東北本州弧の後期新生代火山岩類の地質学的・岩石学的研究により,火成活動の時間的発展が詳細に明らかになってきた.この時間的発展は,島弧の構造地質学的発展と密接に関連している.火山活動には明らかに3つのステージが識別され,それらは大陸縁辺ステージ,背弧海盆ステージ,そして島弧ステージに区分される.おのおののステージの火山岩類は,それぞれ特徴的な島弧横断方向の化学組成変化を示す.これは,おそらく背弧海盆拡大期から島弧形成期にかけてのマントルの温度構造変化に伴って起こったものであろう.島弧ステージはさらに4つのサブステージに区分される.それらは海底火山活動期(13.5~8Ma),後期中新世カルデラ形成期(8~5Ma),鮮新世カルデラ形成期(5~1.7Ma),そして第四紀成層火山形成期(1.7~0Ma)である.火山噴火様式の変化は,地殻内応力場の変動によって起こったものと解釈され,それはプレート運動に規制されていると考えられる.
近年の地震波トモグラフィーの発展によって,東北本州弧の地殻・マントル構造を,詳しく可視化することができるようになった.地質学と岩石学をあわせ考えると,地震波イメージは地殻・マントルの温度構造を明らかにするための有効な道具となる.地質学と岩石学に基づいて推定される現在のマントルウェッジの温度構造は,マントルウェッジの地震波速度構造とよく対応している.後期中新世~鮮新世カルデラの地下で起こったであろうマグマの貫入は,地殻内に大規模なマグマ溜りを形成し,地殻内温度構造に影響を与えたと考えられる.この温度構造擾乱の名残は,現在も地震学的に検出できる.東北本州弧の地殻・マントル温度構造は火成島弧の発展と関連して発達してきたものと考えられる.
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