北上山地尾根沿いには,約350haに及ぶ風食荒廃地が存在しており,特に,風上である西向き斜面に多く見られる.風食荒廃地周辺の表層は,角礫層上に更新世の秋田-駒ヶ岳起源の秋田-駒ケ岳-gと柳沢浮石,そして完新世の十和田火山起源の中掫浮石と岩手山起源の岩手-bの各テフラを母材とする土壌の累積層からなり,草地・二次林域ではこれを風積土層が覆う.当地域はかつて天然ブナ(
Fagus crenata)林に被われていたが,馬や牛の飼育のために皆伐され,それが土壌荒廃の引き金となったと思われる.その後,不十分な管理もしくは放置により,森林の保護を失った土壌は氷河期的な厳しい環境にさらされて,凍結,融解を繰り返し,風食と雨滴浸食により土壌荒廃が進んだ.調査地域の土壌はアロフェン質であり,その土壌特性は浸食を著しく促進させた.埋没A層の
14C年代値によると,土壌荒廃は江戸時代(270±80yrs BP)から明治時代(100±70yrs BP)に始まったと推定される.厳しい環境下における森林伐採後の不適切な管理が,荒廃を進ませたのである.北上山地における土壌荒廃は,厳しい気候,土壌特性,そして人為的活動の相互作用の結果である.
抄録全体を表示