南関東武蔵野・相模野台地立川ローム層出土の先土器文化30層準に由来する約1,500点の黒曜石について, 原産地推定, 水和層厚の測定を行なった.
原産地推定には, フィッション・トラック法 (SUZUKI, 1970) と晶子形態法 (SUZUKI, 1972) を併用した. 水和層厚の測定は, FRIEDMAN and SMITH (1960) およびKATSUI and KONDO (1965) とほぼ同様の手法によった.
測定の結果, 以下の知見を得た.
i) 水和速度は, 原産地ごとの黒曜石によって, 著しい差が認められる.
ii) 各産地ごとに分離された水和層厚は, 各層準でそれぞれほぼ一定の比をとる.
iii) 4個のフィッション・トラック法による鍵年代と水和層厚の2乗とは, 一次関係
y=
ax2(
y: 年代,
x: 水和層厚,
a: 定数) が認められる.
iv) ii, iiiの事実は, KATSUI and KONDO (1965) が指摘した, 過去数万年の気候変動による水和層形成速度への影響を考慮しなければ, FRIEDMAN
et al. (1967) が実験的に証明した時間-(水和層厚)
2の方程式を支持する.
v) 過去の気候変動による水和層形成速度の変動は,
14C年代自身が気候変動の影響を受けている可能性があること (RALPH, 1971), その補正が現状では, 必ずしも正しく行えないかあるいは, 不可能であり, さらに, それに代りうる可能性をもつフィッション・トラック法による年代測定値も, その数が限られている等の理由で, 補正困難である.
vi) この問題の解決は, 将来, 年代測定値が多数得られてはじめて検討されるべき問題である.
vii) 不十分なデータに基づく, 気候変動による黒曜石水和層年代の誤差の試算によれば, 15,000年につき高々1,500年程度である (SUZUKI, 1972).
viii) iv, v, vi の理由で,
y=
ax2で算出された各文化層の黒曜石水和層年代を, 立川ローム層の編年に応用した. 作業仮説は以下のとおりである.
a) 経過時間 (
T) と水和層厚 (
L) の2乗とは一次関係にある.
b) 文化層の示す時間と, それを包含するテフラの堆積年代とは同時性がある.
ix) viiiで述べた前提により得られた立川ロームの編年は下記のとうりである.
ソフトローム (III) 9,000~12,500年B. P.
ハードローム (IV) 12,500~18,500年B. P.
ブラック・バンドI (V) 18,500~21,000年B. P.
ブラック・バンドII下半部 約25,000年B. P. (立川ローム最下部の推定年代)
約30,000~35,000年B. P.
x) 月見野, 野川および平代坂遺跡におけるテフラの堆積速度は, 町田 (1971) の指摘のようにほぼ一定であると判断される.
xi) 町田・鈴木 (1971) に報告されたTP (東京パミス) のフィッション・トラック年代, 49,000±5,000年B. P. は, 黒曜石水和層法による年代46,000±3,000年B. P. と誤差内でほぼ一致する.
xii) ここで得られた年代を, 他の方法で得られた年代と比較するにあたっては, それぞれの方法のもつ問題を十分吟味して行われるべきである. このことは,
14C年代と黒曜石水和層年代とで, 不一致がかなり見られることからもいえる.
xiii) 黒曜石水和層年代測定法は, 立川ロームの下部から, 弥生時代まで長期にわたって, 試料が入手できること, それぞれの層準で多数個入手できて得られた結果を統計処理できること等の利点があるので, このシステムの内部での地層の対比や, 文化層の編年には極めて有用な方法である.
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