を挙げて提示したい.
Rising Star Workshop
  • 村上 孝作, 村上 功, 塩見 葵, 石川 優樹, 中嶋 蘭, 橋本 求, 井村 嘉孝, 湯川 尚一郎, 吉藤 元, 大村 浩一郎, 藤井 ...
    2015 年 38 巻 4 号 p. 293a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      n-6系多価不飽和脂肪酸に分類されるアラキドン酸(AA)が主に炎症惹起性メディエーターの基質であり,リウマチ性疾患における炎症・疼痛を増悪させることは,NSAIDsが今なお数多く処方されている事実からも論をまたない.一方,n-3系多価不飽和脂肪酸であるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は,近年のメタボローム解析技術発展に伴って,酵素的・非酵素的に強力な炎症収束作用を有するメディエーター(Specialized pro-resolving mediator; SPMと称される)に変換されることが明らかとなってきた.これまでに,変形性膝関節症の滑液中に種々のSPMが検出されること,また膝蓋下脂肪組織由来の脂肪細胞がT細胞のIFN-γ分泌上昇やマクロファージのIL-12p40分泌低下を促進させることが明らかとなっている.我々は,同疾患における局所滑膜組織にSPMに対する既知の受容体が発現しており,LPS刺激によって一部の受容体発現量が増加することを突き止めた.さらに,関節リウマチや各種リウマチ性疾患では,各種血球系細胞表面のSPM受容体が健常対象と比較し増加すること,副腎皮質ステロイド投与によってそれらの発現量が更に増加する傾向にあることも明らかとなりつつある.SPMが免疫疾患全般における疾患制御の新規ターゲットとなり得るpotentialについて,検討を進めて参りたい.
  • 高橋 勇人
    2015 年 38 巻 4 号 p. 293b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      尋常性天疱瘡(PV)は抗デスモグレイン3(Dsg3)自己抗体により全身皮膚や口腔粘膜などに水疱やびらんが多発する皮膚自己免疫疾患である.自己抗体の産生にはDsg3反応性CD4+ T細胞が密接に関連していると考えられている.私達の研究グループではマウスからDsg3特異的T細胞受容体(TCR)遺伝子を単離し,TCRトランスジェニックマウス(Dsg3H1マウス)を作成,解析を行ってきた.Dsg3特異的T細胞の挙動を解析すると,Dsg3依存性に免疫寛容を受けT細胞が除去されることから,マウスにDsg3特異的免疫寛容が存在することが示された.ある条件下では,Dsg3特異的T細胞は自己抗体を誘導するばかりでなく皮膚に直接浸潤して皮膚炎を生じ,その病理学的変化が従来病態がほとんど不明であったinterface dermatitis(ID)であることを明らかにした.Dsg3特異的T細胞のIFNγを欠失させるとIDが生じない事から,IFNγがIDの誘導に重要であると判明した.一方,Dsg3H1 T細胞を,代表的なヘルパーT細胞サブセットであるTh17細胞に分化させ,皮膚炎を誘導させると,IDの病理は示さず,乾癬様の皮膚病理学的変化を誘導し,乾癬が表皮に対する自己免疫応答でも誘導されることを示唆した.Dsg3H1マウスはDsg3に対する液性および細胞性免疫の両者を解析可能とし,Dsg3特異的T細胞は天疱瘡だけでなく,炎症性皮膚疾患の病態解析にも有用と考える.
  • 吉崎 歩
    2015 年 38 巻 4 号 p. 294
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      自己免疫疾患を考えるに際し,免疫系が有する抗原特異性は最も重要な因子の一つです.私はこれまでB細胞を主とした研究を行って来ましたが,B細胞は単に抗体を産生するだけでなく,抗原特異的にT細胞へ影響を与えるなど,免疫において中心的な働きをすることが明らかとなっています.しかし,自己免疫疾患における抗原特異的B細胞についての検討は,その存在数の少なさから未だ十分ではなく,まだまだ本質に迫れていない感があります.私は留学中に制御性B細胞の分化増殖機構を研究し,生体外で制御性B細胞を増殖させることを可能としました.この過程の中で,一つのB細胞はおよそ2万倍まで増殖しており,個々の抗原特異的B細胞についての検討を行うことができます.ところが,様々なサイトカインなどの刺激が加えられるこの系では,生体での抗原特異的B細胞の働きを正確に捉えることは出来ず,自己反応性B細胞の持つ病原性の本質に迫ることはできませんでした.個々の自己反応性B細胞の機能について検討するためには,単一細胞が持つ微量な蛋白,遺伝子の測定が必須となります.このような解析を可能とする技術は,我々が使える手法の中にはまだありません.今回はミッドウィンターセミナーで私が学んだ「本質に迫る」という理念のもと,上記の点を解決すべく思い至った単一B細胞解析について,東大工学部と共同開発を始めた独自の統合単一B細胞解析システムのご紹介をしたいと思います.
ランチタイム教育講演
  • 竹田 潔
    2015 年 38 巻 4 号 p. 295
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      近年患者数が急増しているクローン病・潰瘍性大腸炎などの炎症性腸疾患は、我々宿主の遺伝的素因に腸内環境の変化が相まって発症する疾患であり、そのためにその詳細な発症メカニズムが明らかになっていない難病である。炎症腸疾患の病態解明のため、これまで様々な腸炎モデルマウスが作成されるとともに、ゲノムワイド関連解析(GWAS)によりヒト炎症性腸疾患患者の疾患感受性遺伝子座が同定され、様々な免疫関連遺伝子が炎症性腸疾患の発症に関与していることが明らかになってきている。腸管には腸内細菌が存在していて、腸管免疫系の発達に深く関与していること、炎症性腸疾患の患者で腸内細菌叢の変化が見られることなどが明らかになってきている。実際、いくつもの腸炎モデルマウスで、腸内細菌依存性に炎症が発症することが証明されている。通常、腸内細菌と免疫系は、腸管上皮により隔離されていて接触することはないと考えられている。しかしながら、腸管上皮による腸内細菌と免疫系の隔離メカニズムは明らかになっていない。本講演では、腸管上皮による炎症抑制メカニズムも含めて、最新知見を紹介したい。
  • 齋藤 滋
    2015 年 38 巻 4 号 p. 296
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      有胎盤哺乳類は進化の過程で、子宮内でsemi-allograftを許容する免疫学的トレランス機構を獲得した。一方、母子間で微量の血液が混ざるためmicrochimerismが生じ、自己免疫疾患のリスクを背負うことになった。また最近では生物製剤の使用により、自己免疫疾患をコントロールできるようになったため、女性が妊娠を望むようになってきている。このような背景にあるため、自己免疫合併妊娠を治療する機会が増えてきたが、産婦人科医も内科医も、どのように対応したら良いか判らない状況にある。抗TNFα製剤の妊娠時の使用に対する安全性や出産後の新生児への注意事項なども判明しつつある。本演題では妊娠時の免疫系の特徴をレビューした後に、自己免疫疾患合併妊娠の対応についても紹介したい。本演題により、1人でも多くの自己免疫疾患合併女性が健児を得て欲しいと熱望している.
モーニングセミナー
  • 釣木澤 尚実, 押方 智也子, 粒来 崇博, 齋藤 博士
    2015 年 38 巻 4 号 p. 297
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      好酸球性多発血管炎性肉芽腫症Eosinophilic granulomatosis with polyangiitis(EGPA)は末梢血好酸球増多を伴う全身性壊死性血管炎である.EGPAの原因は未だに不明であり,他の好酸球増多疾患と鑑別できる明確な指標はなく,血管炎の再燃時に末梢血好酸球数が必ずしも増加しないこともあり,疾患活動性として有用なバイオマーカーは確立されていない.我々はEGPAの発症,増悪のメカニズムに制御性T細胞(Treg細胞),Th17細胞が関与すること(JACI 2008;122:610,IAAI 2009;149:61),末梢血のCD14-immature DCをex vivoでIL-4,GM-CSF存在下で培養し,寛解期にはCD83陽性のmature DCが誘導され,Treg細胞の分化と相関することを報告した(BMC Immunol 2014;15:32).EGPAの病態にはDCとTreg細胞の相互作用が関与する.EGPAの主な治療はステロイド,免疫抑制剤(cyclophosphamide, azathioprine, methotrexate, cyclosporineなど)であるが,比較的最近の治療としてrituximab,omalizumab,mepolizumab,IVIG等がある.IVIGは2010年1月にステロイド抵抗性の末梢神経障害に対して保険適応となったが,初期治療としては奏功しないこと,有効性の高い初回投与の時期や投与間隔,寛解導入までの投与回数など臨床応用では解決されていない問題が残る.我々はIVIG投与により長期的にTreg細胞が増加し,経口ステロイドの減量が可能であること(JR 2012;39:1019),IVIG投与後のTreg細胞の増加率が次のIVIG投与を予測する(Clin Transl Allergy 2014;4:38)ことを報告し,IVIGの有効性の高い投与方法を開発中である.これまでの診断の向上や治療の進歩によりEGPAの予後は改善したと考えられるが,高齢発症(65歳以上)は予後不良であり,管理には慎重を要する.本セミナーではEGPAの病態と治療・管理に関する最新の知見をお話させていただく予定である.
ランチョンセミナー
  • 桑名 正隆
    2015 年 38 巻 4 号 p. 298
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      近年,関節リウマチ(RA)の治療体系が大きく変貌し,速やかに寛解を達成するために頻繁かつ厳密な薬物療法の調整が求められている.このような変革に病態に関わるサイトカインや免疫担当細胞を標的とした生物学的製剤の果たした役割は大きい.RAでは寛解導入を早期に達成するとともに,寛解を長期に渡って維持することも大切で,そのために効果減弱させない工夫や安全性マネージメントなど多面的アプローチが必要である.効果減弱(二次無効)の原因として抗製剤抗体の産生が大半を占める.全ての生物学的製剤は免疫原性を有し,抗原認識部位に対する抗イディオタイプ抗体だけでなく,マウス由来部分や人為的に融合させた部位に対して抗体が産生される.これら抗製剤抗体が産生されると製剤のリガンド結合が阻害されるだけでなく,免疫複合体形成を介したクリアランス亢進により血中濃度も低下する.さらに,抗製剤抗体は投与時反応を惹起することで安全面でも継続率を下げる原因となる.抗製剤抗体産生に関わる要因として疾患活動性,遺伝的素因,抗製剤抗体産生の既往,使用する製剤の免疫原性,投与法(用量,投与間隔,ルート),メトトレキサートなど免疫抑制薬の併用などが知られている.抗製剤抗体による二次無効を減らして長期の寛解を維持するためには,これら要因を考慮した生物学的製剤使用の最適化が必須である.
  • 上阪 等
    2015 年 38 巻 4 号 p. 299
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      多発性筋炎・皮膚筋炎(PM/DM)は,膠原病内科,皮膚科,神経内科で診療されてきており,その内容は3科で少しずつ異なり埋めがたい溝があった.その意味で,この疾患には共通の免疫病態を異なった見方でphysician-scientistsが語り合う日本臨床免疫学会の縮図がある.日本臨床免疫学会に属する私達はこの溝を埋めるべく数年前から活動してきた.厚生労働省自己免疫疾患研究班内でのPM/DM分科会の設置,2013年に本学会総会と日本神経免疫学会学術集会との合同開催はその象徴である.同分科会では,自己免疫疾患研究班住田班長の指導と同班構成員の協力の下に,新しいPM/DM国際診断基準の我が国の患者での検証を行うとともに,3科が合意できる治療ガイドラインを作成してきた.
      治療のアルゴリズム,副腎皮質ステロイド薬の使い方,考慮すべき免疫抑制薬の種類と投与方法,大量免疫グロブリン静注療法の使いどころ,生物学的製剤の可能性,筋炎以外の病態や合併症に対する治療,活動性評価法,リハビリテーションまでにわたるクリニカルクエスチョンに答えることができた.
      このガイドラインは,まさに臨床免疫学会メンバーの努力の結晶といえる.今後加わるべきは,新たな診断基準の使い方である.さらに小児皮膚筋炎診療も含めなくてはならない.PM/DMをめぐる臨床免疫学の挑戦は続く.
  • 田中 良哉
    2015 年 38 巻 4 号 p. 300
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      関節リウマチは代表的な自己免疫疾患である.治療には,免疫異常を是正して疾患制御することを目的として,生物学的製剤が導入されて画期的な治療変革を齎した.しかし,点滴か注射での使用に限定され,同様の有効性を有する内服可能な低分子量化合物による分子標的薬が期待されてきた.低分子量化合物ならば,細胞内シグナル伝達分子を阻害することも可能となる.病態形成には,細胞内シグナル伝達を介する細胞の活性化・制御が関与するが,その代表がリン酸化酵素キナーゼである.ヒトでは518のキナーゼが同定されるが,大部分のサイトカインシグナルはチロシンキナーゼを介して伝達される.チロシンキナーゼであるJAKを標的とした低分子標的薬トファシチニブは,関節リウマチに平成25年に承認された.6つのグローバル第3相試験で,5または10mgを1日2回経口投与により,MTX治療抵抗性症例,抗リウマチ薬未使用早期症例,TNF阻害薬抵抗性症例において,MTXとの併用あるいは単剤使用でも,TNF阻害薬と同等の迅速で強い臨床効果を示した.一方,有害事象は,感染症,肝機能値異常,脂質代謝異常,好中球減少,貧血等であるが,悪性腫瘍発症の懸念などが議論され,欧州ではリスクとベネフィットのバランスの観点から本薬剤は依然として未承認である.しかし,本薬剤以外にも多様なJAK阻害薬が臨床開発段階にあり,また,リウマチ以外の自己免疫疾患に適応が拡大されようとしている.今後,市販後調査等により長期安全性が確立されれば,新たな治療変革に繋がるものと期待される.
スイーツセミナー
  • 金子 新
    2015 年 38 巻 4 号 p. 301
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      末梢に存在する殆どのT細胞は,T細胞受容体(TCR)α鎖とβ鎖を主な構成成分とするT細胞受容体(TCR)によって標的細胞のMHC-ペプチド複合体を認識して増殖し,各種エフェクター機能を呈する.TCR鎖は胸腺におけるT細胞の分化過程で産生されるが,TCR遺伝子再構成と呼ばれるゲノム編集によってその多様性を生ずるとともに,その後の分化において固定したTCRを安定的に発現する.
      一方,優れた増殖能と多分化能を持つiPS細胞は,体細胞を初期化して得られる多能性幹細胞である.我々はiPS細胞の樹立過程において体細胞のエピゲノム情報は初期化されるがゲノム情報は維持されることに着目し,抗原特異的な再構成済みTCRを持つiPS細胞を樹立し,そこから同じ抗原を認識するT細胞を再生する手法を報告した.この技術は従来の抗原特異的T細胞の体外増幅が抱える問題点,すなわち抗原特異的T細胞のex vivoへの分離と過度の増殖にともなう疲弊現象(=機能低下)を解決し,大量の抗原特異的T細胞を用いた再生医療の可能性を示した.ウイルス疾患や悪性腫瘍等の治療において抗原特異的な細胞傷害性T細胞の輸注は有望な治療戦略の一つであるし,もし抗原特異的なT細胞サブセットを自由に誘導できれば,臨床応用への貢献は極めて大きいと予想される.
      本講演ではiPS細胞を介して誘導した再生T細胞の特徴と再生医療への応用について紹介する.
  • 齋藤 潤
    2015 年 38 巻 4 号 p. 302
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      人工多能性幹細胞(inducible pluripotent stem cells: iPS細胞)は,京都大学の山中伸弥教授らによって樹立された,体細胞より誘導可能な多能性幹細胞の一種である.疾患を持つ患者さんから血液や皮膚線維芽細胞などの体細胞を採取し,これらからiPS細胞を樹立すると(疾患iPS細胞),このiPS細胞を患者の罹患細胞へ分化させることにより,患者由来の様々な分化細胞を得て,疾患解析や創薬へ応用することができる.免疫疾患の解析にiPS細胞を用いるためには,iPS細胞樹立以外に,免疫担当細胞を分化させる系や機能解析系を確立する必要がある.すでに,先天性免疫不全や自己炎症性疾患などの疾患でiPS細胞が樹立され,解析例が報告されている.本発表では,疾患特異的iPS細胞を用いた解析に適した血球分化系の開発と,それを用いた免疫疾患に対する疾患特異的iPS細胞を用いた研究について紹介したい.
  • 藤井 隆夫
    2015 年 38 巻 4 号 p. 303
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      関節リウマチ(RA)のTNF阻害薬には抗体製剤,レセプター製剤,ペグ化製剤があり,それらの臨床的有用性は微妙に異なる.はじめのTNF阻害薬が無効であっても2剤目が有効であることはよく経験する.この違いには,細胞傷害性や血中の製剤濃度(患者TNF-αを完全に中和できるか),また免疫原性などが関連すると考えられる.一般に抗体製剤はTreatment Holiday達成を考える上では有利であり,レセプター製剤はその免疫原性の低さから継続率が高い.ペグ化製剤であるセルトリズマブペゴル(CZP)は,loading doseが使用でき,投与1週後の速やかな臨床的有効性に加え,高疾患活動性のRAでは十分なTNF-α阻害効果が得られると考えられる.また最近発表された国内第III相試験(C-OPERA試験)ではメトトレキサート(MTX)ナイーブで予後不良因子を有するRA患者(抗CCP抗体高力価陽性)に対して高用量MTX単剤療法とCZP併用療法の24週および52週の臨床的評価が報告されている.特筆すべきはCZP群において,その有効性がベースラインのMMP-3,DAS28,mTSS,HAQ-DIの高い症例ほど明確なこと,労働生産性の有意な改善が認められること,さらにCZPの免疫原性が比較的少なかったことであろう.TNF阻害薬はどれも同じではなく,RA専門医は患者の状況に合わせ,適切な治療薬を選ぶよう工夫する必要がある.
  • 山村 隆
    2015 年 38 巻 4 号 p. 304
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      多発性硬化症(MS)は中枢神経系自己免疫疾患の代表であり,再発と寛解を繰り返しながら徐々に障害が進行する難病である.MSの第一世代医薬である,インターフェロンβ,グラチラマー酢酸は,作用機序と作用効果に不確実なところを残しながら,主に免疫制御作用を発揮する薬剤として評価されてきた.第二世代医薬は,特定の分子を標的にする分子標的医薬で,我が国ではフィンゴリモド(S1P受容体機能的アンタゴニスト)とナタリズマブ(抗α 4インテグリン抗体)が認可されている.いずれも第一世代医薬よりも全体として強い治療効果を発揮する.他方,これまで開発された薬剤を用いた治療では,ノンレスポンダーが一定の比率で現れる.これはMS病態の多様性を反映するものと考えられているが,治療反応性が予測できれば,適切な医薬による治療を早期に開始できる.米国が先導して話題になっている“Precision Medicine”に向けた研究開発は,癌に限らず,MSのような自己免疫疾患の治療を考える際にも重要な基本コンセプトになるであろう.本講演では,Precision Medicineによって免疫疾患の医療が大きく変化する可能性を議論したい.
  • 渡辺 守
    2015 年 38 巻 4 号 p. 305
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      炎症性腸疾患においては,初めてのBiologics抗TNF-α抗体の登場により,免疫過剰制御による炎症抑制に加えて,潰瘍粘膜の修復・再生が疾患再燃を防ぐ上で重要である事が明らかとされ,治療目標が症状制御から,「粘膜治癒」に大きく変化した.これまで免疫統御療法の開発のみであった炎症性腸疾患治療において,俄に粘膜再生医療に期待が集まっている.我々は正常な大腸上皮幹細胞を体外で増やし,長期維持できる技術を開発した.更に,傷害を誘導した別のマウス大腸に移植することで,培養細胞が被移植マウス大腸の傷害部を修復できる事を示した.この成果は,難治性炎症性腸疾患などのヒト疾患に対し,本人の大腸健常部から採取した微小組織を体外で増やして広範囲の傷害部を治療する新しい再生医療技術の基礎になるものと期待されている.我々は既に同様の技術を用いて,わずか4 mmのヒトの大腸内視鏡下生検組織から上皮幹細胞を増やす技術も確立している.これらの研究成果をさらに発展させ,iPS細胞やES細胞による再生医療とは異なる視点に立ち,本来の組織に固有の幹細胞を増やし移植に利用して,難治性炎症性腸疾患に対する再生医療を実現化させようと試みている.更に,正常腸上皮幹細胞培養技術は,腸内細菌および免疫細胞と大腸上皮細胞のinteractionなどの基礎研究に応用できる可能性をもち,特に腸管免疫機構解明への応用が期待される.
  • 亀田 秀人, 小倉 剛久
    2015 年 38 巻 4 号 p. 306
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      日本でもインフリキシマブのバイオシミラー(BS)製剤が承認され,数多くのBS製剤治験も行われている.BS製剤がもたらした功績は医療費の削減以上に,生物学的製剤への理解を深めたことにあると考えられる.オリジナル製剤との違いを問うことによって,個々の製剤の高次構造,作用機序,免疫原性などの詳細を,多くの臨床医が改めて検証したことであろう.その検証で確認された生物学的製剤の用量特性,Fc部分の意義などを含めて,本セミナーではBS製剤の基礎データを中心に解説し,課題や今後の可能性について議論したい.
一般演題(ポスター)
  • 山形 薫, 中山田 真吾, 中野 和久, 田中 良哉
    2015 年 38 巻 4 号 p. 309a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      【目的】炎症病態における細胞膜上の受容体型チロシンキナーゼRor1の役割が注目されている.本研究では,炎症性サイトカインで惹起されるRAの骨・軟骨破壊におけるRor1の役割をエピジェネティクス制御機構から検討した.【方法】FLSをIL-6で刺激後,Ror1発現をqPCR法で,Ror1プロモータへの転写因子の動員とヒストン修飾をChIP法で解析した.滑膜組織におけるRor1とMMP-13の発現分布を免疫染色で評価した.RAとOA由来FLSにおいて,種々の阻害剤を用い,MMP-13発現をqPCR法で解析した.対照およびc-Src阻害剤添加後,各種シグナル分子のリン酸化をWB法で,MMP-13プロモータに動員される転写因子をChIP法で決定した.【結果】IL-6刺激FLSはRor1プロモータにSTAT3を動員し,抑制系ヒストン修飾が検出され,Ror1の発現が抑制された.Ror1は滑膜表層にOA>RAで,MMP-13はOA<RAで発現した.Ror1発現抑制およびc-Srcを阻害されたFLSではMMP-13発現が増強した.c-Src阻害後,MMP-13プロモータにFoxO1が動員された.IL-6刺激後,MMP-13発現増強した.【結論】IL-6刺激FLSはSTAT3を介したエピジェネティック機序を介しRor1発現を抑制した.さらに,Ror1の下流にあるSrc-Akt経路不活性化によりFoxO1がMMP-13プロモータに動員されることでMMP-13が誘導された.以上,炎症性滑膜FLSにおいて,IL-6によるRor1発現低下がMMP-13発現誘導を介した軟骨基質分解を齎し,RA病態に寄与する可能性が示唆された.
  • 小荒田 秀一, 田代 知子, 中尾 嘉修, 徳田 悠希子, 小野 行秀, 丸山 暁人, 小野 伸之, 大田 明英, 多田 芳史
    2015 年 38 巻 4 号 p. 309b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      IgG4関連疾患(IgG4-RD)において,形質芽細胞の増加が報告されている.一方,SLEでも同細胞の増加が見られるが,抗dsDNA抗体等の自己抗体を産生し病態に深く関与する.しかし,IgG4-RDにおける形質芽細胞の役割は不明である.そこで,IgG4-RDとSLEの形質芽細胞のフェノタイプを比較した.IgG4-RD,SLE,健常者由来の単核細胞のCD19, CD138, RP105,各種表面抗原を多重染色し,フローサイトメトリーで解析した.RP105陰性の後期B細胞は,活性化B細胞から形質細胞に至る5つのサブセットに分画され,そのフェノタイプを比較した.また,RP105陰性B細胞数と臨床パラメーターとの関連を検討した.両疾患でRP105陰性B細胞は増加し,細胞比率は経過と疾患活動性に相関した.IgG4-RDでは,同比率は臓器障害数と有意な相関が認められた.分化段階別の細胞比では,IgG4-RDは,より早期の細胞群が,SLEは,より後期の細胞群が増加していた.また,SLEでは早期からBCMAの発現増加があったがIgG4-RDでは後期までCXCR5の発現が持続した.疾患に特異的な治療標的分子として,IgG4-RDではCXCR5-CXCL13ケモカイン経路が,SLEではBCMA/BAFF-R/TACI-BLyS/APRIL経路が示唆される.両疾患で形質芽細胞は,治療標的として重要性が示唆されているが,病態に応じた標的の策定が重要である.
  • 鈴木 英二, 屋代 牧子, 浅野 秀三, 佐藤 秀三, 菅野 孝, 小林 浩子, 渡辺 浩志, Zhang Xian, 大平 弘正
    2015 年 38 巻 4 号 p. 310a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      【目的】ループスモデルマウスを用いた研究にて,Ets-1 knockoutマウスではループス様病態の悪化が認められ,Fli-1 hetero knockoutマウスではループス様病態の改善が認められた.これら転写因子の全身性エリテマトーデス(SLE)患者末梢血での発現を計測し,臨床症状,検査値との関連を検討した.【方法】SLE患者44名(SLEDAI中央値4),関節リウマチ患者40名,健常人25名から末梢血単核球(PBMC)を採取し,RNAを抽出後,cDNAを作成し,realtime PCRにて各分子の発現を計測した.疾患発症時の臨床症状,検体採取時の臨床検査値と各分子との関連を検討した.また,PBMCを用いて樹状細胞,形質細胞様樹状細胞(PDC)の割合を計測した.【結果】SLE群ではFli-1の発現が他群と比べ有意に低値であり,Ets-1はSLE群,RA群とも低値であった.Ets-1とFli-1には正の相関が認められた.SLE発症時の臨床症状との関連では,腎炎を有する患者群でEts-1が高値,関節炎を有する患者でFli-1が低値の傾向にあった.プレドニゾロン投与量が多い程,Ets-1,Fli-1とも低値の傾向があった.インターフェロンpathway関連分子である,IRF5, TYK2の発現は低値であった.樹状細胞とPDCの割合には群間で差がみられなかった.【考察】SLE群においてEts-1,Fli-1の発現も低値であり,免疫抑制療法による影響が考えられた.また,SLE発症時の臨床症状との関連が認められ,各分子が病態に影響を与えている可能性が示唆された.
  • 江辺 広志, 松本 功, 井上 明日香, 田中 勇希, 倉島 悠子, 川口 星美, 住田 孝之
    2015 年 38 巻 4 号 p. 310b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      【目的】TIARPは,マクロファージからのTNF誘導性IL-6産生を抑制し関節炎を負に制御する分子と考えられている.そのTIARPのヒトホモログであるSTEAP4はRAの末梢血中CD14+単球に高発現し,関節炎をnegativeに制御している可能性が指摘されている.近年,TIARPスプライスバリアント(v-TIARP)がブタ肝細胞に発現することが報告されたが,その詳細な機能および関節炎における発現などは明らかでない.本研究では,関節リウマチ(RA)および関節炎モデルマウス(GPI誘導関節炎,GIA)におけるv-STEAP4/TIARPの発現を検討することを目的とした.【方法】1)RA患者由来PBMCを用いて,v-STEAP4発現を定量PCRにて検討した.2)GIAマウスの脾臓および関節におけるv-TIARP発現を定量PCRおよびウェスタンブロットを用いて検討した.【結果】1)RA患者由来のPBMC,特にCD14+単球において,exon3を欠損したv-STEAP4の発現を認めた.2)関節炎マウス由来の脾臓および関節において,exon3を欠損したv-TIARP発現を認めた.脾臓では関節炎発症早期(day7),関節では関節炎極期(day14)にv-TIARP発現のピークを認めた.【考察】v-STEAP4とv-TIARPの発現が,RA患者およびGIAマウスに認められたことから,STEAP4/TIARPバリアントが関節炎発症に共通に関わっている可能性が示唆された.現在,ヒト単球への遺伝子導入研究による機能解析を進めている.
  • 永渕 泰雄, 庄田 宏文, 住友 秀次, 仲地 真一郎, 加藤 里佳, 土田 優美, 土屋 遙香, 櫻井 恵一, 花田 徳大, 立石 晶子, ...
    2015 年 38 巻 4 号 p. 311a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      【背景】関節リウマチ(RA)の最大のリスク遺伝子はHLA-DRB1である.RA感受性HLA-DRB1遺伝子の共通アミノ酸配列はshared epitope(SE)と呼ばれるが,そのリンパ球サブセットに与える影響は不明である.【方法】計110名の健常人(HD)及びHLA-DRB1の遺伝子型をタイピングした91名のRA患者を対象とした.末梢血単核球のフローサイトメトリーによる24サブセットの免疫細胞タイピング,HLA-DRB1発現定量解析,CD4陽性T細胞でのCXCR4発現解析,マルチプレックスサイトカイン解析を行った.RA患者の疾患活動性指標DAS28や抗CCP抗体値を収集し関連を検討した.【結果】末梢血のCD4陽性メモリーT細胞CXCR4発現細胞比率がDAS28や抗CCP抗体値と相関を示したが,Th1, Th17にはそのような相関を認めなかった.SE陽性RA患者では,健常人やSE陰性群と比較して有意なCXCR4発現上昇を認めた.CD4陽性メモリーT細胞のCXCR4発現はB細胞上のHLA-DR定量値と正の相関を認め,in vitroの機能解析ではIL-21や抗原提示細胞上のHLA-DRとCXCR4発現の関連が示された.更にCXCR4の発現上昇を認める症例ではCTLA4-Igの有効性がより高く治療反応性とも関連することが示された.【結論】関節リウマチ患者の末梢血CD4陽性メモリーT細胞のCXCR4発現上昇は,CD4陽性メモリーT細胞の関節への遊走能上昇によって,遺伝因子であるSEと臨床的な疾患活動性及び抗CCP抗体とを結びつける可能性が示唆された.
  • 吉本 桂子, 石岡 江梨子, 西川 あゆみ, 鈴木 勝也, 竹内 勤
    2015 年 38 巻 4 号 p. 311b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      【背景・目的】我々はこれまで一次性シェーグレン症候群(pSS)患者末梢血単球ではBAFF受容体(BR3)の発現が健常人と比較して有意に亢進しており,単球でのBR3陽性率は患者血清IgG値と正の相関を示すことを明らかにした.そこで本研究ではpSS患者末梢血単球でのBR3発現亢進が関与するB細胞からのIgG産生機序の解明を試みた.【方法】pSS患者および健常人末梢血から単球を単離し,同一検体の末梢血B細胞とBAFF存在下で共培養し,培養上清中のIgG量をELISA法を用いて定量した.B細胞表面抗原およびBR3発現解析はFACS法を用いた.【結果・考察】末梢血単球とB細胞をBAFF存在下で共培養した場合,pSS患者細胞からのIgG産生量は健常人と比較して有意に高値であった.患者末梢血単球とB細胞をtranswell insertsを用いてBAFF存在下で共培養した場合も同様にIgG産生亢進は認められ,抗sIL-6R抗体はこのIgG産生を抑制することが明らかとなった.さら患者細胞を用いた本培養系ではCD38highIgDlowCD27lowのB細胞分画が増加していることが明らかとなり抗sIL-6R抗体はそれを抑制する傾向にあった.以上の結果からBR3が発現亢進したpSS患者末梢血単球はBAFFによりIL-6産生を亢進しB細胞の分化にも影響を与えIgG産生機構に寄与していることが示唆された.
  • 長谷川 均, Adnan Endy, 松本 卓也, 石崎 淳, 大西 佐知子, 末盛 浩一郎, 安川 正貴
    2015 年 38 巻 4 号 p. 312a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      自己免疫疾患では,より選択的で副作用が少なく長期間寛解を維持できる治療として,Treg細胞や寛容型樹状細胞(tDCs)を用いた抗原特異的な治療が注目されている.ヒトの未熟樹状細胞の成熟過程において,Cキナーゼ阻害剤(PKCI)を加えることで,安定性のあるtDCsが誘導できることを報告した.今回はPKCI-tDCsと既報告の誘導物質,すなわち,IL-10,TGF-β,vitamin D3(Vit D3),dexamethazone,rapamycin,PPARγ+retinoic acid(PPAR+RA)の6種類でそれぞれ誘導されたtDCsとのex vivoにて機能面の比較検討した.検討項目は,表面マーカー,貪食能,CCL19に対する遊走能,抑制型サイトカインの産生能,T細胞増殖抑制能,TregおよびIL-10産生細胞(Tr1)の誘導能である.貪食能はすべてのtDCsに同等に認められた.T細胞増殖抑制能が高いのは,PKCI,IL-10,Vit D3,PPAR+RAの4種類から誘導されたtDCsであった.これらのうち,Tr1誘導能が高いのはIL-10とPKCI,Treg誘導能が高いのは,PKCIとPPAR+RAであった.これらのうち,CCL19に対する遊走能が比較的高く維持されていたのはPKCIであった.以上より,(1)Treg細胞誘導の反応の場である二次リンパ組織へのCCL19に対する遊走能が維持されていること,(2)炎症状況下でも安定していること,(3)Tr1細胞やTreg細胞などの機能的な抑制性T細胞が十分誘導できることの臨床応用3原則を満たしているのは,単独ではPKCIが最も有力であった.
  • 坪井 洋人, 松本 功, 萩原 晋也, 高橋 広行, 柳下 瑞希, 高橋 秀典, 藏田 泉, 廣田 智哉, 江辺 広志, 横澤 将宏, 浅島 ...
    2015 年 38 巻 4 号 p. 312b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      【目的】関節リウマチ(RA)合併二次性シェーグレン症候群(SS)に対するアバタセプトの有効性と安全性を明らかにする.【方法】20歳以上のRA合併二次性SSを対象に,オープンラベル,多施設共同,前向き観察研究(ROSE trial)を行った.1)主要評価項目はアバタセプト開始52週間後の,SDAIの寛解割合とした.2)副次評価項目として,サクソンテスト,シルマーテストを評価した.3)52週間の継続率,観察期間中に発生した有害事象を解析した.【結果】36例が登録され,平均年齢54.9±14.0歳,全例女性であった.1)アバタセプト開始後,SDAIは20.6±11.2(0週,ベースライン)から10.0±10.5(52週)に有意に低下した(P<0.05).SDAI寛解を達成した症例数は,0例(0週)から12例(33.3%)(52週)に増加した.2)サクソンテストによる唾液分泌量は,2136±1809(0週)から2397±1878(24週)mg/2分に有意に増加した(N=34,P<0.05).シルマーテストによる涙液分泌量は4.2±4.8(0週)から6.4±7.8(24週)mm/5分に有意に増加した(N=30,P<0.05).3)36例52週間の観察期間で,継続率は80.6%(29/36例)であった.有害事象は12件,10症例で発生し,うち7件は感染症であった.【結論】RA合併二次性SSのRA所見およびSS所見に対して,アバタセプトの有効性が示された.
  • 伊沢 久未, 磯部 優理, 奥村 康, 北村 和名, 北浦 次郎
    2015 年 38 巻 4 号 p. 313a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      An inhibitory receptor LMIR3/CD300f is mainly expressed in myeloid cells, including mast cells and neutrophils. We have recently demonstrated that ceramide-LMIR3 binding inhibits IgE- and mast cell-dependent allergic responses. Sepsis remains a major clinical problem. Negative regulation of innate immunity is associated with sepsis progression. Here we identify the critical role of ceramide-LMIR3 binding in suppressing innate host responses. LMIR3−/− mice were protected against lethality after cecal ligation and puncture (CLP), a murine model of septic peritonitis. In the peritoneal cavity of CLP-operated LMIR3−/− mice, mast cells and recruited neutrophils released high levels of neutrophil chemoattractants, leading to enhanced recruitment of neutrophils that efficiently eliminated Escherichia coli. Ceramide-LMIR3 interaction suppressed such release from Escherichia coli-stimulated mast cells and neutrophils. Importantly, treatment with ceramide antibody or LMIR3-Fc, which disrupted the ceramide-LMIR3 interaction, prevented CLP-induced sepsis by profoundly stimulating neutrophil recruitment. Thus, LMIR3 is an attractive target for the treatment of sepsis.
  • 岩田 慈, 中山田 真吾, 新納 宏昭, Wang Sheau-Pey, 好川 真以子, 田中 良哉
    2015 年 38 巻 4 号 p. 313b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      B細胞はSLE病態形成に重要な役割を担う.SykやBtkはBCRシグナルに重要なチロシンキナーゼだが,SLEにおける役割は不詳である.まずBCR架橋/sCD40L/CpGもしくはIL-21刺激での末梢血ヒトB細胞に与える影響をin vitroで評価した.B細胞の増殖・分化は,BCR/CD40刺激ではわずかだが,CpG刺激追加で強力に誘導された.これらはSyk阻害剤で顕著に抑制された.これら3者の刺激でTLR9,TRAF6,p-NFκ0Bの発現が誘導されたが,やはりSyk阻害剤で抑制された.次にBCR/CD40にIL-21刺激を加えると同様に強力なB細胞分化が誘導され,Btk阻害剤で抑制された.BCR/CD40+IL-21刺激により細胞質・核内にpSTAT1/p-STAT3が誘導されたが,Btk阻害剤により,核内でのpSTAT1のみが抑制された.次に,患者末梢血を用いて解析を進めた.SLE患者において,末梢血B細胞のSyk,Btkのリン酸化は,健常人に比し有意に亢進しており,特にp-Sykは疾患活動性と有意に相関していた.以上,B細胞におけるSyk,Btkは既知のBCRシグナル伝達における重要性のみならず,TLRやサイトカインシグナルとの相互作用を媒介し,B細胞活性化に重要な役割を担うことが示唆され,これらを標的としたキナーゼ阻害剤は自己免疫疾患の制御に有用である可能性が示唆された.
  • 藤井 渉, 川人 豊, 妹尾 高宏, 山本 相浩, 河野 正孝, 小田 良, 徳永 大作, 久保 俊一, 岸田 綱郎, 松田 修, 芦原 英 ...
    2015 年 38 巻 4 号 p. 314a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      【目的】関節リウマチ(RA)患者で関節液pHが低下する機序や意義は明らかでない.そこでRAにおける関節液pH低下と疾患活動性との関連を調べ,さらにその機序を解明し制御することで関節炎を抑制し得るかどうかを検討する.【方法】RA患者の関節液pHと疾患活動性との関連を調べた.次に外科的摘出術後のRA滑膜線維芽細胞(RASF)を用いてpHを制御し得るイオン輸送体蛋白の発現を解析した.さらにそのイオン輸送体蛋白をsiRNAでノックダウンし,RASFの増殖能を解析した.最後にコラーゲン誘導関節炎(CIA)マウスモデルを用いて電気穿孔法による関節局所的ノックダウンを行い,関節炎におけるイオン輸送体蛋白の役割を検討した.【結果】RA患者において関節液pH低下と疾患活動性,関節液中の乳酸濃度は有意に相関した.RASFにおいて,乳酸を細胞外に排出するMonocarboxylate transporter 4(MCT4)発現はOA滑膜線維芽細胞に比し有意に亢進していた.MCT4のノックダウンによりRASFのアポトーシスが誘導され,その増殖は有意に抑制された.CIAマウスではMCT4ノックダウンにより関節炎は有意に改善した.【結論】RA患者における関節液pH低下は疾患活動性と有意に相関する.その機序としてRASFで発現が亢進しているイオン輸送体蛋白MCT4が関わっていると考えられ,これをノックダウンすることでRASFの増殖は抑制,CIAの重症度は抑制されたことから,MCT4はRAの新たな治療標的となり得ると考えられた.
  • 土田 優美, 住友 秀次, 石垣 和慶, 井上 眞璃子, 鈴木 亜香里, 森田 薫, 駒井 俊彦, 高地 雄太, 岡村 僚久, 山本 一彦, ...
    2015 年 38 巻 4 号 p. 314b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      【目的】Transforming growth factor beta(TGFβ)は多彩な機能を持つサイトカインであり,TGFβ1は免疫において抑制能を発揮することが知られている.一方,アミノ酸の異なるisoformであるTGFβ3の免疫系における機能はあまり分かっていない.我々は,マウスにおいて,CD4+CD25-LAG3+制御性T細胞がTGFβ3を分泌し,マウスB細胞の増殖・抗体産生を抑制することを報告した.今回我々は,TGFβ3のヒトB細胞に対する作用を検討した.【方法】ヒト末梢血B細胞を用いて,種々の刺激条件下で,TGFβ3によるアポトーシス,増殖,抗体産生,形質細胞への分化を検討した.また,TGFβ3存在下で刺激したB細胞においてRNA-seqによる発現解析を行い,B細胞の活性化や抗体産生に関わるパスウェイへの影響を検討した.【結果】T細胞依存性・非依存性の両方の系において,TGFβ3は,ヒトB細胞のアポトーシスを誘導し,増殖・抗体産生を抑制した.また,TGFβ3は,形質細胞への分化に重要なPRDM1やXBP1の発現を抑制し,形質細胞への分化を抑制した.【結論】TGFβ3は,ヒトB細胞の活性化を抑制し,TGFβ3の治療応用は全身性エリテマトーデスなど自己抗体を伴う自己免疫疾患に有用である可能性が示唆された.
  • 横田 和浩, 佐藤 浩二郎, 相崎 良美, 秋山 雄次, 三村 俊英
    2015 年 38 巻 4 号 p. 315a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      【目的】関節リウマチは全身性自己免疫疾患であり,炎症性サイトカインが関節破壊において重要な役割を演じている.我々はマウス骨髄単球またはヒトCD14陽性単球をTNFα+IL-6で刺激することにより破骨細胞の特徴を呈する骨吸収細胞(破骨細胞様細胞)が誘導されることを報告した.今回,ヒトTNFα+IL-6誘導性破骨細胞様細胞(OLCs)と従来のRANKL誘導性破骨細胞(OCs)の遺伝子発現を比較解析した.【方法】ヒトCD14陽性単球をTNFα+IL-6またはRANKLで刺激し,サイトカインまたは破骨細胞関連遺伝子などのmRNA発現レベルを定量的PCR法で解析した.培養上清中の蛋白はELISA法で測定し,培養細胞の蛋白発現は免疫蛍光染色法で確認した.【結果】OLCsはOCsと比し,IL-1βの発現が有意に高値であった.また,IL-1β刺激はOLCsの分化誘導を強く促進させた.一方,OCsはOLCsと比し,cathepsin Kの発現が有意に高値であった.【結語】OLCsとOCsでは遺伝子発現に違いが認められた.特にIL-1β, cathepsin Kにおいて発現に大きな違いがあり,同様の機能を持つ異なる細胞群と考えられた.また,OLCsからのIL-1β産生はこの細胞の分化誘導を促進させることが示唆された.
  • 本田 宏美, 藤本 穣, 大河原 知治, 宇留島 隼人, 岩橋 千春, 世良田 聡, 仲 哲治
    2015 年 38 巻 4 号 p. 315b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      【背景】LRGは健常人の血清中に存在する分子で,関節炎の滑膜や炎症性腸疾患の消化管上皮などの炎症部位で発現がみられ,生体内で炎症の病態形成に関わる機能を持つ分子であると考えられる.また,肺線維症モデルとして汎用されてきたBLM経気道投与モデルは,初期に細胞浸潤を特徴とする急性肺障害,後期に線維化を呈し,炎症の二つのステージを解析するのに有用である.【目的】炎症におけるLRGの役割を解明する.【方法】LRG欠損マウスを用いてBLM誘導性肺線維症モデルを作製し,炎症初期における細胞浸潤とサイトカイン発現を,炎症後期における線維化をそれぞれ評価した.さらに線維芽細胞株を用いて,TGFβの作用に及ぼすLRGの影響を調べた.【結果と考察】野生型マウスにBLMを投与すると,肺でのLRGの発現が上昇した.LRG欠損マウスでは,肺に浸潤する好中球などの炎症細胞が野生型と比較して少なく,肺における炎症性サイトカイン発現も低値であった.好中球の炎症部位への遊走に関わるIL-17とCXCL1の産生はLRG欠損マウスで抑えられた.さらに,炎症後期の線維化はLRG欠損マウスで抑制されており,また線維芽細胞株においてLRGはTGFβのシグナルおよび作用を増強した.以上から,LRGは炎症初期にはサイトカイン産生に関与して細胞浸潤を促進し,炎症後期にはTGFβを介して線維化を促進するという,炎症の各ステージにおいて炎症の病態形成を促進させる機能をもった分子であることが示唆された.
  • 八子 徹, 南家 由紀, 川本 学, 小橋川 剛, 山中 寿, 小竹 茂
    2015 年 38 巻 4 号 p. 316a
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      【目的】14-3-3蛋白はubiquitousに発現している細胞内シャペロン蛋白であり,細胞内蛋白と相互作用してシグナル伝達やタンパク輸送などの多様な機能を有している.14-3-3 familyには7つのisoform(β, γ, ε, ζ, η, σ, τ)があり,14-3-3ηについては,関節リウマチ(RA)患者の血清中または関節液中で健常人に比しその濃度が上昇しており,さらに14-3-3η陽性の早期RA患者は陰性患者に比較し,関節破壊が進行するという報告もされている(J Rheumatol 2014,Ann Rheum Dis 2014).しかし細胞外14-3-3ηの機能については不明な点が多く,破骨細胞(Oc)分化に関しても未だ報告がない.今回14-3-3ηがヒト破骨細胞分化に与える影響について検討した.【方法】(1)ヒト末梢血よりCD14陽性単球を分離後,M-CSFと共に3日間培養.その後M-CSFと可溶性RANKL(sRANKL)を添加,同時期にrecombinant human 14-3-3η(rh14-3-3η)を加え,10日間培養後にOcを抗CD51/61抗体を用いて染色・同定.(2)(1)と同様の培養系にて分化誘導されたヒトOcをトリプシン処理にて剥離させ回収,このOcをオステオアッセイに添加し,M-CSF,sRANKLとrh14-3-3ηを添加して再度培養,4日目に吸収窩を評価.【結果】rh14-3-3η添加により,ヒトOc分化は有意に抑制された.またOc分化誘導後にrh14-3-3ηを添加すると,Ocの吸収窩が有意に抑制された.【結語】14-3-3蛋白の一つである14-3-3ηはヒトOcの分化および骨吸収を抑制した.
  • 李 賢, 藤本 穣, 本田 宏美, 宇留嶋 隼人, 大河原 知治, 世良田 聡, 仲 哲治
    2015 年 38 巻 4 号 p. 316b
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/10/25
    ジャーナル フリー
      ループス腎炎はSLEの様々な症状の中でも患者の予後を決める重要な病態であるが,診断には患者の負担が大きい腎生検が必要なため,尿検査のようにより簡便な診断法が望まれている.最近,我々の研究室において,IL-6以外の炎症性サイトカインでも発現が誘導される新規の急性期蛋白質,LRGを同定した.LRGは関節リウマチの滑膜細胞など炎症部位で発現することが確認されている.今回,我々は,尿中LRGがループス腎炎を診断するのに有用なのかを検討した.本研究ではLRGとループス腎炎の関係性を調べるため,ヒトループス腎炎患者の病理診断・臨床検査の情報を元にループス腎炎の病型とLRGの関係を調べ,ループス腎炎時の血液・尿中のLRGの変化と,腎臓でどのような機序でどの細胞がLRGを発現するかを調べるためにSLEモデルマウスであるNZ B/W F1マウスを用いて解析を行った.ヒトSLEの患者で尿中LRGは腎病変が無い患者に比べ,腎病変が認められた患者の尿でより高く検出される傾向が見られた.SLEモデルマウスのNZ B/W F1マウスを用いた実験では腎病変を認めたマウスで腎臓でのLRG発現量がコントロールに比べ有意に上昇し,免疫染色の結果において,LRGの発現は近位尿細管上皮細胞に認められることが明らかになった.また,これらの個体では尿/血清LRG比が上昇することからLRGはループス腎炎の診断マーカーとして可能性があると考えられる.LRG発現機序の詳細については当日報告する.
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