伊豆諸島北部,利島において30~10 cal ka BPに降下した流紋岩質テフラを記載し,記載岩石学的特徴や火山ガラスの主成分化学組成にもとづいて,それらを伊豆大島と新島のテフラへと対比した.利島で認められた計5枚の流紋岩質テフラは,下位から,神津島秩父山Aテフラ (Kz-CbA),伊豆利島2テフラ (Iz-Tos2),新島赤崎峰テフラ群 (Nj-AkG) のいずれか,大室ダシ1テフラ (Od-1),新島宮塚山テフラ (Nj-Mt) である.このうち新たに見出されたIz-Tos2は,他の伊豆諸島起源の既知テフラとは明瞭に識別され,伊豆大島のO86部層上部に散在する火山ガラスと対比された.14C年代や他のテフラとの層位関係から,Iz-Tos2の降下年代は,最終氷期極相期の30~19 cal ka BPと推定された.Iz-Tos2をもたらした噴火は,当時の海水準で陸域となっていた利島周辺の島棚や海丘頂部で発生した可能性がある.
2021年7月3日に静岡県熱海市伊豆山地区の逢初川沿いで土石流が発生し,大量の土砂が相模湾まで流下した.その後の調査で,逢初川の源頭部にあった盛土のうちの約55,500 m3が崩落し,流下したことが分かった.この源頭部の崩壊していない盛土の黒色土砂から4個体の海生二枚貝の貝殻を採取し,さらに集落の直ぐ上流の土石流堆積物から5個体の海生二枚貝の貝殻を採取した.これらは,マガキ属,アサリ,サルボウガイなどの宮城県以南,四国,九州の潮間帯下部~水深10 mに生息する種である.14C年代測定の結果,5,851~5,568 cal yr BC, 477~154 cal yr BC, 西暦1,700年以降の3つに分けられることが判明した.これらのことから,盛土の黒色土砂の供給源の一部は沿岸堆積物であり,現世堆積物と中部完新統の2つの供給源がある可能性があることが分かった.