イタリアで確立されてきた海成第四系の層序・編年の研究は,19世紀末以降地中海地域の標準としての役割を担ってきた.しかし,多用された第四系の階名は後進の研究者を混乱させることも多く,また本来の階(Stage)定義の意味も変化している.本稿では,イタリアにおける海成第四系の時間層序学的研究と海岸段丘の編年学的研究に関する最近の動向について紹介する.完新統については,混乱を避けるために特定の階名を使わず,Holocenceが代用されている.上部更新統については世界的に知られるTyrrhenianが定着し,その認定基準種
Strombus buboniusを含む海進堆積物は最終間氷期最盛期(酸素同位体サブステージ5e)段丘をなす.中部更新統については,biocalcareniteを含む海進堆積物によって定義されたCrotonian(同位体ステージ7,ステージ9,ステージ11頃に対比)を除いて,明確に定義された階名はない.下部更新統については,生層序学的観点から提唱されたSanternian-Emilian-Sicilianの一連の階の定義が信頼されている.Santernianは軟体動物
Arctica islandicaと貝形虫
Cytheropteron testudoの出現をもって,Emilianは底棲有孔虫
Hyalinea balticaの出現をもって,Sicilianは浮遊性有孔虫
Globolotalia truncatulinoides excelsaの出現をもって,それぞれの下限層準が定義されている.階の新定義・再定義は,用語上の混乱を避けるために時間層序の区分法に従い,他の第四紀研究分野の成果と照会しながら慎重に取り扱う必要がある.
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