西帰浦層は,韓国済州島の西帰浦市の南部海岸にそって分布し,中期更新世の溶岩流によっておおわれている.この層は前期更新世に相当する海成層である.本層は,日本の大桑-万願寺動物群に対比される軟体動物化石を含み,浅海を指標する生痕化石と特徴的な堆積構造で構成されている.堆積物は主に明灰色の細粒-粗粒砂岩,泥質砂岩,泥岩,火山灰,火山礫岩からなっている.
堆積相解析によって9個の堆積相と6個の生物相が認定され,さらにこれらの組み合せによって11個の堆積組相が識別できた.堆積組相が示す堆積環境の解析によると,西帰浦層は海進海退に伴う更新世の氷河性海水準変動を反映する浅海から内湾の堆積環境を示していると推定される.
西帰浦層の堆積過程は海進期(堆積組相A),漸進的な海退期(堆積組相B~H),海進礫岩を伴う海進期(堆積組相I~K)に分けられる.急速な海進期は,外浜の砂質堆積物からなり,チャネル性貝化石帯を含む.漸進的な海退期は,陸棚から前浜システムによって支配されていたと考えられる.これは,内側陸棚からはじまり下部外浜,上部外浜,前浜まで,典型的な前進する海岸線システムで堆積された堆積物であると推定される.反面,海進礫層を伴う海進期は,主に内湾システムによって支配されていたと考えられる.これは,貝化石帯に代表される外浜の堆積物とシルト質火山灰の内湾性堆積物からなる.最後は,活発な火山活動によって供給された火山灰により,堆積盆地は内湾の中央部で急速に埋積されたと推定される.
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