Journal of UOEH
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39 巻, 3 号
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[総説]
  • 明星 敏彦, 永田 智久, ジョス バビーク
    2017 年39 巻3 号 p. 187-199
    発行日: 2017/09/01
    公開日: 2017/09/14
    ジャーナル フリー
    多くの工業用ナノマテリアルが産業製品の基本材料として開発され使用されており,それらは開発国だけでなく開発途上国の労働者への健康リスクを持つ可能性がある.工業用ナノマテリアルの曝露低減対策の効果を証明する研究はほとんどないので,我々は2000年から2015年までに公表され特定された工業用ナノマテリアルのリスク低減対策の研究をシステマティックに調査した.ここでは,状況に曝露低減対策を入れた場合と入れない場合を比較し,工業用ナノマテリアルの曝露を測定した研究を採用した.これらの対策の効果を判定するために,我々は工業用ナノマテリアルの低減対策の効果の尺度として防護係数,対策の有無による有害物濃度の比として定義される文献を使用した.ここではPubMedの1,131レコードや他の文献リストから,41の文献を条件に合致したものとして抽出した.そして局所排気装置,密閉化,プロセス自動化などの工学的対策や,個人用保護具に分類した.密閉化の対策では,防護係数が100を超える場合があった.他の工学的対策では,よい結果では防護係数は10から20であったが,多くの局所排気装置では10以下,時に状況を悪くする場合もあった.N95や同等のグレードの使い捨て式防じんマスクはナノサイズの試験エアロゾルに対して10程度の防護係数を持っていた.工学的対策は工業用ナノマテリアルへの曝露を低減するが,密閉化のシステムの方がより効果的であることに弱い証拠があると結論付けた.呼吸用保護具は現場での研究が少ないため弱い証拠があると判定した.工業用ナノマテリアルが職業曝露限界を超える場合,または,その毒性情報がない場合に対策を決定するため上記の情報を使うことができる.
[報告]
  • 戸次 加奈江, 稲葉 洋平, 内山 茂久, 欅田 尚樹
    2017 年39 巻3 号 p. 201-207
    発行日: 2017/09/01
    公開日: 2017/09/14
    ジャーナル フリー
    受動喫煙による健康影響が懸念される中,たばこ規制枠組条約(FCTC)締約国として我が国でもその対策が推進され,現在,2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催に向けて,受動喫煙防止のための効果的な法の整備が国際オリンピック委員会(IOC)と世界保健機関(WHO)の要請のもと進められている.一方,Philip Morrisは新型タバコとして,加熱式タバコiQOSの販売を開始した.iQOSは,副流煙が低減化された新型タバコとして販売されているものの,受動喫煙や毒性に関しては限られた情報しかない.本研究では,科学的な観点からiQOSを評価するため,タバコ葉およびタバコ主流煙中の主成分であるタール,ニコチン,一酸化炭素およびタバコ特異的ニトロソアミン(TSNAs)の濃度レベルを従来の燃焼式タバコ(標準タバコ)と比較した.iQOS専用のタバコ葉および主流煙からは,標準タバコと同程度のニコチンが検出されたのに対して,TSNAsは,タバコ葉および主流煙のいずれも標準タバコの5分の1程度にまで濃度が低減され,燃焼マーカーとしても知られる一酸化炭素(CO)は,標準タバコの100分の1程度の濃度であった.しかしながら,この様な有害成分は完全に除去されているわけではなく,少なからず主流煙に含まれていた.今後,iQOSの使用規制には,有害成分の情報に加え,受動喫煙や毒性などの情報から,総合的に判断していく必要がある.
  • 長神 康雄, 石本 裕士, 野口 真吾, 川波 敏則, 加藤 達治, 迎 寛, 矢寺 和博
    2017 年39 巻3 号 p. 209-213
    発行日: 2017/09/01
    公開日: 2017/09/14
    ジャーナル フリー
    気管支鏡検査前後のリスクアセスメントは,気管支鏡検査を安全に実施するために重要である.しかし,気管支鏡検査当日の睡眠時の低酸素血症の有無を調べた報告はなく,我々は気管支鏡検査前日と当日の睡眠時の酸素飽和度について検証した.30症例で連続パルスオキシメーターを用いて,気管支鏡検査前日と当日の睡眠時の酸素飽和度低下指数(ODI)を測定した.その結果,気管支鏡検査前日に比べて気管支鏡検査当日の睡眠時の酸素飽和度低下指数(ODI-3%)は有意に上昇し(P < 0.05),気管支鏡検査による低酸素をきたしていた.気管支鏡検査を実施する際には気管支鏡検査中だけではなく,気管支鏡検査後の睡眠時の低酸素血症にも注意すべきである.
  • 越智 光宏, 大橋 浩, 蜂須賀 研二, 佐伯 覚
    2017 年39 巻3 号 p. 215-221
    発行日: 2017/09/01
    公開日: 2017/09/14
    ジャーナル フリー
    脳卒中のリハビリテーションにおいて,心身機能・身体構造・活動・参加の状態に基づき総合的な健康状態を把握することは重要である.Stroke Impact Scale (SIS)は脳卒中に特異的な,新しい総合的な健康状態の評価法であり,Duncanらの開発により現在version 3.0が発表され,リハビリテーションのquality of life (QOL)を中心とした評価などに広く用いられている.SIS version 3.0は9つの大項目の質問 (筋力,手の機能,日常生活動作/手段的日常生活動作,移動,コミュニケーション,感情,記憶と思考,参加,回復)からなる.回復以外の8項目には小項目の質問があり,過去1から4週間に患者自身が経験した,各質問項目を完了する難しさを1-5点の5段階尺度で評価し,回復は1から100までのビジュアルアナログスケールで,原則,患者自身が評価し回答する.各項目の値 (素点)をマニュアルに沿い,100点満点の大項目スコアに換算する.SIS version 3.0の日本語版を作成し,その信頼性と妥当性を慢性期脳卒中片麻痺患者32例を対象として検討した結果,十分な内的整合性 (Cronbachʼs α < 0.70) と再検査信頼性 (intraclass correlation coefficient 0.86-0.96)を認めた.SIS version 3.0の身体スコアは片麻痺の評価法であるBrunnstrom stage (0.49 < r < 0.53) と,健康関連QOLの評価であるshort form 8 (r = 0.82) との間に有意な相関 (Spearmanの順位相関係数,P < 0.05) を認め,十分な収束的妥当性を認めた.SIS version 3.0の臨床的有用性は高く,リハビリテーションの治療効果判定などで活用されることが期待される.
  • 又吉 信貴, 佐藤 典宏, 沖本 隆司, 田嶋 健秀, 荒瀬 光一, 佐藤 永洋, 田村 利尚, 柴尾 和徳, 日暮 愛一郎, 平田 敬治
    2017 年39 巻3 号 p. 223-227
    発行日: 2017/09/01
    公開日: 2017/09/14
    ジャーナル フリー
    小児胆嚢結石症は比較的稀な疾患であるが,近年増加傾向にあり,成人同様に腹腔鏡下胆嚢摘出術(laparoscopic cholecystectomy: LC)が標準術式になってきている.また,当科では,臍部の1ヶ所の創から手術を行う単孔式LCを積極的に導入している.1995年8月から2015年12月までに当科で行った小児(15歳以下)に対するLCの7症例を対象とし,その患者背景,術式,治療成績について検討した.平均年齢は8歳6ヶ月(2歳10ヶ月~15歳10ヶ月)で,男児が5例,女児が2例であった.基礎疾患を脳性麻痺2例,総胆管結石を伴う胆管非拡張型膵胆管合流異常1例,急性リンパ性白血病1例,有口赤血球症1例の5例で認め,基礎疾患を有しない症例を2例認めた.術式はLCのみが5例(内2例は単孔式)で,1例に腹腔鏡下総胆管切開切石術を,1例に腹腔鏡下脾臓摘出術を同時施行した.LCのみの場合の平均手術時間は108(70-140)分(従来式3例では113(70-140)分,単孔式2例では100(90-110)分)であった.術中胆道造影は4例に施行し,3例で省略した.術後合併症は1例に創感染を認めた.単孔式での臍部の皮膚切開は2.0 cmであった.小児胆嚢結石症に対してもLCは安全に施行でき,特に単孔式は整容性に優れている.
  • 矢田 浩紀, 小林 眞子, 大達 亮, 山根 俊恵
    2017 年39 巻3 号 p. 229-234
    発行日: 2017/09/01
    公開日: 2017/09/14
    ジャーナル フリー
    本研究は精神科看護師の自己効力感に関連する要因を明らかにするために行った,精神科病院に勤務する16名の精神科看護師を対象に実施した自由記述式質問紙の回答から自己効力感を感じる・低下させる要因を,質的記述的に分析した.自己効力感を感じる要因としては,24コードから8カテゴリ,A1.看護活用の可能性,A2.看護判断,A3.精神症状の改善,A4.患者のポジティブな姿,A5.患者との信頼関係の構築,A6.他看護師との信頼関係の構築,A7.業務の計画的な進行,A8.チーム医療の実践が抽出された.自己効力感を低下させる要因としては,25コードが10カテゴリ,B1.コミュニケーション不全,B2.ケアの不確実性,B3.精神症状の再発,B4.患者からの威圧感,B5.多忙による業務への不全感,B6.自己研鑽の困難性,B7.看護師としての役割喪失感,B8.体力不足,B9.機械的な看護業務,B10.失敗による看護観の揺らぎ,に集約された.これらは精神科看護師の自己効力感に介入が必要な視点である.
  • 荒木 俊介, 斉藤 朋子, 市川 さおり, 斉藤 香織, 高田 鼓, 野口 聡子, 山田 美貴, 中川 ふみ
    2017 年39 巻3 号 p. 235-240
    発行日: 2017/09/01
    公開日: 2017/09/14
    ジャーナル フリー
    新生児集中治療では後遺症なき生存を目指すため,集中治療の質を高めることが重要視されるが,退院後の家族での生活にも思いを寄せるケアも必要である.つまり,入院中の親子分離から生じる愛着形成不全や退院後の育児における困難感を軽減することが重要である.そのために家族をケアチームの一員とするfamily-centered care (FCC)の概念は,新生児集中治療の現場でこそ重要である.私達は2013年に全国から集まった新生児科医,NICU看護師,助産師による8名の多職種チーム‘こどもかぞくまんなか’をつくり,FCCの先駆的な施設であるスウェーデンのウプサラ大学NICUを視察し,以後ウェブサイトやソーシャルネットワークサービスなどを用いて,全国の周産期医療関係者,患者家族に新生児集中治療におけるFCCについての情報提供を行ってきた.私たちが2015年に行ったFCCの現状のアンケート調査では,家族ができるケアには,施設間の差があるが,各施設で家族が過ごしやすい空間を作る取り組みや勉強会が開催されており,FCCの重要性が広く認識されて来ていることが示唆される結果であった.社会のシステムや設備を変更することは難しいが,日常の業務にFCCの精神を取り入れることは可能であり,より重要である.新生児集中治療室に入院した赤ちゃんが入院中も退院後も家族と安全で豊かな生活ができるように,今後もFCCが国内で広く普及するように努める.
[症例報告]
  • 新生 忠司, 岡田 洋右, 上村 芙美, 西澤 茂, 田中 良哉
    2017 年39 巻3 号 p. 241-245
    発行日: 2017/09/01
    公開日: 2017/09/14
    ジャーナル フリー
    症例は54歳女性.43歳より両手指腫脹,49歳より足底の肥大,顔貌変化,滑舌不良を自覚し先端巨大症の精査目的にて入院となる.眉弓部膨隆,下顎突出,鼻翼と口唇の肥大,手足の容積増大,巨大舌の所見があり.growth hormone (GH) 39.8 ng/ml,insulin like growth factor-1 (IGF-1) 717 ng/ml,75 g oral glucose tolerance test (OGTT)でGH 22.9 ng/mlと抑制なし.X線検査で手指末節骨の花キャベツ様肥大変形,足底部軟部組織厚増大,トルコ鞍前後径拡大を認め,magnetic resonance imaging (MRI)で鞍上部の右側へ進展し海綿静脈洞浸潤を伴う21×17 mmの腫瘤を認めた.これらの所見からGH分泌過剰,IGF-1高値,75 g OGTTでGH抑制がなく,下垂体腫瘍を認め先端巨大症と診断した.腫瘍縮小効果を期待しオクトレオチドlong acting release (Oct-LAR) 20 mg/4wの投与を開始した.3回投与後GH 2.19 ng/ml (75 g OGTTのGH 1.69 ng/ml),IGF-1 370 ng/mlへ低下し,IGF-1 205 ng/mlと治癒基準を満たした.今回Oct-LAR投与により,GHおよびIGF-1低下に加え,腫瘍縮小および海綿静脈洞浸潤の消失を認め,安全に手術可能な状態となり内視鏡下経鼻的下垂体腫瘍摘出術を行い,術後合併症もなく経過した症例を経験した.先端巨大症の治療は手術療法が第一選択だが,Oct-LARの術前投与を行うことで治癒切除可能となり,先端巨大症の治療成績が改善する可能性がある.
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