北九州の緩斜面上に発達する細粒赤黄色土壌は, 従来基盤岩の風化生成物に由来するものと考えられてきた. しかし, 最近, 土壌鉱物学的および地球化学的手法によって, これらの土壌の生成にはアジア大陸内部起源の広域風成塵の寄与が著しいことが次第に明らかにされつつある. 筆者らは, 北九州の火成岩 (花崗岩および玄武岩) がつくる緩斜面上に発達した細粒質土層の2土壌断面について, 石英の粒径組成, 酸素およびSr同位体比, 火山ガラスの屈折率を測定した.
両土壌中に含まれる石英の粒径分布は著しく均一で, 福岡において黄砂現象に伴って降下した風成塵に一致した. 石英の酸素同位体比および全岩のSr同位体比は, 基盤岩のものとは著しく異なり, 中国北西部黄土高原の黄土に近似していた. これらの結果と地形と地質の特微を考え合わせると, 細粒質土層の主要成分は風成塵由来と推定される. 土層断面内にはK-AhおよびAT広域テフラの挾在が確認され, テフラの噴出年代と降灰層準間の堆積物の厚さから, この細粒質土層の平均的な堆積速度が試算された. その値は0.027m/10
3年である. 細粒土層全体の厚さから, 細粒土層の形成は最近5~6万年以降になされた可能性が高い. 主要母材である風成塵の供給が過去5~6万年より以前にまったくなかったとは考えにくいので, 北部九州の安定な地形面の更新が数万年単位で起こっているものと解釈した.
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