標高73mの岐阜県揖斐郡谷汲湿原において,深度18mのボーリングコアを採取した.18mのうち深度8.2mまでが泥炭,それ以深は粘土,シルト,泥炭,およびそれらの互層からなっている.深度2.3mにK-Ah火山灰,7mに阪手火山灰,10.5mにAT火山灰を挾み,15.5mの
14C年代値は41,750±1,040
14C yrs BP (Beta-137441)であった.堆積速度はK-Ah~阪手火山灰までが0.48mm/年,阪手火山灰~ATまでが0.44mm/年,AT~15.5mまでが0.28mm/年である.コアのうち,深度5~16m(43~12ka)までを3.7cmごとに切り取り,さらに切り取ったコアから20cm
3を抽出し,無機物量,粒度分析,ESR分析を行った.
無機物のほとんどは20μm以下の細粒物質からなる.43~25kaでは無機物の含有量は0.1~1.35g/cm
3,中央値MDは6μm前後の大きさである.そして,微細石英のESR信号強度が8.9~16.2と高いので,細粒物質が北方アジア大陸から冬季北西季節風によって運ばれた風成塵であると判断された.この時期の堆積物は,2つのモードを持つ粒度組成を示し,5~6μmにモードを持つ粒子は風成塵と,20μm以上にモードを持つ粒子は現地性物質と考えられる.この期間には,いくつかのスパイクが2,000~4,500年で繰り返す.これは気候がゆっくりと寒冷乾燥化して卓越風が強まり,急激に温暖湿潤化して卓越風が弱まることを示す可能性がある.AT火山灰上の23.5ka層準には現地性物質からなるスパイクがみられ,AT火山灰の堆積が地表に与えた影響がうかがえる.25~19kaの無機物の含有量は0.1~0.9g/cm
3であり,19~12kaでは0~0.35g/cm
3であった.21~19kaの風成塵はESR信号強度が5.5~5.7であり,中国内陸部乾燥地域から夏季偏西風によって運ばれたもので,谷汲湿原は酸素同位体ステージ2にポーラーフロントの南に位置していたと考えられる.19~12ka層準の無機物は現地性物質からなる.
以上のように,43~12kaに谷汲湿原に堆積した細粒物質には風成塵からなるものがあり,その周期的な変動は世界的な気候変動やモンスーン変動を反映している可能性がある.風成塵はステージ3では北方アジア大陸から冬季北西季節風によって運ばれ,ステージ2は中国内陸部乾燥地域から夏季偏西風によって運ばれたと考えられる.
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