Journal of UOEH
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40 巻, 2 号
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  • 二瓶 俊一, 荒井 秀明, 内田 貴之, 金澤 綾子, 遠藤 武尊, 尾辻 健, 原山 信也, 相原 啓二, 蒲地 正幸
    原稿種別: [原著]
    2018 年 40 巻 2 号 p. 139-145
    発行日: 2018/06/01
    公開日: 2018/06/21
    ジャーナル フリー
    急性虚血性脳卒中の症状を有する急性大動脈解離症例に組織プラスミノーゲンアクチベータ(tissue plasminogen activator)を使用し,死亡に至った事例が報告されている.それゆえ急性大動脈解離と急性虚血性脳卒中の鑑別が重要である.本研究ではフィブリノゲン/フィブリン分解産物(FDP)値が急性大動脈解離と急性虚血性脳卒中の鑑別に有用であるかを調査した.研究対象者は,2007年から2012年に当院へ搬送された,20名の急性大動脈解離症例(男性10名,女性10名,平均年齢63.9±13.6歳)および159名の急性虚血性脳卒中症例(男性91名,女性68名,平均年齢74.2±10.6歳)であった.さらに大動脈解離症例を偽腔開存型急性大動脈解離群と血栓閉塞型大動脈解離群に分類した.FDP値は急性虚血性脳卒中群と比較し急性大動脈解離群で有意に高くなっていた(18.15[5.2–249.9]μg/ml vs. 2.3[1.5–4.45]μg/mlP<0.001).急性大動脈解離症例において,血栓閉塞型大動脈解離群(n=11)と比較して,偽腔開存型大動脈解離群(n=9)で有意にFDP値が高くなっていた(293.2 μg/ml[63.1–419.6 μg/ml]vs. 5.6 μg/ml[3.8–7.9 μg/ml].結論として,急性虚血性脳卒中群と比較し急性大動脈解離群,特に急性虚血性脳卒中と比較し,偽腔開存型大動脈解離群でFDP値が有意に高くなっている.FDP値の上昇は急性虚血性脳卒中と偽腔開存型急性大動脈解離の鑑別に有用なマーカーとなる可能性がある.
  • 高橋 富美
    原稿種別: [総説]
    2018 年 40 巻 2 号 p. 147-156
    発行日: 2018/06/01
    公開日: 2018/06/21
    ジャーナル フリー
    グリコーゲン合成酵素キナーゼ-3(GSK-3)は細胞質に存在するセリン/スレオニンリン酸化酵素である.この酵素は細胞増殖,幹細胞再生,アポトーシス,発達などに重要な役割を果たすさまざまなシグナル伝達経路を通じて,多彩な細胞機能を調節する分子として知られている.GSK-3は生体内に広く分布しているが,心臓の形成や心筋細胞の増殖コントロールを通じて,心臓の発達に非常に重要な役割を果たしている.さらに,GSK-3は心肥大や心臓の線維化においても重要な調節因子であることが明らかとなってきた.これらのことから,GSK-3は心疾患をターゲットとした新薬開発の標的分子として期待されている.この総説では,GSK-3のシグナル伝達経路や心臓における役割を概説し,この酵素をターゲットとした新薬開発の可能性を論じたい.
  • 矢寺 和博, 森本 泰夫, 上野 晋, 野口 真吾, 川口 貴子, 田中 文啓, 鈴木 秀明, 東 敏昭
    原稿種別: [総説]
    2018 年 40 巻 2 号 p. 157-172
    発行日: 2018/06/01
    公開日: 2018/06/21
    ジャーナル フリー
    六価クロム化合物は,呼吸器系における発癌物質として認識され,特に特定の職業環境下では肺や鼻,鼻腔の癌を引き起こす.クロム(Ⅵ)含有粒子や塵および煙の吸入曝露は,クロム生成,メッキ,クロム含有金属や合金の溶接,電気メッキ,クロム含有顔料や塗料などのクロム関連職業環境において,一般的に生じる.クロム化合物に関する疫学調査では,クロム(Ⅵ)曝露と肺癌による死亡率との間に強い関連があり,また,鼻や鼻腔の癌との間にも関連があることが示されている.鼻の炎症や潰瘍および鼻中隔の穿孔,鼻甲介の鬱血や肥大などの鼻症状は,クロム(Ⅵ)曝露の職歴を有する人において,肺癌や鼻・鼻腔癌の早期診断にとって重要な兆候である.職場におけるクロム(Ⅵ)の曝露は,特にクロム化合物を扱う比較的小規模の企業において肺癌や鼻・鼻腔癌の原因として深刻な問題となる.それゆえ,労働者の適切な保護はクロム化合物への曝露を伴う職業においては考慮されるべきである.
  • 米田 和恵, 今西 直子, 市来 嘉伸, 田中 文啓
    原稿種別: [総説]
    2018 年 40 巻 2 号 p. 173-189
    発行日: 2018/06/01
    公開日: 2018/06/21
    ジャーナル フリー
    免疫チェックポイント阻害剤(ICIs)によるがん免疫療法は進行非小細胞肺がんの治療を大きく変える役割を果たした.従来の細胞障害性薬剤を用いた化学療法をしのぐ免疫チェックポイント阻害剤の最大の臨床的有用性は長期生存が得られることであり,抗PD-1 (programmed cell death 1)抗体治療を受けた進行非小細胞肺がん患者の中には5年あるいはそれ以上の長期にわたって生存している患者もいる.免疫チェックポイント阻害剤はもっと早い時期の非小細胞肺がんに対しても,手術や放射線治療と組み合わせると有効な可能性がある.最近報告された臨床試験においては,化学放射線療法後にPD-1のリガンドであるPD-L1 (programmed death ligand 1)に対する抗体を用いて地固め療法を行うことによって,局所進行非小細胞肺がん患者の無増悪生存を有意に延長することが示された.しかしながら現行の抗PD-1やPD-L1抗体単剤の治療では,ほんの少数の一部の患者にしか生存期間の延長が認められない.腫瘍細胞のPD-L1発現状況が免疫チェックポイント阻害剤の効果を予測するバイオマーカーとして認可されてはいるけれども,それだけで免疫チェックポイント阻害剤を使う患者を十分に選択することはできないのが現状である.治療効果をさらに高めるためには,PD-L1以外の新しいバイオマーカーの開発が不可欠である.これに加えて,PD-1/PD-L1阻害との併用療法も期待される戦略であり,免疫チェックポイント阻害剤と化学療法の併用などのさまざまの組み合わせが現在進行中の臨床試験で検討されている.本稿では,免疫チェックポイント阻害剤による免疫療法の現況と将来展望につきレビューを行い議論する.
  • 本田 智子
    原稿種別: [原著]
    2018 年 40 巻 2 号 p. 191-199
    発行日: 2018/06/01
    公開日: 2018/06/21
    ジャーナル フリー
    産褥期は育児のために母親の睡眠が分断され,睡眠時間の減少や疲労の訴えがしばしばみられる[1].特に,産褥早期の育児において授乳の占める割合は大きく,睡眠への影響因子の一つであると考え,本研究では褥婦の授乳方法・授乳姿勢と睡眠感の関連について明らかにすることを目的とした.入院中(経腟分娩では初産婦6日目,経産婦5日目,帝王切開分娩では8日目)と産後1ヶ月の2回,授乳や睡眠に関する質問紙と,睡眠感の評価にOSA睡眠調査票MA版を用いて調査を実施した.その結果,分娩歴や分娩方法の違いによる睡眠感に有意差は見られなかったが,入院中の授乳方法において,夜間は直接授乳群(n = 46)で疲労回復や睡眠時間の項目の得点が有意に高く(P < 0.05),授乳姿勢においては添え乳群(n = 14)で疲労回復に関連する項目の得点が高かった(P < 0.05).さらに産後1ヶ月の授乳方法でも,昼(P < 0.01)・夜(P < 0.05)ともに直接授乳を行う褥婦の睡眠感が良好であることが分かったことから,産褥期の睡眠感を高めるには,直接授乳と添え乳が効果的であった.また,産後1ヶ月で睡眠感の改善がみられた.産後1ヶ月で睡眠感の改善がみられたのは,母親が育児に慣れたことや,授乳パターンが把握できるようになったことなどにより,スムーズに授乳できるようになったことが影響していると考えられる.
  • 高橋 哲雄, 久保 達彦, 森 晃爾
    原稿種別: [報告]
    2018 年 40 巻 2 号 p. 201-208
    発行日: 2018/06/01
    公開日: 2018/06/21
    ジャーナル フリー
    日本の危機管理システムにおいて労働安全衛生機能の位置づけを明確化していくためには,複数の先進国のシステムを参考とすることが有効と考えた.すでに調査を行った米国に加え,今回は安全衛生に関して規制と科学的な検討の両方を行う安全衛生庁Health and Safety Executive(HSE)が存在する英国の調査を行った.インターネットや文献上で得られる情報を整理したうえで,HSE本部と原子力規制局Office for Nuclear Regulation(ONR)を訪問し,インタビュー調査を実施した.英国では危機管理体制を計画と実対応の両面から規定する法律として国家偶発事象法Civil Contingencies Act 2004(CCA2004)に基づき,危機の種類に関わらず,地方から国レベルの危機管理計画の立案と危機対応のための一貫した枠組みを確立しており,HSEは安全衛生の専門家として助言を行っていた.また,HSEやONRは化学物質や放射性物質が関わる重大事故の緊急時計画立案に対しても支援を行っていた.米国および英国の危機管理システムでは,危機対応者の安全と健康を確保するために,3つの共通点,1)災害の種類を問わず,危機に対する共通の危機対応体制が採用されている,2)国内の市区町村レベルから国レベルまで,危機時の労働者の安全衛生を担う機関や組織が存在している,3)危機時に安全衛生機能を担う人材が確保されているが,確認された.日本の危機管理システムの改善において今後参考にすべきと思われる.
  • 平島 惣一, 宮脇 昭彦, 於保 耕太郎, 志渡澤 和佳, 新井 基央, 古田 功彦, 大矢 亮一
    原稿種別: [症例報告]
    2018 年 40 巻 2 号 p. 209-215
    発行日: 2018/06/01
    公開日: 2018/06/21
    ジャーナル フリー
    透析療法の中で腹膜透析は在宅で行うことができ,血液透析と比較して,血液中の溶質と体水分の移動が緩徐であり,循環器への負担が少なく,病院への通院が少なくて済む特徴がある.今回,70歳代男性で末期腎不全による腹膜透析中患者の骨髄炎を伴った陳旧性下顎骨骨折の偽関節に対し,消炎後に囲繞結紮にて非観血的整復固定術を行った症例を経験した.消炎は入院下でアンピシリン点滴静注と瘻孔部から局所を洗浄し,局所麻酔下で腐骨を除去した.瘻孔からの排膿の消失後に全身麻酔下に下顎レジン床(咬合可能)を用いた囲繞結紮で下顎骨骨折部の固定(非観血的整復固定術)を行った.下顎骨正中骨折の非観血的整復固定術の場合,術後6週間の固定期間が必要であるが,本症例は感染や骨欠損を生じていたため,術後3ヶ月間固定した.長期透析療法患者の顎骨への感染に対しては細胞性免疫機能の低下,腎性骨異栄養症(ROD),Chronic Kidney Disease (CKD)-Mineral and Bone Disorderなどにより,易感染性や治癒不全などが生じる.本症例では歯性感染源や骨折に感染を合併し,遷延化したと考えられる.長期透析療法患者に顎骨の感染を認めた場合には,透析医と密に連携し,腎機能に対して最小限の影響になるように抗菌薬の投与経路や代謝に応じた用法用量を選択することが重要である.局所については口腔衛生管理や洗浄での感染制御が重要であり,抗菌薬を使用しない治療管理が目標となる.
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