Journal of UOEH
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15 巻, 4 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 有吉 宣明
    原稿種別: 原著
    1993 年 15 巻 4 号 p. 251-266
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2017/04/11
    ジャーナル フリー
    当科腫瘍外来の109例の悪性腫瘍患者のうち, 固形腫瘍では神経芽腫が最も多く, 開院以来24例が管理されている. 神経芽腫はスクリーニング可能で, 我々が市医師会と協力して開始した北九州方式によるマススクリーニング(MS)により, 当市では6年間に64, 885名の6カ月児の中から, 7例の神経芽腫が発見されている. 当科で管理中の6例においては, 血清神経特異性エノラーゼ, フェリチン高値やN-myc遺伝子の増幅あるいは細胞遺伝学的異常など, 従来いわれてきた予後に関する危険因子は, 認められなかった. 病理組織学的には, 1歳以上の例では, 神経節芽細胞腫が13例中9例を占めていたのに対し, 1歳未満では11例中2例にすぎず, そのいずれもがMS例であった. Shimadaらの分類で, MS例の1例は乳児期にはまれで, 成熟型と考えられている間質増生型腫瘍であり, 自然退縮例も存在したのに対し, 1歳以上の非MS例は, 13例中9例が死亡している. MS例の中には, 成熟または自然退縮過程にあって, 良好な予後が期待される神経芽腫が含まれている可能性がある. MS例の治療成績が著しく良好であるにもかかわらず, 1歳以上で発症する神経芽腫の予後は, 依然として不良であり, 年長児の神経芽腫を救済するためには, 1歳6カ月健診時に再スクリーニングを取り入れるべきと考えられた.
  • 保利 一, 田中 勇武
    原稿種別: 原著
    1993 年 15 巻 4 号 p. 267-275
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2017/04/11
    ジャーナル フリー
    有機溶剤作業において使用される防毒マスクには, 活性炭を充填した吸収缶あるいはカートリッジが使用されている. マスクの使用時には呼吸のため, 吸着層に流入する蒸気は間欠的になる. また, 間欠作業等で同じマスクを何度も使用する場合には, さらに長い周期で間欠的に吸着が行われる. このような間欠吸着時の有機溶剤蒸気の活性炭層における吸着特性は定常的な場合とは異なることが考えられる. 本報では, 酢酸エチルあるいはトルエン蒸気を含む空気を, 活性炭を充填したカラムに10分-24時間間隔で間欠的に導入し, 破過特性を定常的な吸着の場合と比較検討した. 酢酸エチルでは, 非吸着の間隔が短い場合, 破過時間は定常的な吸着の場合とほとんど一致したが, 非吸着の時間が長くなると蒸気を導入していない時間中に破過し, 定常吸着の場合よりも破過時間は短くなる傾向が見られた. 一方, トルエンについては, そのような破過時間の短縮は認められなかった.
  • 池村 邦男, 藤江 康忠, 大矢 亮一
    原稿種別: 原著
    1993 年 15 巻 4 号 p. 277-286
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2017/04/11
    ジャーナル フリー
    口腔癌切除後, 切除縁に腫瘍が残存しているか否かを全ての切除面について検討するため, 凍結切片による評価(Mohs法)を3名に試みた. その結果, 新鮮材料では切片の切り出しが困難, 手術時間が延長するなど, 定常の検討法としては適切でないと思われた. そこで, ホルマリン固定後の手術材料を検討する方法を8名に行った. パラフィン切片で評価する方法は凍結切片利用時の欠点を補うことができるが, 腫瘍の残存が明らかになっても直ちに再手術ができないという欠点がある. パラフィン切片を評価した2名に腫瘍残存が認められた. また, 全切除面に腫瘍残存が認められず, 再発した1名を経験した. 本症例では, 腫瘍の不連続性発育を示唆する所見があり, このような場合は放射線を主とする追加治療を考慮する必要がある. また, T4腫瘍, 歯肉や硬口蓋の悪性腫瘍では全切除縁の十分な評価は困難となる. 以上のような制限があるが, 実際的な腫瘍残存の検討方法と考える.
  • 加地 浩, 大崎 饒, 六条 知恵子, 東 敏昭, 藤野 昭宏, 鎌田 豊彦
    原稿種別: 原著
    1993 年 15 巻 4 号 p. 287-296
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2017/04/11
    ジャーナル フリー
    慢性マンガン症の早期診断のためには神経生理学的異常の早期発見が最も有効とされている. 重心動揺計static sensographyをマンガン取扱い者の特殊健診に応用し, 重心動揺の総移動距離(本稿では重心動揺指数postural sway indexと称ぶ)の意義を血中, 尿中マンガン濃度との関連で検討した. マンガン精錬工場に働く年令29-59才(平均47才)の作業員66名(女性1名を含む)を対象として1984年から1989年までの6年間調査を行った. 54名のマンガン曝露作業者は交替勤務制で就労しており, 調査開始の1984年の時点で平均22.6年作業を続けていた. 作業場の気中粉じんおよび気中マンガン濃度は各々0.07-2.74および0.02-0.46mg/m³であった. マンガン曝露者における各指標の平均値は血中マンガン19.1-26.9μg/ℓ [対照値平均17.8(標準偏差5.2)μg/ℓ], 尿中マンガン2.60-4.22μg/g Creat. [対照値幾何平均1.16(幾何標準偏差1.93)μg/g Creat.], 重心動揺指数51.4-94.6 cm/30 sec. [対照値幾何平均59.7(幾何標準偏差1.4)cm/30 sec.]の範囲を変動した. 重心動揺指数と血中および尿中マンガン値との間に有意の相関は認められなかったが, 今後, 既に確立された検査法との組合せにより, 上記の如き簡易な神経生理学的検査法の有用性についてさらに検討すべきものと考える.
  • 大成 圭子, 大西 晃生, 橋本 朋子, 山本 辰紀, 辻 貞俊, 村井 由之
    原稿種別: 症例報告
    1993 年 15 巻 4 号 p. 297-302
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2017/04/11
    ジャーナル フリー
    患者は32歳男, 発熱数日後より体幹・四肢に発疹を認め, ほぼ同時期に両下肢の痛みおよびじんじん感が出現した. 重症の肺炎のため検査・治療を受けた. 発症2カ月後肺炎が治癒した時点で, 便秘と悪心・嘔吐, 両下肢のじんじん感, 立ちくらみを主訴として神経内科で精査を受けた. 臨床的に急性多発根神経炎が強く疑われた. 起立性低血圧, 発汗低下が著明であった. 四肢の末梢神経伝導検査所見から, 神経線維の軸索変性と節性脱髄の混在が推定された. 脳脊髄液蛋白は150 mg/dlと上昇し, 細胞数は18/mm³であった. 風疹ウィルス抗体価上昇が末梢神経障害の原因を示唆する唯一の異常所見であった. それ故, 本例を風疹感染後に発症し運動・感覚および自律神経症状を呈した急性多発根神経炎と診断した. 上記の症状は徐々に改善し, 発症1.5年後の現在, 患者は事務職に従事している. 風疹感染後に発症し, 自律神経障害を伴った急性多発根神経炎例の報告は稀である.
  • 松浦 孝行
    原稿種別: 原著
    1993 年 15 巻 4 号 p. 303-309
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2017/04/11
    ジャーナル フリー
    玉を箱にいれる場所占め問題のうち, m種類の玉をn種類の箱にいれる問題は, 玉にも箱にも区別がある場合として知られている. また, 玉にも箱にも区別のない場所占め問題は, 分割数とのかかわりが知られている. ところで, m種類の玉のそれぞれと, n種類の箱のそれぞれに同じものが複数個あるということになると, これは玉と箱の双方について区別あり区別なしを同時に扱う問題となる. これは実際に解く場合非常に複雑で, 一般的な解法は知られておらず, 研究もあまりなされていない. しかし, この問題を解く簡単な方法があれば, 応用範囲も広く, 実際面でも有益であると思われる. ここでは, この問題が分割数と密接なかかわりがあることを明らかにしながら, 一般的な解法への手がかりを述べる.
  • ―Robert Gravesの歴史の英雄たち―
    中野 信子
    原稿種別: 原著
    1993 年 15 巻 4 号 p. 311-321
    発行日: 1993/12/01
    公開日: 2017/04/11
    ジャーナル フリー
    戦争詩人であり, オックスフォード詩学教授であったR.Gravesも, 今では白い女神に取り憑かれた気難しい蒼古的な詩人として, 女神神話の文脈でのみ, 時折振り返られるだけとなった. しかし, 筆者には, それ以前に彼を女神信仰へと駆り立てていった何か前駆的な力があったように思える. その力とは, キリスト教であり, キリストその人であった. そして, この力への強烈なアンタゴニズムと, 歪曲されたイメージに駆り立てられ, 詩人は長い労苦の末, ようやく自身の自己証明に行き着いた. 私見ではこの過程には3つの側面があり, 1)彼は, 他者を否定することで自己の確立を図る詩人であったこと, 2)この自己確立のドラマでの主役は, 「思い上がり」という名の堕落天使であったこと, 3)この思い上がりの罪は, 人間の内部に棲む不吉な概念としてではなく, むしろ人を悲劇の袋小路へ追い詰めて行く美学的死刑執行人として捉えられていることである. 聖書と歴史の書き換え作品を通して, この過程を追ってみた.
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