亜高山帯から得られた花粉群と植生との関係を明らかにするため, 東北地方の八甲田山, 八幡平, 栗駒山, 月山の計71地点から得られた湿地表層堆積物の花粉分析結果と現存植生を比較し, 次の結果を得た.
a) 針葉樹林が発達する八甲田山, 八幡平の亜高山帯から得られた花粉群では, 冷温帯林を構成する樹木花粉が全樹木花粉の少なくとも20~30%を占めた. 一方, 針葉樹林が発達しない栗駒山, 月山の亜高山帯から得られた花粉群では, 同じく全樹木花粉の少なくとも40~50%を占めた.
b) 亜高山帯に針葉樹林が発達しない場合, 亜高山帯と冷温帯から得られた花粉群を, 樹木花粉スペクトルのみから区別するのは困難と考えられた. これは, 亜高山帯から得られる樹木花粉スペクトルが, 冷温帯から飛来する花粉によって歪曲されるためである.
c) しかし, APに対するNAPや亜高山帯落葉低木林の主要構成要素として含まれる
Alnus, Ericaceae などの出現率は, 冷温帯に比べ亜高山帯で高い消長パターンを示した.
d) このことから, APに対するNAPや非樹木花粉あるいは亜高山帯落葉低木林の主要構成要素の花粉出現率を, 標高軸にそって比較し, その消長パターンを検討すれば, ブナ林域と亜高山帯落葉低木林域の花粉群を区別するのは可能と考えられる.
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