現在の鹿児島湾奥部は,約25,000yrs BPの大噴火で生じた姶良カルデラにあたる.新島(燃島)はカルデラのほぼ中央部に位置し,1779~1780年の「安永の噴火」によってカルデラ海底から隆起したため,姶良カルデラでの環境変遷を記録している重要な島である.しかし,これまでの研究には,層序における不一致や矛盾があった.
地質の再調査と年代測定の結果,新島の地質は下位より州崎軽石層,燃島シルト層,燃島シラス層,燃島貝層,新島シラス層,降下火山灰層,それに表土からなることが判明した.岩相と年代の一致から,南海岸露頭のシルトは北海岸の燃島シルト層に同定され,約14,600yrs BPから7,800yrs BPの間に形成された.燃島シルト層直下の南海岸の厚い軽石層を州崎軽石と命名した.その形成時期は,
14C年代で約14,600yrs BP以前,フィッショントラック年代では約16±4kaである.一方,燃島シルト層直上の燃島シラスの形成時期は,約7,800yrs BPから6,000yrs BPまでの間である.州崎軽石と燃島シラスは,ともに姶良カルデラ湖底での水中爆発を起源としている.燃島シラスを噴出した水中爆発は,それ以前の地層を変形・侵食し,それ以後の地層との間の不整合面を形成した.
姶良カルデラが淡水環境から海水環境に変わった時期は,11,700yrs BPから11,000yrs BPの海面上昇期にあたる.カルデラ壁の南側が開いていたので,海面上昇により姶良カルデラの外側と内側が同時に海水環境となった.燃島貝層は約6,000yrs BPから約2,300yrs BPの期間に形成された.燃島貝層からその直上の新島シラス層に見られる外洋種化石群から内湾種化石群への漸移は,約2,300yrs BP以降に桜島の急速肥大などによって,湾奥がより閉鎖的になったことを示唆する.
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