Journal of UOEH
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35 巻, Special_Issue 号
産業医と労働安全衛生法四十年
選択された号の論文の24件中1~24を表示しています
第1部 「産業医制度」
  • 堀江 正知
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 1-26
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    日本には,労働者数50人以上の事業場に産業医を選任する法令上の義務があり,2010年の選任率は87.0%とされる.1938年に旧工場法の省令が「工場医」を規定し,1947年に労働基準法の省令が「医師である衛生管理者」を規定し,1972年に労働安全衛生法が「産業医」を規定し,1996年に産業医学の研修受講が選任要件となった.労働衛生の歴史上,当初,工場労働者の傷病の治療と感染症の予防で医師が必要とされた.その後,健康診断等の健康管理及び作業環境測定等の衛生管理の手法が開発され,局所排気装置や労働衛生保護具等の対策が普及し,医師以外の労働衛生の専門職が制度化され,産業医と事業者との関係が法令で明確に規定された.現在,日本医師会と産業医科大学は産業医を養成し,日本産業衛生学会は専門医制度を確立した.産業医の専門性向上,労働衛生の専門職の活用,小規模事業場の産業保健活動,リスクアセスメントの推進,複雑化した法令の体系化等が課題である.
  • 藤野 昭宏
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 27-34
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    産業医と倫理について,1)産業医の法的地位と職務遂行上の倫理,2)産業医学研究の倫理,3)21世紀に求められる産業医の倫理観と根源的思想,の3つの観点から考察した.1)では,産業医の契約類型と独立性・中立性,健康情報とプライバシー保護,及び産業医の権限行使とその担保措置,2)では,国内外の研究倫理基準,倫理審査委員会の意義と役割,及び産業医学研究に特徴的なこと,3)では,産業医と政治倫理,産業医に必要な実務能力と倫理観,及びアートとしての産業医の実践と思想,の各々について論述した.これらの考察から,産業医制度という国家政策に基づく特別な社会的な立場である産業医として,国民である労働者と事業者の双方に対して責任をもって使命を果たすという倫理観が職務上のコアになければならないことが示唆された.さらに,産業医の究極的な使命は,「人間学として産業医学を実践すること」であるとの提言を行った.
  • 森 晃爾
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 35-40
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    労働安全衛生法の制定以来,産業医育成のための諸制度が構築され,専門性向上のための仕組みが充実してきている.一方,企業を取り巻く環境や労働者の働き方の変化によって,産業医活動のニーズは多様化している.産業医を,医師としての活動時間の一部を産業医業務に割り当てる「役割として産業医を果たす医師」と,活動時間の多くを産業医業務に割り当てる「産業医を専門的な職業とする医師」,および企業単位の産業保健や労働衛生機関における産業医活動を統括する「リーダー的産業医」に分けて,その育成制度の課題を検討した.「役割として産業医を果たす医師」については,事業場での産業医として役割を果たすことができる質の確保が課題と考えられ,「産業医を専門的な職業とする医師」については,供給の絶対数が不足していることが課題と考えられた.また,「リーダー的産業医」については,通常の産業医の育成プログラムに加えて,リーダーシップやマネジメント能力に相当する資質向上が必要と考えられた.その上で,それらの課題について,今後のあり方を考察した.
  • 大神 明, 東 敏昭
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 41-45
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    日本産業衛生学会の専門医制度は,平成4年4月に正式発足して以来今年で21年目を迎えた.産業医大ではこの専門医制度の事務局として発足当時よりこの制度の一端を支えてきた.この項では,今までの専門医制度の経緯と専攻医資格を含めた新制度について述べるが,日本産業衛生学会が目指すところの専門医は,労働安全衛生法に定める産業医,労働衛生指導医,労働安全衛生コンサルタントなどの現行制度下における実務的資格あるいは身分とは全く競合するところのない独立の制度となるべきもので,これら既存の資格に代わることを目的とするものでもない.むしろ,将来,専攻医から専門医を資格し,十分な経験を積んだ専門医が,労働衛生指導医や労働衛生コンサルタントとして活用されるようになることが期待されるものである.
  • 一瀬 豊日, 中村 早人, 蜂須賀 研二
    原稿種別: 報告
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 47-52
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    平成25(2013)年6月1日現在で産業医科大学医学部は2,875名の卒業生を輩出している.うち産業医として就業している人が526名,修学資金返還免除対象職務となる本学教員252名,労災病院219名,健診中心の労働衛生機関84名となっている.義務年限中の職種として多い臨床研修医を含めた卒後の修練医等は473名である.卒業生産業医は全国に分布している.その多くは日本の大規模事業所の分布にほぼ一致する太平洋ベルト地帯を中心とした都市圏である.この10年程度の卒業生産業医数の増加は義務年限を修了しても産業医を継続する者が多くなった結果,従事者数が増加したことが大きく影響しており,要因として卒後修練課程の充実や修学資金が考えられるが,多くの要因が含まれているので単純単一の要因として導くことは難しい.企業の産業医を経験した教員,労災病院医師や開業医等による産業医育成能力向上や産業保健体制充実の影響もあると考えられ,今後これらの分析も進める必要がある.
  • 茅嶋 康太郎
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 53-58
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    我が国では,労働者数規模300人未満の事業所で80%以上の労働者が働いており,中小企業の安全衛生活動の活性化は大きな課題である.しかしながら,労働者数規模が小さくなるにつれて,投資上の制約などの経済的な面や人的資源が充分でなく,安全衛生管理体制,安全衛生活動の問題が生じている.これまで,中小企業向けの産業保健サービスは,地域産業保健センターや都道府県産業保健推進センター,中央労働災害防止協会などの公的団体や,健康診断実施サービス等を提供する労働衛生機関,健康保険組合や地域医療との連携で提供されてきた.欧州では企業外産業保健サービス機関が発達しており,産業保健サービスのカバー率がほぼ100%の国も存在するが,我が国においてはまだ低いといえる.事業者に安全衛生活動の有益性を示し,産業保健サービスの活用意欲を高める方策を検討するともに,サービス提供体制の整備や,産業医等の専門家の資質向上と人材を確保するための方策が必要である.
  • 池田 智子
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 59-66
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    1972年に職業病予防を目的に制定された労働安全衛生法は,時代とともに私傷病(作業関連疾患)への配慮も含む内容に変わり,近年では労使の参加・協力の枠組みも示されるようになった.今後は,拡充された労働安衛衛生法の目的達成のために,労使主体による予防活動のさらなる推進が重要になるが,それには全ての労働者に対して,自主的活動を行える力をエンパワーメントする必要がある.看護とは,対象者の潜在能力を引き出し最大限に発揮できるようエンパワーメントすることであり,環境改善やポピュレーションアプローチを含む活動であることを,既に1850年代にナイチンゲールが説いた.また保健師とは,当事者が自らの健康課題を解決するプロセスへの援助を核とし,コミュニティを基盤に健康問題をとらえ,予防につながる組織的な取り組みを担い,公的責任を志向する公衆衛生専門職である.保健師や看護師(両者を総称して「看護職」)の活動基盤は「エンパワーメント」の理論と技術であり,今後,労使自主対応型の労働安全衛生を推進するにあたり,重要な役割を担える専門職である.
  • 松田 晋哉
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 67-72
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    フランスは日本と同様,産業医の資格と義務的配置を法律で定めている.フランスの産業医は専門医の一つであり,卒後4年間の研修の後,企業の産業保健サービス部門あるいは中小企業を対象とした企業間産業保健サービスで勤務する.日本と異なり,フランスでは事業所規模に関わらずすべての労働者が産業医による健康管理を受けることができる.フランスの産業医の職務は予防的な活動が中心であり,緊急時を除いて臨床行為を行うことはできない.その主な職務は健康診断の実施とその結果に基づく適正配置,そして職業病や労働災害防止のための職場環境改善である.かつては職務が予防的業務に限定されていたため十分な研修医が集まらない現状があったが,職域における健康管理の重要性が社会的に認知されるようになり,その専門医養成数及び志望者が増加している.また,職務内容もメンタルヘルスや生活習慣病を予防するための活動の重要性が大きくなっている.このように両国の産業保健の状況には多くの共通点があり,したがって今後比較制度研究が本学関係者を中心に行われることが期待される.
第2部 「職場環境と有害要因」
  • 保利 一
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 73-78
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    わが国における有害物を取り扱う作業のうち,指定作業場については,定期的に作業環境測定を行い,その結果に基づいて対策を行うこととなっている.これにより,わが国の作業環境は著しく改善したが,作業環境が良好で当該物質が検出限界以下になっても定期測定が必要である一方,有害物を扱っていても指定作業場でなければ作業環境測定の義務がないなど,現行の方法では限界があることも指摘されている.一方,欧米では,作業者の個人ばく露濃度を測定することにより作業環境管理と作業管理が行われている.わが国でも,現在,個人ばく露濃度測定を取り入れることを検討しているが,欧米の方法をそのままわが国に導入するには多くの課題がある.本稿では,これまでのわが国の作業環境管理の歴史と現状,さらに今後の課題について概説する.
  • 明星 敏彦
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 79-84
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    労働安全衛生法(安衛法)が制定されて40年が過ぎた.本稿では安衛法に基づく作業環境管理について概観する.作業環境管理は,環境中の有害要因の評価と排除を主とし,産業医にとって,健康管理と同じく重要な職務である.作業環境管理も評価と対策のサイクルをもって行う点は診断と治療のサイクルの健康管理と共通している.作業環境管理は,歴史的に法律に基づいた有害な作業別に指示する作業列挙方式から作業環境ごとの管理濃度に基づく濃度管理方式へ移行した.さらに最近は,管理濃度が設定されていない新規化学物質を対象にコントロール・バンディングによる方法も検討されている.
  • 岡﨑 龍史
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 85-89
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    日本における放射線障害防止の法律は,昭和30年に施行された「原子力基本法」が元となる.原子力の研究,開発及び利用の促進のために制定されたが,海外からの放射線同位元素の輸入の増加に伴い,昭和32年に科学技術庁所管で「放射性同位元素による放射線障害の防止に関する法律」,つまり「放射線障害防止法(障防法)」が制定され,昭和33年に施行された.平成24年原子力規制委員会が環境省の外局として発足し,管轄している.労働基準法の面からもさらに充実した規制が生じたため,昭和34年に労働省令第11号として「電離放射線障害防止規則(電離則)」が制定された.これまでにも何度も改正が行われたが,平成23年福島原子力発電所(福島原発)事故に伴い,新たに改正されている.障防法及び電離則を解説し,労災認定について述べる.
  • 上野 晋
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 91-96
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    わが国でもかつては金属や有機溶剤による産業中毒の事例が多発していた時代があり,このことが機縁の一つとなって1972年(昭和47年)に労働安全衛生法が制定された.現在,化学物質はその危険有害性の程度に応じていくつかの規則によって管理されているが,その対象物質は産業現場で使用される化学物質の一部に過ぎず,毒性が明らかでないまま使用されている化学物質も少なくないのが現状である.労働安全衛生法が改正され,全業種の事業者に化学物質に係るリスクアセスメントが求められるようになっている中で,産業医は毒性が明らかでない化学物質を含めてこれからどのように対応していくべきであろうか.本稿では化学物質の中でも金属と有機溶剤の毒性学に焦点を当てて考察する.
  • 川本 俊弘, 辻 真弓, 田中 政幸
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 97-106
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    鉛と有機溶剤の健康診断に生物学的モニタリングが導入されて四半世紀が経った.今では化学物質取扱業務の労働衛生管理になくてはならないものとなっている.鉛業務従事者に対しては血液中鉛と尿中δ-アミノレブリン酸を,有機溶剤(8種類のみ)業務従事者に対してはそれぞれの尿中代謝物を6か月ごとに1回測定することになっている.特定化学物質については従来の生物学的モニタリングに加えて,平成25年1月から「インジウム化合物」,「エチルベンゼン(塗装業務のみ)」及び「コバルト及びその無機化合物」の生物学的モニタリングが実施されることとなった.本稿では職域における生物学的モニタリングの実施内容と労働衛生管理への利用についてまとめた.一方,一部の有機溶剤健康診断では未だに誤った時間に採尿されている.産業医は正しい生物学的モニタリングを実施することに努める一方,産業医学研究者は採取時間が制限されない生物学的モニタリング指標を開発する必要がある.
  • 河井 一明
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 107-111
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    がんは,日本における死亡原因の1位(約1/3)を占めている.そのうちで職業に起因する要因は数パーセントとみられている.しかし,特定の業種で働く労働者にとっては,高濃度で長時間の曝露を受けていることから,発がん要因として大きなものとなる.職業がんの低減を考える上でこれまでの経験から学ぶことは多い.職業がんのこれまでの経緯を振り返ると共に,職業がん低減の取り組みの1つとして,比較的初期の生体影響マーカーとして8-ヒドロキシデオキシグアノシン, DNA付加体に加えてエピジェネティック発がんの新たなマーカーとしてシトシン5位のメチル化の応用に期待が持たれる.
  • 森本 泰夫
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 113-119
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    じん肺法は,主にじん肺健診などの健康管理やその事後処置に関する項目が掲載されており,時代とともに健診項目の評価手法・解釈の変更が行われた。主な変更点は,胸部の画像としてCRやDR画像を認めたこと,肺機能障害の評価を日本人の基準値を用いて行ったこと,じん肺の合併症に肺がんが加わったことなどである。産業医は,これらの変更に柔軟に対応し,じん肺を未然に防ぐために,粉じん職場における労働衛生管理を徹底することが重要である。さらには,新たな粉じん対策としてナノマテリアル取扱作業に関する通達も示されており,有害性が未知の物質においても労働衛生管理を積極的に展開することが必要である.
  • 高橋 謙, 石井 義脩
    原稿種別: 報告
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 121-126
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    近年,わが国の職業がんの中で石綿中皮腫と石綿肺がんは,その数・割合とも著明に増加しており,労働安全衛生の中で石綿は当面重要課題の一つであり続けることは疑いない.本報ではわが国における石綿と労働安全衛生法(安衛法),特定化学物質障害予防規則(特化則),石綿障害予防規則(石綿則)等の法体系・行政通達との関係について行政資料を中心に検討し概説する.特にわが国で石綿が全面禁止に至った経緯,労働者の曝露防止対策,管理濃度等の変遷,石綿作業従事労働者の健康管理の各側面について焦点を当てる.
第3部 「作業負担と就業生活」
  • 泉 博之
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 127-131
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    作業管理とは,労働者の持つ能力を効率よく活用し,最良の作業効率において継続的に生産を行うために作業の方法や条件を適切に管理する事である.本論文では,作業管理についてF. W. Taylorの科学的管理法と暉峻義等(労働科学研究所初代所長)によるその批判からその考え方を論じる.労働安全衛生法では,産業医が行うべき作業管理は,医学の専門知識を用いて,労働者の健康を害することなく生産活動が継続出来るように作業を管理することである.これは作業に起因する健康被害の低減を目的として,作業方法の変更・作業条件の調整を行う事である.そのため,より効果的な作業管理を行うためには,産業医には医学の専門知識と同時に生産に関する基礎知識が必要とされ,作業管理に必要なツール群の開発と産業医と生産管理・技術スタッフ連携による管理システムの職場への導入が必要である.今後,これらを実現させるための法的支援の充実を期待したいものである.
  • 大和 浩
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 133-140
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」に沿って,諸外国では包括的な喫煙対策が進められている.一方,わが国では職場の受動喫煙防止対策さえ十分には達成されていない.労働安全衛生法の一部を改正し,安全配慮義務という観点から受動喫煙防止対策を義務化する法律の改正案は,2012年11月16日の衆議院の解散により廃案となったことから見送られた状況となっており,一刻も早い国会への再提案が望まれる.本稿では,企業が自主的に判断して取り組むべき職域の喫煙対策について解説する.
  • 太田 雅規, 大和 浩
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 141-149
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    定期健康診断の有所見率は,心血管危険因子に関する項目を中心に増加の一途をたどっている.高年齢労働者の割合は増加しており,今後も心血管危険因子の重要性が高まる.心血管危険因子は,適度な運動や適切な食生活といった健康的な生活習慣を実践することで予防することが可能である.職域における健康増進についての取り組みとしては,心身両面にわたる健康保持増進のための措置(Total Health promotion Plan: THP)が挙げられる.しかし,THPを行っている事業場はわずか5%で,運動習慣のある者の割合は約3割である.そこで,地域保健との連携による健康増進活動の有効活用,運動を実践しやすい環境改善,運動以外の身体活動の増加の効果検証などといった取り組みを行い,多くの労働者の健康増進につながるような研究が望まれる.また,職域で健康増進活動を展開するためにも,仕事満足感や労働適応能力,休業率などの仕事に関連する因子の評価を行っていくことも肝要となってくる.
  • 廣 尚典
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 151-156
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    我が国の産業精神保健活動の歴史を,行政の動向と併せて簡潔に振り返り,今後産業医がそれに対していかなる関わりを持つべきかをまとめた.産業医は,労働安全衛生法規からみても,職場の精神保健活動に関して,幅広い取り組みが求められている.それは精神障害の疾病管理だけに留まらない.精神保健活動のみを担当する産業医を認めることは,現時点では様々な副作用を招きうる.導入の可否に関する慎重な議論が必要である.
  • 藤木 通弘
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 157-162
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    睡眠不足や生活のリズムの乱れは,日中の眠気を引き起こし重大な産業事故を引き起こしうるというだけでなく,種々の慢性疾患をも引き起こすことが明らかとなってきている.作業管理の観点からだけでなく,労働者の健康を守るためにも,睡眠の生理学についての正しい知識をもち,それを適切に応用する能力が産業医にとっても求められていると言えよう.また,潜在患者数が600万人ともいわれる閉塞性睡眠時無呼吸や,概日リズム睡眠障害交替勤務型などのような睡眠障害を有する労働者を把握し,適切な対応をすることも,健康管理・作業管理の両面から重要な課題である.これら産業現場における睡眠あるいは時間生物学上の問題点については,まだまだ未解明の点も多く,今後の研究による成果が産業現場に還元される事が期待されるところである.
  • 久保 達彦, 村松 圭司, 藤野 善久, 林田 賢史, 松田 晋哉
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 163-168
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    職業性暴露の管理にあたっては,まず暴露を定義することが必要になる.しかしながら行政的な管理の視点からすると,交替制勤務の対象には通常の日勤時間帯以外に勤務する就労形態が包括的に含まれ効率的な定義が困難である.そこで各国の行政は定義が難しい交替制勤務者ではなく,勤務時間帯によって定義が比較的容易な深夜業従事者を管理の対象としている.一方,既存の医学研究においては交替制勤務と比較して深夜業という用語使用は一般的ではなく,また交替制勤務と深夜業はほぼ同一の意味を持つ用語として用いられている.これらの現状を踏まえれば,労働衛生分野においては医学研究用語としての交替制勤務と行政用語であるところの深夜業を類義専門用語として取り扱い,現行制度との連動性をもって医学的エビデンスを利用し,労働衛生の推進という本来の目的を迅速に達成していくことが適当と考えられる.
  • 辻 真弓, 田中 政幸
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 169-175
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    少子高齢化社会を迎えて労働力の減少が避けられない現在,女性労働者をとりまく環境を整えることは,これまで以上に産業医の重要な課題となっていくと考えられる.母性保護の管理を推進していくために必要な法律として把握しておくべき法律に,労働基準法,女性労働基準規則,男女雇用機会均等法がある.女性の社会進出が多方面に広がったことを受け,平成24年に行われた女性労働基準規則の改正では有害物の発散する場所で働く女性労働者を曝露から保護するために,近年の新たな知見に対応した有害物の選定や規制濃度の見なおしを行った.本稿では,母性保護管理の措置に関与する男女雇用機会均等法,労働基準法における母性保護規定並びに女性労働基準規則について簡単に述べ,最後に平成24年に行われた女性労働基準規則改正の詳細について述べる.
  • 藤野 善久, 久保 達彦, 松田 晋哉
    原稿種別: 総説
    2013 年 35 巻 Special_Issue 号 p. 177-183
    発行日: 2013/10/01
    公開日: 2013/10/10
    ジャーナル フリー
    近年,健康格差が社会的課題として取り上げられている.2012年に発表された第2次健康日本21の素案の中で,健康格差への取り組みが優先的課題として提示された.このような背景を踏まえて,健康格差の是正に向けた産業保健のあり方について,公衆衛生および社会疫学的視点から考察を行った.はじめに,職域における健康格差について,レビューを行い,また,社会疫学やライフコースアプローチで得られた知見にもとづき,職域における健康格差の成立機序についてコンセプトモデルを提示した.さらに,産業保健において健康格差に取り組むための具体的ツールとして,健康影響評価の活用について解説する.
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