第四紀研究の最重要課題の一つである,グローバルな古環境変動の解明と近未来環境の高精度予測を実現するためには,高分解能かつ高精度の年代推定が不可欠である.第四紀研究の編年に利用されるさまざまな年代測定法の中でも,放射性炭素(
14C)法は,1940年代の終わりに開発されて以来,頻繁に利用されてきた.
14Cの新たな検出法として加速器質量分析(AMS)法が1977年に開発された.それまでの,
14Cの崩壊で放出されるベータ線を計数する方法とは異なり,AMS法では
14C原子を直接検出し計数する.このため,最終段階で必要な炭素の量は数mgですむ.最近では,AMS
14C年代測定は広く利用されており,全世界で稼働中のAMS
14C年代測定実験室は60施設を超え,日本では8施設が稼働中である.
名古屋大学年代測定総合研究センターでは,日本のAMS
14C年代測定実験室の一つとして,初代のTandetron AMS装置を用いて1983年に定常的な
14C年代測定を開始し,第2代のAMS装置が1999年に稼働を開始し,現在に至っている.後者では,
14C標準体(HOxIIシュウ酸)から調製したターゲットについて,
14C/
12C比測定の誤差は1標準偏差で±0.2~±0.4%(
14C年代の誤差で±17~±30年),
13C/
12C比測定の誤差は1標準偏差で±0.03~±0.07%と,高性能を示している.このAMSシステムを用いて,第四紀に生じた事象について,高確度かつ高精度の年代測定の研究を推進している.本報告では,(1)日本産樹木の年輪に記録されている
14C濃度変動を,世界的に
14C年代較正に用いられているIntCal98やIntCal04データセットと比較し,両者の一致度を調査する研究,(2)木材の年輪年代を,
14Cウイグルマッチング法により,高確度かつ高精度に推定する研究,(3)日本列島周辺の海産物試料の較正年代算出のために,周辺海域の炭素リザーバー効果を評価する研究,について述べる.
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