第四紀研究
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40 巻, 3 号
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  • 下総湾岸地域・九十九里沿岸地域の事例
    菊地 真
    2001 年 40 巻 3 号 p. 171-183
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    縄文時代の集落はなぜそこに立地しているのか.この問題について,集落立地と自然環境との関係,ことに水的適応の面から検討を行った.
    集落は基本的に,支谷谷頭に面する台地・段丘上という地形的位置に立地する.この立地はまた湧水地帯と重なる.集落は半径200m以内で湧水を得られる地形的条件にある.堅果類の水さらし加工は豊富な湧水の利用が効果的であるが,集落出土の遺物組成は,生業活動におけるそれら植物加工の重要性を示している.湧水と生業活動,集落立地との関係は,縄文人の水的適応の存在を表している.
  • 近藤 錬三, 岡田 英樹, 米山 忠克
    2001 年 40 巻 3 号 p. 185-192
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    黒ボク土の腐植給源植物についてのより詳細な基礎的情報を得るために,わが国に自生,あるいは栽培されているイネ科植物76試料から分離した植物珪酸体の有機炭素量とその13C自然存在比(δ13C値)について,母植物のδ13C値を含めて測定した.植物から分離した植物珪酸体の有機炭素量は,最大66.9mg g-1,最少1.4mg g-1で,大多数の試料は10mg g-1乾重以下と少なかった.植物珪酸体の有機炭素のδ13C値は,C3植物(-30.3±3.0‰)とC4植物(-20.6±2.8‰)との間で有意な差が認められた.また,ほぼ類似の気候下では,土壌環境が多少異なっていても同一植物種のδ13C値の変異は小さかった.しかし,植物珪酸体に吸蔵される有機炭素のδ13C値は,それらの母植物のδ13C値に比べて,C3植物では+2.2~-5.6‰(平均-1.2‰),C4植物では-4.0~-14.0‰(平均-8.3‰)低かった.このことから,両者の植物珪酸体に含有される有機炭素には,その組成(リグニン,脂質など)の含有比率に違いがあることが推測された.
    このように,植物珪酸体のδ13C値がC3植物とC4植物で特異な値を示すことは,植物珪酸体に吸蔵される有機炭素のδ13C値が黒ボク土の腐植給源植物の推定や古環境復元の手法としてきわめて有効であることを示唆している.
  • 岡橋 久世, 吉川 周作, 三田村 宗樹, 兵頭 政幸, 内山 高, 内山 美恵子, 原口 強
    2001 年 40 巻 3 号 p. 193-202
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    三重県鳥羽市相差宇塚の湿地において,地層抜き取り装置を用いて定方位柱状堆積物試料を採取し,肉眼と実体顕微鏡による岩相観察および堆積物の古地磁気測定を行った.その結果,淡水成泥質堆積物中に2枚の不淘汰な砂層を見いだした.この砂層には,貝殻・有孔虫など海生化石が含まれる.古地磁気永年変化の磁気層序対比および歴史津波史料に基づくと,これら2枚の砂層は1707年宝永地震と1605年慶長地震の津波堆積物である可能性が高い.
  • 狩野 謙一, 林 愛明, 丸山 正
    2001 年 40 巻 3 号 p. 203-210
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    境峠断層は,飛騨山地南部を北西-南東方向に走る長さ約30kmの断層で,さらに木曽山地北部に延長する境峠-神谷断層の北西部を構成している.この境峠断層のほぼ中央部において見いだされた中期更新世の段丘面を切断する逆向き低断層崖と,完新世の断層活動を示す露頭を記載した.この露頭では,基盤の花崗岩破砕帯中のカタクレーサイトや断層ガウジには,左横ずれの変位センスを示す非対称複合面構造組織が発達する.破砕帯中に取り込まれ,被覆層から由来する剪断変形した腐植質土壌の14C年代とあわせて,境峠断層は完新世を含む第四紀後期に活動している左横ずれ活断層であることが確認された.
  • チョードリ M.E.K., 成瀬 敏郎, 吉川 周作, 豊田 新
    2001 年 40 巻 3 号 p. 211-218
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    標高73mの岐阜県揖斐郡谷汲湿原において,深度18mのボーリングコアを採取した.18mのうち深度8.2mまでが泥炭,それ以深は粘土,シルト,泥炭,およびそれらの互層からなっている.深度2.3mにK-Ah火山灰,7mに阪手火山灰,10.5mにAT火山灰を挾み,15.5mの14C年代値は41,750±1,040 14C yrs BP (Beta-137441)であった.堆積速度はK-Ah~阪手火山灰までが0.48mm/年,阪手火山灰~ATまでが0.44mm/年,AT~15.5mまでが0.28mm/年である.コアのうち,深度5~16m(43~12ka)までを3.7cmごとに切り取り,さらに切り取ったコアから20cm3を抽出し,無機物量,粒度分析,ESR分析を行った.
    無機物のほとんどは20μm以下の細粒物質からなる.43~25kaでは無機物の含有量は0.1~1.35g/cm3,中央値MDは6μm前後の大きさである.そして,微細石英のESR信号強度が8.9~16.2と高いので,細粒物質が北方アジア大陸から冬季北西季節風によって運ばれた風成塵であると判断された.この時期の堆積物は,2つのモードを持つ粒度組成を示し,5~6μmにモードを持つ粒子は風成塵と,20μm以上にモードを持つ粒子は現地性物質と考えられる.この期間には,いくつかのスパイクが2,000~4,500年で繰り返す.これは気候がゆっくりと寒冷乾燥化して卓越風が強まり,急激に温暖湿潤化して卓越風が弱まることを示す可能性がある.AT火山灰上の23.5ka層準には現地性物質からなるスパイクがみられ,AT火山灰の堆積が地表に与えた影響がうかがえる.25~19kaの無機物の含有量は0.1~0.9g/cm3であり,19~12kaでは0~0.35g/cm3であった.21~19kaの風成塵はESR信号強度が5.5~5.7であり,中国内陸部乾燥地域から夏季偏西風によって運ばれたもので,谷汲湿原は酸素同位体ステージ2にポーラーフロントの南に位置していたと考えられる.19~12ka層準の無機物は現地性物質からなる.
    以上のように,43~12kaに谷汲湿原に堆積した細粒物質には風成塵からなるものがあり,その周期的な変動は世界的な気候変動やモンスーン変動を反映している可能性がある.風成塵はステージ3では北方アジア大陸から冬季北西季節風によって運ばれ,ステージ2は中国内陸部乾燥地域から夏季偏西風によって運ばれたと考えられる.
  • 岡崎 浩子, 江口 誠一, 奥田 昌明
    2001 年 40 巻 3 号 p. 219-222
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
  • 増田 富士雄, 藤原 治, 酒井 哲弥, 荒谷 忠, 田村 亨, 鎌滝 孝信
    2001 年 40 巻 3 号 p. 223-233
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    浜堤平野を構成する地層の発達過程を捉える目的で,千葉県九十九里浜平野において,海岸線と直交する方向での地質断面図が描けるように,深さ数m~24mのボーリングを19本行った.得られたコア試料に対する堆積相解析の結果,この地域の表層地下に分布する地層は,鮮新-更新統を基盤とし,谷埋めエスチャリー泥層,下部外浜基底の貝殻密集砂層,下部外浜細粒砂層,上部外浜細粒~中粒砂層,海浜砂層,潟・氾濫原泥層からなることがわかった.コアから得られた73試料の14C年代値は,これらの地層が完新統からなることを示している.また,高密度の年代値から作成した“堆積曲線”によって堆積年代が連続的に求まり,地質断面図上に500年ごとの等時間線を描くことができた.その結果,約5,700年前の縄文海進最高海面期以後に,海浜-外浜システムが基盤にダウンラップしながら年1.4~1.6mの速さで前進してこの完新統が形成されたこと,海岸線の前進速度が大きいと外浜勾配が急になること,基底のダウンラップ型貝殻密集砂層には海進期のラビーンメント堆積物が混入していることなどがわかった.
  • 宍倉 正展, 宮内 崇裕
    2001 年 40 巻 3 号 p. 235-242
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    房総半島南部沿岸には,過去の地震に伴う地殻変動を記録した離水海岸地形が複数のレベルに発達する.その詳細な調査に基づくと,1703年元禄関東地震に伴う地殻上下変動は従説とは異なり,南端での隆起と保田,小湊での沈降を伴った北への傾動運動であることが明らかになった.また本地域には,元禄関東地震や1923年大正関東地震と同様の2つのタイプの固有地震が離水海岸地形から確認され,元禄型地震は完新世最高位旧汀線の離水より4回,大正型地震は6,825~6,719cal yrs BP以降少なくとも11回発生している.大正型地震の再来間隔は,離水海岸地形の年代からみて380~990年,最高位旧汀線高度から成分分析した平均再来間隔は290~760年と推定される.沿岸低地の完新世における地形形成は,くり返し発生した元禄型・大正型地震に伴う地殻変動の累積変位に強く影響を受けており,特に海面に対して沈降を伴う元禄型地震時の変動に規定されて多様な発達過程を示す.
  • 岡崎 浩子, 佐藤 弘幸, 中里 裕臣
    2001 年 40 巻 3 号 p. 243-250
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    下総台地南縁部に分布する下総層群各累層の基底面等高線図の解析から,下総層群下部(地蔵堂層~藪層)堆積時では南方の嶺岡隆起帯に伴う沈降の影響が,その後(上泉層~姉崎層堆積時)に,鹿島-房総隆起帯の隆起の影響による北西傾動がより優勢になるというテクトニクス像が得られた.また,この鹿島-房総隆起帯の傾動には地域的相違がみられ,その結果,下総台地全体の南部では比較的急傾斜の,北部ではより平坦な基底形状が発達する.このようなテクトニクスの時間的・空間的違いは,そこに発達する堆積システムを規制している.
    下総台地南縁部の各累層にみられる堆積システムの変化とそこに含まれる指標テフラからは,海水準上昇期にエスチュアリーや内湾(-砂嘴)システムが,海水準下降期には三角州や外浜-海浜システムが発達したことがわかる.このように各累層にみられる堆積システムの変化は氷河性海水準変動に強く支配されている.
  • 中里 裕臣, 佐藤 弘幸
    2001 年 40 巻 3 号 p. 251-257
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    下総層群は,年代値の得られているテフラの対比および酸素同位体比曲線との対比から約45万年前~8万年前の年代を占める.各累層境界は陸成層や不整合の存在から海面低下期に対応する.千葉県の木更津-姉崎地域で確立された下総層群の標準層序は,テフラの追跡・対比により木更津市以北の千葉県北部全域に適用できる.
    成田市-東金市以東の千葉県北東部において,従来上総層群に対比されていた塊状シルト層の上部は,テフラの対比によって地蔵堂層に対比され,その堆積深度はより南西側の地蔵堂層に比べ深い.したがって,地蔵堂層堆積期までには,この地域における“鹿島”隆起帯の顕著な活動は認められない.さらに,下総層群の各累層基底面等高線図から,これらの面の傾動速度の経時変化を求めると,地域によって違いが認められる.その境界は千葉-八潮断層の延長線,成田-多古を結ぶライン,利根川沿いにあると考えられ,鹿島-房総隆起帯の運動にブロック化が認められる.特に千葉県北東部は藪層堆積期に急激な傾動を受けた.“鹿島”隆起帯が顕在化する時期は藪層堆積期であり,その影響によりこの地域ではバリヤー島システムが形成された.
  • 近藤 康生, 鎌滝 孝信
    2001 年 40 巻 3 号 p. 259-265
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    海底環境における各種の物理的攪乱,特に暴風時の堆積作用によるベントスの掘り起こしと埋没が底生群集の組成に与える影響について,(1)下総層群の藪層における平均堆積速度の遅い場所(市原市瀬又)と速い場所(木更津市宿)での比較,さらに(2)比較的遮蔽された古東京湾(瀬又と宿)と太平洋に面した開放海岸沖の陸棚(木更津市市野々,上総層群金剛地層)での比較を通して検討した.その結果,物理的攪乱の大きさは平均堆積速度と明らかな関連があり,堆積速度が大きいほど顕著となることが推定された.さらに,宿にみられる藪層の群集は,地層中での分布密度が低い内生種中心の内側陸棚底生群集であり,市野々に分布する金剛地層の群集は,多様度・分布密度ともにさらに低く,堆積物食者が中心の内側陸棚底生群集として理解できることがわかった.すなわち,これらの陸棚底生群集の組成には,物理的攪乱が顕著になるにしたがって次第に内生種が多くなり,さらに堆積物食者が中心の群集になるという傾向が認められた.また,これらは,暴風時の堆積作用に伴う物理的攪乱の影響を強く受けた底生群集として解釈された.現在,堆積速度が大きい陸棚域である西サハラ沖や,ニュージーランド南アルプス西岸沖の,内生生活者中心で堆積物食者の多い底生群集は,分布密度も多様度も極端に低い市野々の群集に比較される.
  • 菊地 隆男
    2001 年 40 巻 3 号 p. 267-274
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    房総半島の地形から読みとれる中期・後期更新世の古海水準や地殻変動について,2つの視点から考察した.半島東部の夷隅川下流と南部の大房岬における酸素同位体ステージ3の海成段丘の高度と年代資料から,両地域の隆起速度をそれぞれ2.1m/kyと1.8m/kyとすると,ステージ3の古海水準はいずれも-30~-35mであった.これはパプアニューギニア,ヒュオン半島のサンゴ礁段丘から新しく得られた値と比較して,40~50mも高い.また,半島の地表地形の削剥は著しいが,丘陵内を流下する河川の水系は,それが決定された堆積面離水時の地表面勾配を保存するという性質を利用し,北に流下する水系は東西方向に走る上総層群堆積時の葉山-嶺岡隆起帯の運動,北西に流下する水系は下総層群堆積時の北東-南西方向に走る鹿島-房総隆起帯の運動が関わること,また東方に向かう水系は,ステージ5以降に上総層群分布域に生じた東からの湾入の存在を暗示すること,などを推論した.
  • 西川 徹, 杉本 英也, 伊藤 慎
    2001 年 40 巻 3 号 p. 275-282
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    約45~7万年前に現在の関東平野一帯で拡大と縮小を繰り返した古東京湾で形成された下総層群では,堆積学・層序学・古生物学などさまざまな角度から堆積システムの発達過程が明らかにされつつある.本論では,古東京湾での堆積システムの発達過程における氷河性海水準変動とテクトニクスの役割に注目して,これまでの研究成果を整理し問題点を検討した.その結果,次のことが明らかとなった.
    (1)下総層群を構成する堆積シーケンスは,おもに氷河性海水準上昇期~高海水準期に形成された.すなわち,現在地層として残っている時間の記録はきわめて断続したものであり,従来考えられてきたようなおよそ10万年周期の氷河性海水準変動のすべてを記録しているものではない.(2)下総層群の場合,貝化石群集の特徴に基づいて復元された古環境変化は,必ずしも氷河性海水準変動を直接反映するものではない.(3)構造運動に支配された相対的海水準変動の地域的変化が古東京湾の発生期から埋積末期までの高周波堆積サイクルの発達過程に強く影響を与えていた.
  • 堀川 恵司, 高野 壮太郎, 伊藤 慎, 中野 孝教
    2001 年 40 巻 3 号 p. 283-290
    発行日: 2001/06/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    上部鮮新統-中部更新統上総層群の古環境解析の意義と,上総層群に記録された氷河性海水準変動ならびに古海洋変動の特徴を検討した.上総層群下部は,深海底で形成された堆積物で特徴づけられる.これまでの研究で解析の対象となることの少なかった半遠洋性シルト岩に注目し,帯磁率や化学組成の特徴を検討した.その結果,低海水準期に形成された半遠洋性シルト岩は,海進期や高海水準期のそれと比べて帯磁率が高く,これに対応してTiO2,Fe2O3,MgOなどの含有量が多く,CaOの含有量が少なくなることが明らかとなった.このような変動は氷河性海水準の低下にともなって,midwater flow起源の陸源砕屑物の深海底への供給量が増加することに対応すると解釈される.次に,およそ70万年前に,黒潮の影響を強く受けて形成された上総層群上部の陸棚堆積物の岩相的特徴を検討した結果,3,000年程度の周期で黒潮の流路や流速の長周期の変動が存在した可能性が明らかとなった.このことは,中期更新世以降,1,000年オーダーの気候変動が,時間的にも空間的にも地球規模で存在していた可能性を示している.
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