第四紀研究
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50 巻, 4 号
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論説
  • 小川 明日香, 栗田 寛子, 鴈澤 好博
    2011 年 50 巻 4 号 p. 169-180
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2012/04/26
    ジャーナル フリー
    十和田八戸火砕流(To-H)の石英を用いて,赤色熱ルミネッセンス(RTL : Red thermal luminescence)法と恒温加熱赤色熱ルミネッセンス(IRTL : Isothermal RTL)法により,単粒子による年代測定を試みた.実験では,石英の微弱なRTL発光を効率よく受光させるため,開発した測定装置に最近開発された光電子増倍管を採用してRTL検出感度を向上させ,黒雲母シールドを用いることで,加熱体からの黒体放射を抑えることに成功した.また,装置には小型X線装置を付属させ,単アリコット再現法(SAR法)による測定を可能にさせた.その結果,RTL法とIRTL法による石英単粒子の年代測定に成功した.それぞれの方法で用いた石英粒子27粒子および22粒子中には明らかに外来粒子と判断される古い年代の粒子が見出された.本質粒子年代はそれぞれ16.5±4.7 ka, 13.7±4.9 kaで,誤差内でほぼ一致した.これらの年代は同時に測定した炭化物の暦年較正AMS14C年代の14.9~15.3 kaとよく一致した.
  • 北場 育子, 百原 新, 松下 まり子
    2011 年 50 巻 4 号 p. 181-194
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2012/04/26
    ジャーナル フリー
    奈良盆地西部の生駒市高山町稲葉に分布する大阪層群海成粘土層Ma2層から産出した花粉化石と大型植物化石に基づき,Ma2層が堆積した前期更新世MIS 25の古植生と古気候を推定した.当時の植生は,ブナ属やコナラ亜属を主体とする落葉広葉樹林が卓越していた.植物化石群のうち,最も温暖な地域に生育するハスノハカズラと,最も冷涼な地域に生育するサワラの分布域の気候から,当時の奈良盆地西部の気温条件を年平均気温約10~13℃と推定した.Ma2層に含まれるブナ属殻斗化石は,小型で基部が隆起する殻斗鱗片から,シキシマブナと同定した.微分干渉顕微鏡による観察から,シキシマブナ由来である可能性が高い同層準のブナ属花粉は,小さな粒径と粗い表面模様を持つ点で,現生のブナ属と異なることがわかった.また,奈良盆地と大阪湾周辺のMa2層のメタセコイア化石産出状況を比較・再検討した結果,大型植物化石の産出の有無や花粉の産出率に地域差があることが明らかになった.
短報
  • 米倉 薫, 堀田 篤, 鈴木 哲也
    2011 年 50 巻 4 号 p. 195-204
    発行日: 2011/08/01
    公開日: 2012/04/26
    ジャーナル フリー
    石器表面に残された痕跡の分析を通して道具の機能を推定する石器使用痕研究は,先史時代の生業を解明する上で欠くことのできない手法の一つである.本稿では,使用痕形成に対する石器材料の影響を解明する際の基礎的な情報を得ることを目的に,条件を制御した摩耗試験を黒曜石,頁岩,チャート,サヌカイトに対して行った.その結果,石材によって摩耗の進展速度に大きな差があることが明らかとなった.さらに摩耗深さと岩石硬度の関係から,摩耗を制御する因子が石材によって異なる可能性が示唆された.これら石材による摩耗傾向の違いは摩耗面においても観察され,頁岩とチャートの摩耗過程では粒子の脱落が高い頻度で見られる一方,黒曜石およびサヌカイトにおいてはそれらの痕跡は顕著に認められなかった.本稿では,石器の使用に伴って痕跡が形成される際,石器の材料特性が使用痕の形成過程に大きな影響を与えていた可能性が高いことを指摘しえた.実際の考古資料に残る痕跡を解析する際,これら材料特性の影響を考慮することによって,さらに蓋然性の高い石器の機能推定を行うことが可能になると考える.
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