海溝型巨大地震サイクルの解明に向けた,三陸海岸における地形・地質研究の現状と課題を整理した.当該海岸地域では103~104年スケールの地殻変動の推定研究として沖積層研究が行われ,南部では沈降傾向,北部では相対的に隆起傾向にあることが明らかになりつつある.一方,105年スケールの地殻変動推定の根拠とされてきた海成段丘について,当該海岸最北部では研究が進み,隆起傾向が示唆されている.しかし,他地域では,テフラに乏しく段丘の形成年代が不明であり,南部では海成段丘とされてきた平坦面がほとんど残存しない.これまでに得られた成果からは,従来単一と見なされていた三陸海岸の地殻変動区を複数にセグメント区分する必要性が示唆される.そのためには,引き続き沖積層研究を進めることに加え,海成段丘とされてきた平坦面の成因や編年を再検討することが必要である.海成段丘の編年においてはOSL年代測定が有望である.
東南アジアのうち明瞭な雨季と乾季のある場所では,河川による土砂輸送や地形形成は数か月単位で劇的に変化する.このような変化は,第四紀の長期的な基準面変動に対する河川の応答に数オーダー小さい時空間スケールで類するものでもあって,河川の振る舞いを考える上で極めて重要であると考えられるが,これを扱った研究は少ない.また,河川による土砂輸送プロセスを考慮しながら雨季と乾季で異なる沖積平野の特性を理解しておくことは,洪水災害による被害を軽減する上でも必要である.本稿では,カンボジアおよびフィリピンでのこれらに関する研究事例を紹介し,第四紀学的視点で洪水氾濫や河川による土砂輸送,沖積平野の発達史といった陸域の諸現象を科学的に解釈し,変化の大きい水環境と人間生活の関わりの多様性への理解を通じて,安心・安全な地域社会の形成に貢献していくことの重要性について述べる.
2000~2016年に公表された日本国内および国外の主要な査読付学会誌と国際誌を対象に,山岳や高緯度地域などの寒冷地域でなされた地表プロセス(地形発達および地形形成営力)研究を総覧した.それらを氷河プロセスと周氷河プロセス,地すべりプロセスに分け,各分野において日本人が主体となって進められた研究の動向を地域や研究項目ごとに整理した.そのうえで今後の課題を抽出した.論文はどの地表プロセス研究でも多く,研究が活発になされてきたことが理解された.しかし寒冷地域を対象とする研究者の年齢上昇などのため,従来の堅調な傾向が今後持続する確証はない.また「第四紀研究」が寒冷地域の地表プロセス研究の発表機会として活用されていない実態も明らかになった.この分野における若手研究者の育成や会員増をねらった取り組みが必要である.
京都府京丹後市久美浜町蒲井の標高約5mに位置する更新統黒色泥層の珪藻分析,花粉分析,放射性炭素年代測定を行った.堆積年代は43,500yBPよりも古いと推定された.花粉組成からは,スギを伴う冷温帯落葉広葉樹林にマツ属が沿岸部に生育する植生が想定されたが,照葉樹であるアカガシ亜属の花粉も検出された.珪藻化石群集の優占種はPseudopodosira kosugiiであり,本州日本海側の更新統からの本種の初報告である.本種と随伴種から,黒色泥層の堆積環境は汽水泥質干潟の高潮線付近だったと推定された.