長野市信更町に分布する高野層のボーリングコア(TKN-2004)について,14~4万年前までの化学組成に基づく珪藻生産量の変動を検討した.高野層のSiO
2/Al
2O
3比は,生物源シリカ量と相関を持つので,珪藻生産量の指標となる.珪藻生産量と花粉に基づく環境指標を比較した結果,珪藻生産量はおもに気温に支配された可能性が高い.珪藻生産は,深水層の栄養塩が有光層まで回帰する時に高まることから,気温が表層水温を規制し,湖沼の循環機構に影響を及ぼしたと考えられる.スペクトル解析では2万年周期が検出されるので,この現象は歳差運動に支配されているといえる.しかし,気温上昇よりも珪藻生産の増加が遅れる時期がある.これは気温上昇により形成される土壌起源の栄養塩が,湖内に蓄積する時間を反映する可能性がある.土壌起源の栄養塩を運搬するのは河川なので,土壌形成を促す気温のみならず,降水量も影響しているのであろう.しかし,高野盆地のような閉鎖的で集水域の小さな場所にできた湖沼では,降水量の影響よりも気温に影響を受けることが指摘できる.
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