日本の代表的汽水域である中海において,過去約8,000年間の有機炭素埋積速度を復元し,carbon sinkとしての汽水域堆積物の役割について検討した.数百年の解像度で変化をとらえるため,20mの泥質堆積物柱状試料から約1m間隔で貝試料を採取し,ベンゼン-液体シンチレーション法とタンデトロン加速器質量分析法で15試料の
14C年代を測定して堆積速度変化を求め,有機炭素埋積速度を算出した.
有機炭素埋積速度は,7,000~7,500cal yrs BP (calendar age)の温暖な時期に20~25gm
-2yr
-1と大きく,2,500~3,000cal yrs BPの寒冷な時期に11gm
-2yr
-1と小さかった.このことは,中海汽水域堆積物が温暖化に対して負のフィードバックとして働いたことを示唆する.温暖期には陸源有機物が多くもたらされ,同時に供給された栄養塩は基礎生産も増加させたものと考えられる.中海泥質堆積物を世界の平均的な汽水域泥質堆積物と仮定して,得られた有機炭素埋積速度に世界の主要な汽水域の面積(320,000km
2)を掛けると,全汽水域のglobal carbon sinkとしての潜在能力は0.01GtC yr
-1程度と見積られる.汽水域堆積物は完新世の間,carbon sinkとして無視できない働きをしてきたものと考えられる.
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