伊那層群は,長野県南部伊那盆地に分布する砂礫を主とする陸成層であり,下位より最下部層,伊那層,久米層に区分される.伊那層はさらに凝灰角礫岩層のミソベタ部層を境に,下部層と上部層に細分される.伊那層群の年代は,これまで植物化石や層序対比により推定されてきたが,未だに不明な点が多く残されていた.そこで,伊那層群中に挾在される6枚のテフラ(下位より富田2火山灰,富田1火山灰,小林火山灰,堀越火山灰,袖ヶ洞火山灰,久米火山灰)の記載を行い,広域テフラとの対比を試み,伊那層群の堆積年代を推定した.その結果,富田1火山灰が約175万年前に噴出したとされる恵比寿峠-福田火山灰に,久米火山灰が約60万年前に噴出したとされるKs18テフラに,それぞれ対比されることが明らかになった.これらの結果から,伊那層下部層もしくはさら下位に,第三紀・第四紀境界層準が存在し,少なくとも久米火山灰より上位の久米層は更新世中期に堆積したことが示された.また,伊那層上部層の形成に関係が深い赤石山脈の本格的な隆起が140~100万年前に開始したこと,久米層の形成に関係が深い木曽山脈の本格的な隆起が約60万年前以降に開始したことが推定された.
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