第四紀研究
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44 巻, 1 号
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  • 吉田 英嗣, 須貝 俊彦
    2005 年 44 巻 1 号 p. 1-13
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    後期更新世以降の中之条盆地の地形発達史を復元し,約2.4万年前に発生した浅間火山の大規模山体崩壊に由来する中之条泥流の流下・堆積過程と,それによる地形変化を検討した.
    中之条泥流は,既存の堆積段丘面にのりあげて中之条面を形成した.泥流堆積物の層厚および堆積頂面高度は,吾妻川の攻撃斜面側で大きく,中之条面には流れ山が分布する.中之条泥流は,岩屑なだれとしての性質を保持した状態で幅の狭い谷中を流下後,谷幅が広がる盆地に流入し,急激に減速したと考えられる.その結果,大量の堆積が生じ,当時の河床から約20~30mの比高を有していた段丘面に,中之条泥流がのりあげたと推定される.中之条泥流の堆積後,現在に至るまで吾妻川では侵食作用が卓越してきた.これらのことから,中之条泥流イベントは,完新世に至るまで河床変動をコントロールしてきたと考えられる.
  • 鹿児島県新島(燃島)に基づく研究
    亀山 宗彦, 下山 正一, 宮部 俊輔, 宮田 雄一郎, 杉山 哲男, 岩野 英樹, 檀原 徹, 遠藤 邦彦, 松隈 明彦
    2005 年 44 巻 1 号 p. 15-29
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    現在の鹿児島湾奥部は,約25,000yrs BPの大噴火で生じた姶良カルデラにあたる.新島(燃島)はカルデラのほぼ中央部に位置し,1779~1780年の「安永の噴火」によってカルデラ海底から隆起したため,姶良カルデラでの環境変遷を記録している重要な島である.しかし,これまでの研究には,層序における不一致や矛盾があった.
    地質の再調査と年代測定の結果,新島の地質は下位より州崎軽石層,燃島シルト層,燃島シラス層,燃島貝層,新島シラス層,降下火山灰層,それに表土からなることが判明した.岩相と年代の一致から,南海岸露頭のシルトは北海岸の燃島シルト層に同定され,約14,600yrs BPから7,800yrs BPの間に形成された.燃島シルト層直下の南海岸の厚い軽石層を州崎軽石と命名した.その形成時期は,14C年代で約14,600yrs BP以前,フィッショントラック年代では約16±4kaである.一方,燃島シルト層直上の燃島シラスの形成時期は,約7,800yrs BPから6,000yrs BPまでの間である.州崎軽石と燃島シラスは,ともに姶良カルデラ湖底での水中爆発を起源としている.燃島シラスを噴出した水中爆発は,それ以前の地層を変形・侵食し,それ以後の地層との間の不整合面を形成した.
    姶良カルデラが淡水環境から海水環境に変わった時期は,11,700yrs BPから11,000yrs BPの海面上昇期にあたる.カルデラ壁の南側が開いていたので,海面上昇により姶良カルデラの外側と内側が同時に海水環境となった.燃島貝層は約6,000yrs BPから約2,300yrs BPの期間に形成された.燃島貝層からその直上の新島シラス層に見られる外洋種化石群から内湾種化石群への漸移は,約2,300yrs BP以降に桜島の急速肥大などによって,湾奥がより閉鎖的になったことを示唆する.
  • 松下 まり子, 佐藤 裕司, 加藤 茂弘, 兵頭 政幸
    2005 年 44 巻 1 号 p. 31-36
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    兵庫県,播磨平野東部の加古川市都台の海成段丘堆積物は,珪藻および火山灰分析によって海洋酸素同位体ステニジ7.3の海進期ピーク(約215ka)に相当することが示されており,重要な地磁気エクスカーションも見いだされている.本研究では,この高海面期堆積物について花粉分析を実施したので報告する.海成堆積物中に見られる花粉組成から,海洋酸素同位体ステージ7.3の最暖期の都台周辺には,ブナ属,コナラ属コナラ亜属を主とする落葉広葉樹林とマツ林が成立していたと考えられる.この海成段丘堆積物は,挾在する火山灰の対比から大阪層群Ma11(2)に相当しており,大阪湾での海底ボーリング堆積物のMa11海成粘土層の花粉組成と比較すると,マツ属複維管束亜属とブナ属が卓越し,コナラ属アカガシ亜属などの暖帯要素が少ないことが共通していた.しかし,Ma11層の特徴的属であるとされているトガサワラ属は検出されなかった.そして,都台の東方に隣接する神戸市垂水区の高塚山粘土層(Ma9層,海洋酸素同位体ステージ11)の海進期堆積物中では,常緑広葉樹林の構成種であるコナラ属アカガシ亜属花粉等が高率で出現する.このように中期更新世の間氷期の中でも,優占する種群に違いが見られ,海洋酸素同位体ステージ7.3の海進期(Ma11(2)層堆積時)はMa9層堆積時より,冷涼であったといえる.
  • 山口 正秋, 須貝 俊彦, 藤原 治, 大森 博雄, 鎌滝 孝信, 杉山 雄一
    2005 年 44 巻 1 号 p. 37-44
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    木曽川デルタで掘削された2本のボーリングコア(海津コアと大山田コア)の粒度組成から,デルタの微地形を復元した.さらに,堆積速度との関係を検討した.両コアは,プロデルタ,デルタフロントスロープ,デルタフロントプラットフォームを構成する典型的なデルタのサクセッションを示す.しかし,粒度組成と堆積速度は両地点の微地形の違いを反映して異なっている.プロデルタ堆積物は,浮流物質のみからなる海津コアに対して,養老山地に近い大山田コアは支流からの土砂供給を示す二峰性の粒度分布をもった堆積物を挾在する.堆積速度は,前者では小さく(1.4~3.7mm/yr),後者で大きい(1.9~4.6mm/yr).デルタフロントスロープ堆積物は,海津コアで典型的な上方粗粒化傾向を示す一方,大山田コアでは粗粒で淘汰がよい堆積物や,二峰性の粒度分布を示す堆積物を挾在する.これは,海津コアが河川からの土砂が集中するローブの中心付近に位置していたのに対して,大山田コアは河川フラックスの小さいローブの外縁付近に位置し,相対的に波浪や沿岸流などで再配置された淘汰のよい堆積物が堆積する割合が高かったためと推定される.堆積速度は前者で大きく(~55.8mm/yr),後者で小さい(~12.6mm/yr).
  • 大井 信夫, 三浦 英樹
    2005 年 44 巻 1 号 p. 45-50
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    北海道北部稚内市恵北における恵北層上部,ガラス質テフラ直下の泥炭層の花粉分析を行った.このガラス質テフラは,阿蘇4(Aso-4)に対比される.泥炭層の花粉群は,トウヒ属が優占,カラマツ属,モミ属,カバノキ属などを伴い寒冷乾燥気候を示唆する.この花粉群の特徴は,北海道の他地域のAso-4直下における花粉群と一致する.したがって,本地点の恵北層は後期更新世,最終氷期前半の堆積物と考えられる.Aso-4降下頃の恵北においては,カラマツ属が多産する花粉群ではカヤツリグサ科が,少ない花粉群ではミズバショウ属,ミズゴケ属が多産する.これは,スゲ湿原上にグイマツ林が成立し,ミズゴケ湿原にはミズバショウが伴うという湿地の局地的環境を示していると考えられる.
  • 工藤 雄一郎
    2005 年 44 巻 1 号 p. 51-64
    発行日: 2005/02/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    更新世終末期における自然環境の著しい変動の過程で,人類活動がどのように変化してきたかを議論するためには,環境史と考古学的相対編年との時間的対応関係を整理することが必要不可欠となる.本稿では,放射性炭素年代を使用した考古学的研究の問題を整理した上で,本州島東半部を対象に約24,000~11,000cal BPにおける環境史と考古学的相対編年の関係を明らかにした.関東平野や中部高地の当該期の考古編年は,おおよそナイフ形石器群後半,尖頭器石器群,細石刃石器群,無文土器+神子柴・長者久保系石器群,隆起線文土器群,爪形文・多縄文土器群,撚糸文土器群に区分される.較正曲線CalPal_2004_Janを用いた場合,それぞれ較正年代で約2.3~2.0万年前,約2.1~1.9万年前,約1.8(2.0?)~1.5万年前,約1.7~1.5万年前,約1.5(1.6?)~1.4(1.3?)万年前,約1.35~1.15万年前,1.1万年前以降に位置づけられる.環境史的な意味での大きな変化は,隆起線文土器群と撚糸文土器群の段階に対応する.自然環境の変化と考古学的編年の両者の時間的対比は,1,000年オーダーでの大局的位置づけであるが,当該期における考古学的枠組みと環境史との対応関係の確立は,当該期の考古学研究におけるきわめて重要な課題である.
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