栃木県北部から福島県南部にかけては第四紀テフラが多数分布する.しかし,放射年代値が報告されたテフラは少ない.また従来報告されたフィッション・トラック(FT)年代値についても,現在となってはその測定方法に問題がある.本研究では,IUGSからのFT年代測定法に関する年代較正の勧告に従ってゼータ較正法を用い,本地域の第四紀テフラ11枚についてジルコンによるFT年代測定を行った.測定結果は,上位のテフラから順に,芝原テフラ(SB):110±20ka,田頭テフラ(TG):160±20ka,APm-U:130±30ka,黒田原テフラ(KdP):200±30ka,根本13テフラ(Nm-13):290±60ka,根本14テフラ(Nm-14):290±30ka,根本16テフラ(Nm-16):290±70ka,鶴ヶ池黄色テフラ(TyP):160±70ka,法師峠黒雲母テフラ(HtB):660±40ka,西郷火砕流堆積物(NSG):790±160ka,隈戸火砕流堆積物(KMD):1,400±200kaとなる.このうちSB,TG,KdP,Nm-14,HtBに対しては,100粒以上のジルコン結晶を用いた高精度FT年代測定を行った.
TyPを除き年代値の誤差を考慮すれば,上位のものほど若い値が得られた.また,従来報告されたFT年代値と比べて若い値が得られ,鈴木(1993)が推定した年代値よりも全体として若くなる.今回の年代値を採用すると,テフラ間にはさまれる火山灰土の堆積速度はより等速に近くなる.また,河成段丘については,従来認定されなかった海洋酸素同位体比ステージ6頃の気候段丘を新たに認定できる可能性がでてきた.一方で,中期更新世の広域テフラ,大町APmテフラ群に対比されていたAPm-Uの対比を再検討する必要が生じた.
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