ラット肝切除後の肝再生停止機構に対する肝細胞自身の関与の有無について検討した. 70%切除後の残存肝では, 1日後に急峻なDNA合成のピークが, 2-4日間に急激な重量の増加がみられた. 経時的に肝細胞を分離培養して得られた培養上清のうち, 術後2-4日のものが, 初代培養系で上皮成長因子とインスリンにより誘発される正常肝細胞のDNA合成を抑制した. この抑制活性は, 濃度依存的に作用し, 細胞毒性はなく, S期の肝細胞には効果がなかった. その性状は, 熱および酸処理に安定な蛋白性物質で, 種および臓器特異性に乏しかった. また, 上皮成長因子の肝細胞膜上の受容体への結合を阻害しなかった. その生理的意義は, 初回分裂後の細胞を含むG
1期にある肝細胞が, 増殖因子に反応してS期に進行するのを阻止することにあると推測される. 以上の結果から, 肝細胞自身が増殖抑制因子を分泌して, 肝再生過程を自ら制御している可能性が示唆された.
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