アトランチック,サブボレアル,サブアトランチック段丘を含む国後島の低位海成段丘群は,中・後期完新世の海水準変動を反映している.比高5~6mのアトランチック段丘はストームリッジ堆積物からなり,湖成シルト層とピート層に覆われる.
この段丘の形成期は,花粉分析や珪藻分析,
14C年代測定(5,450~6,070yrs BP)によって完新世オプティマムに比定される.この時期の初頭には,海水準は25m程度低下しており,北国後陸橋は繋がっていたが,その後の急激な海面上昇によって切断された.海面上昇は最高+2.5~3mに達し,太平洋側に広い湾が形成され,南千島地峡のオホーツク海側には大きな潟が出現した.このため,岸辺では急激な削剥が進行し,沖合に巨大なバリアーが形成された.植生は,現在より温暖な針葉樹広葉樹混淆林であった.
アトランチック-サブボレアル移行期には,小規模な海退があり,汀線内の河川沿いには比高20m程度の砂丘が形成された.セルノボドスキー地峡とクルグロブスキー地峡には小規模な陸橋が再現した.サブボレアル期の比高2.5mの段丘堆積物からは,4,010~3,400yrs BPと2,950~2,620yrs BPの2回の小海進が認められる.この海進によって前期に形成された砂丘は侵食され,中南部の海岸沿いに再び小規模な湾と潟が出現した.この時期の植生は現在よりやや温暖な,わずかに広葉樹の混じる針葉樹林である.サブボレアル-サブアトランチック移行期(2,220~1,170yrs BP)には寒冷期の到来とともに,海退が進行し,砂丘や沼沢地が形成された.サブアトランチック期(1,170~820yrs BP)には比高2.5mの段丘が形成された.この時期の海水準は約+1mであった.その後,小氷期に入り,現在の砂丘の形成が行われた.
これらの海成段丘の形成過程から,この地域では少なくとも完新世後半以降,顕著な構造運動は認められないことが明らかになった.
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