北八甲田山における更新世末期以降の火山灰層序を検討し, これにもとづいて, 谷地・田代・毛無平各湿原および地獄沼における花粉化石群集とその層位的変化を調べた結果;
1) 上位よりHK-a~-jと呼ぶ10層の示標火山灰層を認めた. このうち, HK-a, -b, -f, -i, -jは, 既報の苫小牧火山灰 (Tm), 十和田aテフラ (To-a) の上部降下ユニツト, 中掫浮石 (Cu), 八戸浮石層 (HP) の浮石流凝灰岩相部 (HPf), 八戸浮石層の降下浮石相部にそれぞれ対比された.
2) 約12,000~約8,500年前に, 亜寒帯針葉樹林から
Fagus を主とする冷温帯落葉広葉樹林への移行期が認められた. この移行期は, 下位の
Betula または
Alnus 林期と上位の主に
Quercus (
Lepidobalanus) からなる落葉広葉樹林期に2分される. この一連の変遷は気候の温暖化に起因する.
3)
Betula または
Alnus 林期の後半に, 一時的な亜寒帯針葉樹の拡大が認められた.
4)
Fagus の分布拡大は, 約8,500年前から急速に起こった.
5) 約5,000年前以降に, 約1,100m以上の高所を中心に,
Abies mariesii が分布拡大したと考えられた.
Cryptomeria の分布拡大はより低所を中心に起こり,
Abies のそれと拡大域が異なることが指摘された.
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