陸成の土壌の炭素含量を用いて過去の気候環境を推定する場合,埋没腐植層に対する埋没後の変質も考慮しなければならない.過去の腐植集積量を推定する方法の一つとして,時間を変数とする腐植集積モデルがある.Jenkinsonの腐植集積モデルに対して求められたWadaの腐植分解係数rは日本の火山灰土壌の表土への適用であり,このrをJenkinson逆モデルを用いて埋没土に適用させた場合,炭素含有量がWadaの初期条件である200g・kg
-1を超えてしまうという問題点が生じた.そこで本研究では,分解係数rの修正を試み,その上で腐植集積逆モデルを用いてテフラ-土壌累積断面によって求められた炭素含有量による完新世気候変化の推定についての有効性を検討した.その手順としてまず,選択溶解による無機コロイド成分の分析結果から,本モデルは腐植-アルミニウム複合体が存在する期間内で適用できると考えた.またrの修正にあたり,気候環境を考慮し,阿蘇,愛鷹,十和田地域のテフラ-土壌累積断面を対象にKiraの乾湿示数(K)で求あられる現在の気候条件と表土の炭素含量の関係に基づいてrの修正方向を考えた.つぎに,炭素含有量が漸近値250g・kg
-1を超えないという仮定のもとで,rを増減させることにより修正rを決定した.この修正分解係数rをJenkinson逆モデルに適用し,阿蘇,愛鷹,十和田における完新世テフラ-土壌累積断面中の炭素含量の変動から,埋没土における腐植集積平衡値(Cmax)の変動を求あた.Cmaxの時系列曲線には約3ka,6ka,8~9kaにピークが認められ,これは他の古環境代用データの時系列曲線と類似しており,修正rの適用の有効性が示された.Cmaxは植物生産活動の背景としての過去の太陽放射強度を反映するものと考えられる.
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