第四紀研究
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31 巻, 5 号
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  • 加賀美 英雄, 満塩 大洸, 大和 雄一
    1992 年 31 巻 5 号 p. 271-283
    発行日: 1992/12/30
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    南海前弧スリバーはフィリピン海プレートの北の境界に発達するマイクロプレートである. これは, 百万年前頃から南海トラフに沿ってフィリピン海プレートが斜めに沈み込むことによって形成されたのである. この新しい沈み込みサイクルは四国の海岸地域を隆起させ, 四国山地を形成した. 四国山地の麓と高知海岸平野の間にある城山層の層序と堆積岩相の研究から, 本層の下部はアルプス造山における赤色モラッセと類似の赤色礫岩相の河成堆積物よりなり, 中部は大規模な扇状地堆積物よりなり, 上部は高位段丘堆積物よりなることを示した.
    大陸棚盆地と土佐前弧海盆に分布する竜王層は, 500mの厚さと四国山地に匹敵する分布範囲を示すが, この堆積物は隆起した四国山地のみからきたものである. 本層は南海トラフの底にある海溝埋積タービダイトも含めて, シーケンス層序学の低位堆積体を代表している. それゆえ, 本層は四国山地の初期曲隆にともなう海成モラッセといえる. 南海前弧スリバーは繰り返し隆起し, その各サイクルはフィリピン海プレートの新規沈み込みに対応した. 海岸山脈の隆起の機構は付加体の深部における延性変形流動か, 付加体の断層変形または脆性変形であろう. 南海トラフや四国山地における野外観察は, 付加体深部での活褶曲のような延性変形を支持している.
  • 前杢 英明
    1992 年 31 巻 5 号 p. 285-296
    発行日: 1992/12/30
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    西南日本外帯南部は, フィリピン海プレートがユーラシアプレートの下に低角度でもぐり込む南海トラフに面しており, 近くは南海道地震 (1946年) のように, これまで数多くの低角逆断層型巨大地震が発生してきたところである. 本研究は, 完新世における地殻変動を, 西南日本外帯の海岸地域に発達する離水地形 (変動地形) とその年代資料の分析を通して, 広域的かつ包括的に解明したものである. 完新世地殻変動の性格を西南日本外帯南部全域に広げて考察すれば, 一海溝系全体の中で各地の地殻変動様式の特徴を浮彫りにすることができる. 西南日本外帯南部は, 完新世を通して隆起の傾向にある. しかし, その変動様式は, 日向灘をはさんで東側と西側で異なる. すなわち, 東側では, 地震性隆起が卓越するが, 西側では, 活断層による地震とは直接関係しない背斜状の変動によって隆起している. この変動様式の違いは, フィリピン海プレートの年齢が九州-パラオ海嶺を境に大きく異なることに起因している.
  • 満塩 大洸, 加賀美 英雄
    1992 年 31 巻 5 号 p. 297-311
    発行日: 1992/12/30
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    四国の第四系を次の地域に分けて記述する. 1. 北四国: A. 香川県, B. 愛媛県東予, C. 愛媛県中予, D. 愛媛県南予, 2. 中四国: E. 吉野川中・下流域, F. 吉野川上流域, 3. 南四国: G. 高知県南東部, H. 高知県中央部, I. 高知県南西部.
    1) 丘陵地を構成する上部鮮新統から下部更新統は主として1-A, 1-D, 3-Gにみられる. これらは土佐湾沿いに分布する海成層と, 内陸河川沿いの非海成層である. 地層は礫岩・砂岩・泥岩で, その一部に泥炭や火山灰を含んでいる.
    2) 中部更新統は高位・中位段丘堆積物で, 海成・非海成段丘を構成している. 高位段丘堆積物は主に1-D, 3-Iに産する. これらは非海成の赤褐色のクサリ礫よりなる. 海成の中位段丘堆積物は3-Iと1-Cの海岸地域にみられる. これらは砂泥層で, 海棲貝化石と花粉を含む. 非海成堆積物は吉野川・四万十川地域と1-Aにみられる.
    3) 上部更新統の下位段丘堆積物は1-A, 3-H, 3-Iに分布する. これらは下位段丘堆積物I・IIを含む. これらはアカホヤ火山灰層の下部にある新鮮な礫層よりなる.
    4) 現世堆積物は, 主に沖積平野に分布し, 上・中・下の3系統に分けられる. 上部と下部は非海成堆積物の粗粒相, 中部はアカホヤ火山灰層を挾む海成堆積物の細粒相で特徴づけられる.
  • 大村 明雄, 太田 陽子
    1992 年 31 巻 5 号 p. 313-327
    発行日: 1992/12/30
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    琉球列島の喜界島・波照間島・与那国島および大東諸島の南・北両大東島に発達する更新世サンゴ礁段丘の地形層序と段丘構成物の生相および岩相解析, さらにサンゴ化石のウラン系列 (α-spectrometric 230Th/234U) 年代測定結果を総括した. それによって, 各島々で後期更新世における高海水準期 (酸素同位体ステージ7, ステージ5およびステージ3) の汀線を認定し, それらの現在の高度と Chappell and Shackleton (1986) による古海面変化との比較から, 例えば島の誕生時期・その後の隆起量および速度・傾動の方向などを含めた地殻変動史の点で, 5島それぞれが極めて個性的なことが明確になった.
  • 大場 忠道, 安田 尚登
    1992 年 31 巻 5 号 p. 329-339
    発行日: 1992/12/30
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    四国沖のピストン・コア (KT-89-18, P-4) に含まれる有孔虫化石 (浮遊性4種と底生2種) の酸素同位体比測定と底生有孔虫の群集解析を行った. また, P-4コアで得られたδ18Oカーブを, すでに公表されている日本列島太平洋側の3本のコアのδ18Oカーブとともに, 深海底コアの標準的δ18Oカーブと比較して, 最終氷期の約3.4万年前以降の黒潮域の環境変遷を考察した. P-4コアの底生有孔虫殻のδ18Oカーブは3.0~1.3万年前に標準的δ18Oカーブからずれており, 薄い18O濃度をもつ海水が供給されていたと考えられるが, この時代の海底には貧溶存酸素でも生存可能な底生有孔虫群集が卓越する. その薄い18O濃度をもつ海水は北方から供給されたことが, 4本のコアの浮遊性有孔虫殻のδ18O値から推定される. すなわち, 最終氷期の日本列島南岸は, 現在の三陸沖と同様に混合水塊とその下層の親潮潜流が南下しており, 黒潮前線は1.4万年前に四国沖を, 1.3万年前に遠州灘沖を, 1万年前に房総半島沖を北上したと考えられる.
  • 尾田 太良, 嶽本 あゆみ
    1992 年 31 巻 5 号 p. 341-357
    発行日: 1992/12/30
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    第四紀古海洋復元のための基礎研究として, 日本列島太平洋側海底の表層堆積物中の浮遊性有孔虫遺骸群集を調べ, 表層水塊との関係を検討した. この結果に基づき, 四国沖, 遠州灘沖, 房総沖および鹿島灘沖の4海域より採取したコアの浮遊性有孔虫化石群集の垂直的分布から, 過去2万年間の黒潮の流路の変遷を推論した.
    20,000~16,000年前には, 西南日本沖の黒潮の流路は現在より南にあり, 四国沖や遠州灘沖では冷水塊が頻発していた. 15,000~14,000年前には, 黒潮は西南日本沖で南に大きく蛇行し, 黒潮前線は房総沖にあった. その時期には四国沖や遠州灘沖で冷水塊が発生していた. その後, 11,000年前までに西南日本沖では黒潮の影響が強くなった. 房総沖と鹿島灘沖では, 11,000年前頃短期的な寒冷化があった後, 急速に温暖化した. 10,000~9,000年前には黒潮の流軸は本州に近づき, 黒潮前線も北に移動しはじめた. 9,000~6,000年前には黒潮はさらに西南日本に接近し, 黒潮前線は6,000年前に最も北上した. 5,000年前以降, 黒潮は西南日本沖で現在の流路に近づいたが, 4,500~1,500年前には, 房総沖や鹿島灘沖で冷水塊が発達していた.
  • 木庭 元晴
    1992 年 31 巻 5 号 p. 359-373
    発行日: 1992/12/30
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    琉球列島の最も古い第四紀サンゴ礁は, 電子スピン共鳴年代測定法によって70~60万年前と測定された. 琉球列島でこれより前のサンゴ礁石灰岩といえば, 始新世のものである. 中新世後期~160万年前の間に堆積した泥岩・砂岩を島尻層群と称するが, これは漸深海環境で堆積した. 前期更新世には中国から沖縄に続く1,000kmの長さに陸橋が形成される. この時代以降のサンゴ礁形成の原因をここでは論じた. 黒潮がこの陸橋の背後の沖縄舟状海盆に入り込むまでは, 琉球列島のようなサンゴ礁縁辺地域にあってはサンゴ礁が形成されなかった. この根拠は現在の黒潮の三次元構造を使って本文に示している. ルソン火山弧が台湾に衝突し, 琉球弧と台湾の間の境界地域は深く屈曲し, 与那国凹地は深くなった. そして現在のように, 黒潮が与那国凹地から背弧盆に入った. この結果, 熱帯水塊が琉球弧に入って第四紀サンゴ礁が70~60万年前に形成され始めるのである.
  • 松下 まり子
    1992 年 31 巻 5 号 p. 375-387
    発行日: 1992/12/30
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    日本列島太平洋岸における完新世 (後氷期) の照葉樹林の発達史について, 各地で報告されている花粉分析結果を検討し, 主に黒潮との関連で考察した. 房総半島以南の太平洋沿岸地域では, 完新世の初期から照葉樹林が成立し, なかでもシイ林の発達が顕著にみられた. とくに伊豆半島や房総半島南端で照葉樹林の発達が良く, その成立, 拡大時期も早かった. これらの地域は早くから黒潮の影響を受け, 冬季温暖かつ湿潤であるといった海洋気候が照葉樹林の発達をより促したと考えられる. 照葉樹林は, 急激な温暖化とともに九州南端から日本列島を北上したが, 一方で黒潮の影響を受ける沿海暖地からもその分布を拡大していったことが推定された. また太平洋沿岸地域における照葉樹林は, 完新世初期に3回の拡大期をもって発達した.
  • 中村 純, 山中 三男
    1992 年 31 巻 5 号 p. 389-397
    発行日: 1992/12/30
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    土佐湾にそった平野部の花粉分析資料を中心にして, 南四国の第四紀初頭からの森林植生の変遷を概観した. 更新世全体をみると, Abies, Pinus, Picea, Cryptomeria, Tsuga などの針葉樹と, Fagus, Quercus, Betula, Carpinus, Zelkova などの落葉広葉樹が優勢で, 現在よりもかなり冷涼な気候であったと思われる. しかし更新世前期には, Keteleeria, Nyssa, Carya, Liquidambar, Taxodiaceae (Cryptomeria をのぞく) などの第三紀要素の植物が残存していた. また間氷期には, Cyclobalanopsis, Castanopsis, Myrica, Podocarpus などの暖温帯性の植物も生育していた. ただこれらの植物群が, 更新世を通してどのような盛衰をたどってきたかということは今のところよくわからない. 最終氷期の晩氷期から後氷期初頭にかけては, 冷温帯的な森林が海岸平野にまで広がっていた. 完新世中期の温暖期には, 冷温帯林は消滅し, 代わって暖温帯林 (照葉樹林) が拡大する. 完新世後期には気候の冷涼化とともに暖温帯林がやや減少し, 人間の活動が植生にあたえた影響も顕著になってくる.
  • 木村 剛朗
    1992 年 31 巻 5 号 p. 399-408
    発行日: 1992/12/30
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    高知県下の後期旧石器時代の6遺跡と, 縄文時代の64遺跡のすべてを紹介し, 若干の議論をした. これらの遺跡は主に土佐湾沿岸に分布するものと, 四万十川沿いに分布するものがある.
  • 小田 静夫
    1992 年 31 巻 5 号 p. 409-420
    発行日: 1992/12/30
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    黒潮の流れは, 海産生物や陸上植物の拡散に協力したばかりでなく,「海上の道」となり先史時代以来, 多くの南方的な要素を日本文化にもたらした. 九州の南海上に連なる南西諸島では, 珊瑚礁内の豊かな魚貝類を基盤に,「珊瑚礁文化」を形成させた. 高度に発達した貝製品は, 九州の弥生人を魅了し, 南海産大型巻貝の交易活動を促進させ, 黒潮の流れを利用した「貝の道」が成立した. 伊豆諸島も黒潮本流の終点近くに位置し, 縄文前期末頃から積極的な渡島活動が開始され, 黒潮本流を越えた八丈島にまで進出した.
    一方, こうした本土と島嶼地域の往来とは別に, 黒潮圏に遠く南方地域から北上した先史文化が認められる. 南西諸島の宮古・八重山列島には, シャコガイのちょうつがい部分を利用した貝斧が盛行している. この貝斧はフィリピン諸島に類似例が存在し, この地域との関係が推察される. 八丈島や小笠原諸島でも発見されている玄武岩製の円筒片刃磨製石斧は, マリアナ諸島で発達した円筒石斧と呼ばれる石製工具と同種のものである. 最近確認された小笠原・北硫黄島の石野遺跡には, マリアナ地域や南西諸島の先史文化に類似点を多くもつ土器, 石器類が検出されている. このように, 黒潮の流れに沿った地域の先史文化には, 周辺地域からの複雑な人類拡散の動態が看取され, 北西太平洋を囲んだ島嶼群の大きな「黒潮文化圏」として把握できそうである.
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