Journal of UOEH
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38 巻, 2 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 工藤 安史, 河野 恵子, 豊島 泰子, 杉崎 一美, 松橋 綾子, 堤 明純
    原稿種別: [原著]
    2016 年 38 巻 2 号 p. 119-128
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    看護師および准看護師は,看護専門職者としての教育を受けている.看護専門職者は,看護補助者に仕事を手伝ってもらうことで,専門性の高い職務に集中できる.もし看護専門職者が看護補助者に対して不適切な態度をとった場合,看護補助者は,力の及ぶ限り看護専門職者を助けたいと思う気持ちは生じ難くなりえる.我々は,看護補助者の看護専門職者に対する心象を調査し,その後,看護補助者のどのような心象が,看護専門職者に貢献したい思いに関連しているのか検討した.研究デザインは横断研究であった.25ヶ所の中小規模病院(55床から458床)が,この研究に参加した.解析対象は642名の看護補助者であった(男性96名,女性546名).看護専門職者の態度に関する看護補助者の心象を構成する因子を抽出するために因子分析を行った.「看護専門職者に貢献したい思い」に関する予測因子を探る目的で,重回帰分析を行った.因子分析の結果,第1因子(看護専門職者の模範となる行動),第2因子(看護補助者へのマナー),第3因子(看護補助者の仕事への情熱に対する尊重),第4因子(看護補助者の仕事への尊重),第5因子(看護補助者の仕事をする能力の向上)の5つの因子が抽出された.「看護専門職者に貢献したい思い」に対して有意に関連していた因子は,「看護専門職者の模範となる行動」,「看護補助者へのマナー」,「看護補助者の仕事への情熱に対する尊重」であった.これら第1因子から第3因子は,適切な人間関係を構築する時の基本的な原則である.看護補助者から最大限の協力を得られるためにも,看護専門職者は,日々の業務の中で,これらの基本に留意する必要がある.
  • 藤本 直浩
    原稿種別: [総説]
    2016 年 38 巻 2 号 p. 129-138
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    Prostate-specific antigen(PSA)スクリーニングの導入により,前立腺癌は早期に発見されるようになったが,10から20%は診断時にすでに進行癌である.前立腺癌はアンドロゲン感受性癌であり,多くの患者において初期治療としてのアンドロゲン除去療法(ADT)が有効である.しかし,1~2年で多くの進行癌患者は去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)となる.アンドロゲン依存性癌からCRPCに進行する機序としては多くの機序が報告されているが,アンドロゲン-アンドロゲン受容体(AR)の経路がもっとも重要である.これにはARの遺伝子変異,発現増強,変異型ARの出現,AR共役因子の発現増強,アンドロゲンの産生増加などがある.ホルモン剤であるアビラテロン,エンザルタミド,抗癌剤であるカバジタキセルなどのCRPCに対する新規薬剤が開発され,臨床試験においてCRPC患者の生存期間の延長が示された.しかし,そのような新規薬剤に対しても前立腺癌は抵抗性を獲得して進行し,これらの新規薬剤による生存の延長期間は限られている.アンドロゲン-AR経路は新規薬剤に対する抵抗性においても中心的な役割を担っている.CRPC患者の予後を改善するためには,有効な薬剤および治療法の開発,さらにそれぞれの患者に対してもっとも適切な治療法を選択するためのバイオマーカーの開発などの精力的な研究が必要である.CRPCの生物学的特徴を理解したうえでの臨床試験の蓄積により予後の改善が可能であろうと期待される.本総説では,前立腺癌の治療抵抗性とCRPC治療の今後について述べる.
  • 黄 哲, 足立 弘明
    原稿種別: [総説]
    2016 年 38 巻 2 号 p. 139-148
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    神経変性疾患はその発症メカニズムがいまだ明確にされていない難治性疾患の一群である.罹患率は高く根本的な病態抑止治療法が確立されていない.神経変性疾患における形態学的病変では,病因となる蛋白質が神経細胞内で異常な凝集体を形成して蓄積しており,それらが細胞毒性を発揮して神経細胞死に至ると考えられている.オートファジーは,細胞内でこれらの異常蛋白質を分解するシステムとして重要な役割を果たしており,神経変性疾患の発病に強く関わっていることが知られている.従って,オートファジーは神経変性疾患の新しい治療ターゲットになっており,植物由来の天然化合物によるオートファジー活性化機構およびその機序に基づいた神経変性疾患の治療法開発研究が盛んに行われている.本稿では,アルツハイマー病,パーキンソン病,ハンチントン病,球脊髄性筋萎縮症,脊髄小脳変性症3型,筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患について,オートファジー経路を活性化する作用のある天然化合物を用いた治療法の開発に関して概説する.
  • 森 博子, 岡田 洋右, 川口 真悠子, 田中 良哉
    原稿種別: [症例報告]
    2016 年 38 巻 2 号 p. 149-153
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    ダパグリフロジンは,SGLT2阻害薬(selective inhibitor of sodium glucose co-transporter 2)のひとつであり,インスリンを介さずに血糖値を改善する作用機序を有する新規2型糖尿病治療薬である.その効果は血糖改善のみならず,血圧,脂質などへの多面的な作用がある.今回,2型糖尿病患者にダパグリフロジンを投与し,血圧がnon-dipperからdipperに改善した症例を経験したので報告する.60歳男性の2型糖尿病患者に対し,ダパグリフロジン5 mg/日を投与し,血圧への影響を評価した.血圧は,投与前,投与後8日目,14日目にABPM (24 hour ambulatory blood pressure monitoring) を測定した.24時間血圧は収縮期血圧:systolic blood pressure (SBP)/拡張期血圧:diastolic blood pressure (DBP) 131/87 mmHgから127/83 mmHgに低下した.中でも,夜間血圧は123/84 mmHgから116/75 mmHgに低下した.その結果,夜間血圧下降度は,9.6 %から12.8 %と上昇し,血圧はnon-dipperからdipperとなった.ダパグリフロジンは平均血圧のみならず,夜間血圧を降下させnon-dipperからdipperへ改善する可能性がある.
  • 野口 真吾, 鳥井 亮, 島袋 活子, 山崎 啓, 城戸 貴志, 吉井 千春, 迎 寛, 矢寺 和博
    2016 年 38 巻 2 号 p. 155-162
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    症例は78歳の男性.2015年2月,全身倦怠感,食欲低下,皮膚の色素沈着,低血圧,低血糖を認め,また,胸部レントゲンにて異常陰影,エコーにて副腎腫大を指摘されたため,当院を受診した.胸部computed tomography(CT)検査では右下葉に腫瘤影,両側副腎腫大を認め,気管支鏡検査の結果,小細胞肺癌,両側副腎転移と診断した.また,血清コルチゾールの低下,adrenocorticotropic hormone(ACTH)の上昇,および,迅速ACTH試験の結果から,小細胞肺癌に合併した副腎機能不全症と診断した.カルボプラチンとエトポシドによる化学療法に加えて,ハイドロコルチゾン20 mgによる加療を開始した.その後,患者の全身症状はやや軽快したが,1コース終了後,患者の希望にて化学療法は中止とした.その後,緩和的に加療を行ったが,徐々に全身状態の悪化を認め,2015年8月に永眠された.肺癌患者における副腎転移は稀ではないが,小細胞肺癌に合併した副腎機能不全症は稀であり,副腎の90%以上の機能が破たんした場合に発症する.肺癌診療において,全身倦怠感,食欲低下,低血圧,低Na血症といった所見は,しばしば癌の進行に伴う所見として経過観察される場合がみられるが,副腎機能不全症に対する適切な治療(副腎皮質ホルモンの補充)は症状や生活の質の意義のある改善をもたらすため,両側副腎転移を有する小細胞肺癌患者では副腎機能不全症の可能性を考慮しなければならない.
  • 森本 英樹, 柴田 喜幸, 茅嶋 康太郎, 本山 恭子, 若林 忠旨, 洞澤 研, 丸田 和賀子, 小笠原 隆将, 錦戸 典子, 大山 祐史 ...
    原稿種別: [原著]
    2016 年 38 巻 2 号 p. 163-173
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    社会保険労務士(社労士)は,顧問先から産業精神保健分野の相談を受けているが,社労士に必要な産業精神保健の能力について明確にされているものはないため,我々は産業精神保健分野の相談に社労士が対応するために必要な能力を標準化し,これらを学ぶことができる討論型研修を設計した.医師,産業看護職,社労士,教育設計専門家,経営コンサルタントで構成される研究班会議で,ブレインストーミング法を用いて社労士が産業精神保健に関わるために必要な能力をまとめ,能力を身につけるための学習目標と討論型研修で使用する4事例を,計9時間30分の研修として作成した. 研究班員の紹介によって19名の受講者が参加し,本研修の有効性評価として研修直前と直後に集団法で7問の論述式試験を実施した.研修の全項目に参加した16名を調査対象とし試験の回収率は100% であった.社労士に必要な能力として,厚生労働省の通達など知識だけでなく,情報収集や助言や復職時の対応などがあげられた.本研修の評価では,設問の合計点と7設問について,Wilcoxonの符号付順位検定を行ったところ,いずれも研修前後で有意差が認められ,本研修の有効性が示唆された.
  • 大津山 彰
    原稿種別: [総説]
    2016 年 38 巻 2 号 p. 175-183
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    2008年HLEG(High Level Expert Group on European Low Dose Risk Research)は低線量影響研究の意義とその重要性を提唱し,発がんも含めて低線量放射線影響研究は国際的関心事となってきている[1,2].我々は長年動物実験を行っているが,放射線発がん実験は動物種の選択や,放射線の種類,量,照射方法など組合せが複雑で,解析もマクロからミクロ,分子生物学分野におよび,線量と効果の関係の目標を定めにくい領域である.我々の実験系では特異的自家発生がんが少ないマウスを選択し,目的の誘発がんとしてマウスで自家発生が希有な皮膚がんを選択した.また被ばくによる他臓器への影響を避け,かつ皮膚限局照射が可能なβ線を用いた.これにより照射部位の皮膚のみをがんの発生部位とし,他臓器の放射線影響を最小限にして長期反復被ばくを可能にし,放射線誘発腫瘍が生じる実験系を作った.照射は週3回反復照射で1回当りの線量を0.5~11.8 Gyまで段階的に線量を設定した.11.8~2.5 Gy線量域ではどの線量でも発がん時期と発がん率に変化はなかったが,この線量域から1.5~1 Gy線量域に1 回当りの線量を下げると発がん率に変化はみられず発がん時期の遅延が生じた.1回当りの線量0.5 Gyではマウスの生涯を通じ照射を続けてもがんは生じなかった.この結果はマウスでは,生涯低線量放射線被ばくを受け続けても生存中にがんが発生しない線量,つまりしきい値様線量が存在することを示している.
  • 池上 和範, 江口 将史, 大﨑 陽平, 中尾 智, 中元 健吾, 廣 尚典
    原稿種別: [報告]
    2016 年 38 巻 2 号 p. 185-197
    発行日: 2016/06/01
    公開日: 2016/06/14
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,メンタルヘルス不調により休業した労働者の事例を分析し,メンタルヘルス不調の若年労働者への対応方法を検討することである.我々は,11名の産業医から収集した36例のメンタルヘルス不調による休業者の事例提供を受け,若年労働者の対応方法について検討を行った.メンタルヘルス不調の労働者対応の詳細および対応上の要点や課題に関する記述を整理分類し,30歳未満と30歳以上の労働者の2群間で比較検討を行った.産業看護職が職場の主要な対応者である割合は,30歳以上群(休業開始前:16.7%,休業中:11.1%)と比べ,30歳未満群(休業開始前:38.9%,休業中:38.9%)で多かった.メンタルヘルス不調により休業した労働者の対応上の要点は,両群ともに休業・職場復帰支援体制が必要である意見がもっとも多かった.また30歳未満群は家族との連携が重要である意見が多かった.若年労働者は,キャリアが短く十分な職務能力が不足している点や,個人要因によるメンタルヘルス不調が多い傾向にある点など,若年労働者に適応した職場や業務に配置転換が難しい可能性がある.メンタルヘルス不調の若年労働者への対応として,産業看護職による支援体制や職場と家族間の連携の強化が重要であることが示唆された.
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