第四紀研究
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51 巻, 2 号
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2010年度日本第四紀学会学術賞受賞記念論文
  • 鈴木 毅彦
    2012 年 51 巻 2 号 p. 65-78
    発行日: 2012/04/01
    公開日: 2012/07/27
    ジャーナル フリー
    本稿では,北関東から東北地方南部のテフロクロノロジーに関する研究をレビューし,過去約40万年間に噴出した主要なテフラの層序・分布・年代・給源がほぼ明らかにされたことを述べ,過去150万年間に及ぶ火山活動史・地形・堆積物の編年状況を示した.また,以下に示す考察・問題点の指摘を行った.
    10火山の過去約30万年間の爆発的噴火史を整理し,噴火頻度・降下テフラの噴出率を再検討した.また,福島県会津地域の前期更新世カルデラ火山よりもたらされた火砕流堆積物の研究,とくにその層序と火砕流流出に伴う降下テフラの遠隔地における対比研究をレビューし,噴出率を予察した.さらに,本地域の内陸部に分布する中期更新世河成段丘と丘陵地形の編年研究をレビューし,沿岸域には異なる年代の低海面期に形成された埋没谷が存在することを指摘した.また,テフラの給源火山認定,沿岸域の丘陵や埋没谷の形成年代推定など,これらに関して異なる見解があることを示した.
論説
  • 松江 実千代, 稲田 晃, 田辺 智隆, 楡井 尊, 上中 央子, 本郷 美佐緒, 小林 健助
    2012 年 51 巻 2 号 p. 79-92
    発行日: 2012/04/01
    公開日: 2012/07/27
    ジャーナル フリー
    戸隠高原(標高約1,200m)に分布する上部更新統の花粉分析により古植生を復元した.最終氷期極相期後半に相当する1.8~1.5万年前(14C測定値)頃,高原付近にはカヤツリグサ科やイネ科が繁茂する湿性草原が大きく広がり,ハナシノブ属も生育していた.一部にはヨモギ属などが生育する中性から乾性の草地や,コケスギランが生育する植被の乏しい環境もあった.高原を囲む周辺山地にはトウヒ属,ツガ属,マツ属(単維管束亜属),モミ属などの亜高山帯針葉樹林が成立していた.約1.5~1.3万年前頃,気候の温暖化に伴い周辺山地ではツガ属,モミ属が減少し,亜高山帯針葉樹林にカバノキ属が多く混生するようになり,コナラ属コナラ亜属などの落葉広葉樹がわずかに増加傾向を示しはじめた.しかし,高原付近の草地には大きな変化が見られず,前時代と同様な湿性草原が広がっていた.
  • 堀 和明, 田辺 晋
    2012 年 51 巻 2 号 p. 93-102
    発行日: 2012/04/01
    公開日: 2012/07/27
    ジャーナル フリー
    本稿では,微地形の認定が容易な濃尾平野北部の揖斐川旧河道沿いの氾濫原を対象に,地形・堆積学的手法を用いて,その形成過程を検討した.調査地の堆積環境は,3,200年前以降に三角州から氾濫原へと変化し,その後,600年前頃に破堤による砂質堆積物の堆積がみられるものの,2,000年近くにわたって後背低地の状態が継続した.しかし,約400年前に生じた揖斐川の流路変更(アバルション)に伴い,河道となった地点では流路侵食が,河道沿いとなった地点では自然堤防堆積物の急速な累重が起こった.さらに,この河道に沿って分布する輪中の一部が,この時期の自然堤防に起源を持つことが示唆された.102~103年オーダーの堆積速度は,後背低地および自然堤防でそれぞれ約1~2mm/yr, 10mm/yrと推定され,堆積環境による差が顕著であった.
  • 吉岡 薫, 廣瀬 孝太郎, 入月 俊明, 河野 重範, 野村 律夫, 後燈明 あすみ, 岩井 雅夫
    2012 年 51 巻 2 号 p. 103-115
    発行日: 2012/04/01
    公開日: 2012/07/27
    ジャーナル フリー
    兵庫県赤穂市坂越湾と相生市沖で採取した柱状試料を用いて,過去約数百年間の珪藻群集および堆積物の全有機炭素(TOC)・全窒素(TN)濃度の時空間的変化を明らかにした.さらに,珪藻群集と最近の人為汚染・改変との関連性,および1980年代以降の環境保全対策が珪藻群集に与えた影響に関して検討した.各種分析を行った結果によると,播磨灘北部沿岸域では1930年代以降に水域の富栄養化が始まり,その初期段階には珪藻群集が増加しはじめ,1960年代の高度経済成長期において水域の富栄養化がさらに進行した.1980年代以降,坂越湾と相生市沖では,異なる環境変遷をたどったことが示唆され,1990年代以降に坂越湾ではマガキ養殖の影響,相生市沖では播磨灘北部の水質改善の影響を受けたと考えられる.
短報
  • 藤原 治, 澤井 祐紀, 宍倉 正展, 行谷 佑一
    2012 年 51 巻 2 号 p. 117-126
    発行日: 2012/04/01
    公開日: 2012/07/27
    ジャーナル フリー
    2011年東北地方太平洋沖地震(Mw9.0)による津波堆積物を,津波の2日後の3月13日に九十九里海岸中部で観察した.この地域では,津波は海岸から約1km内陸まで遡上した.津波堆積物は内陸へ向かって次第に薄く細粒になり,泥質砂の薄層を経て遡上限界付近では植物片などの集積帯となる.津波堆積物を特徴づけるベッドフォームは種々のリップルである.形態としてはカレントリップルが普遍的に見られ,バルハン・リップルもしばしば見られた.場所によっては,砂の薄層とマッドドレイプが繰り返し重なる多重級化構造が見られ,津波が何度も遡上を繰り返したことを示している.こうした堆積学的な情報は,津波による堆積作用の理解や,ストームなどほかの堆積物との識別にも貢献する.
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