湖沼水位および花粉データを用いて,中国における完新世中期,最終氷期最盛期,酸素同位体比ステージ3後期における古気候が復元された.3~4万年前には,現在より30~200m高い湖水位を持つ多くの淡水湖が,チベット高原や北部中国砂漠に存在した.これらは,チベットの寒冷混交林が現在の西方限界を超えて400~800kmも広がっていた花粉の証拠と対応している.Guliya氷冠に残されたδ
18Oの高い値は,この期間が現在より暖かかったことを示している.これらの記録から,西中国の気候がステージ3後半で例外的に暖かく湿潤で,強い夏のモンスーンが生じていたことが復元される.最終氷期最盛期には,チベットや西中国Xinjiangでは,3万年前よりは低いけれども現在より高い水位であった.一方,東中国での乾燥を示す湖水位は,夏の雨量の少なさを推定させる.これは,夏のアジアモンスーンの弱体化による.一方,西中国の湿潤状況は蒸発の減少,雨量の増加を意味している.
完新世中期の湖沼記録は,北東中国,北中国,Xinjiang盆地,チベット高原を含む中国全土で現在より湿潤であったことを示している.花粉に基づいた6千年前の植生復元では森林帯が系統的に北方ヘシフトし,チベットのツンドラ地域が大きく減少し,ステップ植生へ置き換わったことを示している.湖沼水位と花粉データは,6千年前における増大する夏のモンスーンと弱くなる冬のモンスーンを推定させる.
中国における湖沼水位と植生記録の統合から,過去4万年間におけるアジアモンスーンの変遷に対する日照(太陽エネルギー),氷河作用,地表の変化への対応の気候シグナルを復元できる.古記録と古気候シミュレーションの間の矛盾は,気候変化のメカニズムをよりよく理解するために,古気候シミュレーションを改良する基礎となった.
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