化石記録は生物進化の道すじの直接的な記録である.最後(最新)の地質時代である第四紀では,他の地質時代と比べて,もっとも正確で精密な年代決定が行える.この利点を生かせば,精度の高い進化速度の分析が可能になる.これまで古生物学においては,進化速度や進化傾向などを評価する方法が模索されてきた.本総説では,進化の速度と様式の解析に有用な一手法を紹介する.実際にこの方法を用いて,琵琶湖の浮遊性珪藻の形態進化の速度と様式を評価した事例研究を紹介し,それによって示唆された今後の研究課題について議論する.
日本第四紀学会の組織改革で新たに設置される5領域のうち,領域「人類と生物圏」では,「気候・環境変動が人類と生物へ及ぼす影響,人類と生物圏・環境の動的相互作用に関係する諸テーマ」を扱う.これらの中で,本論では,「気候・環境変動が人類と生物へ及ぼす影響」の解明の一環として,中・高緯度の完新世浅海環境の変動を高分解能で復元するのに有効な「海生二枚貝類の貝殻の成長線解析・酸素同位体比分析」についてレビューする.そこで,まず,成長線解析・酸素同位体比分析の研究方法を概説する.その後,研究事例として,とてつもなく長寿命のArctica islandica, 浅海の二枚貝のPhacosoma japonicum, 海底洞窟生微小二枚貝のCarditella iejimensisの事例研究を紹介する.