1992年に某工場作業員がジクロロプロパノールの貯蔵タンク清掃作業中に溶剤に暴露され, 劇症肝炎を発症しわずか5日で死亡した症例が報告された. この作業員の血液から, ジクロロプロパノールの異性体である2,3-ジクロロ-1-プロパノール(DC1P)と1,3-ジクロロ-2-プロパノール(DC2P)が検出され, ジクロロプロパノールの中毒と診断された. しかし, ジクロロプロパノールについての詳細な報告がないため, 我々はジクロロプロパノールの毒性について, ラットを用いて種々の実験を行い以下の結果を得た. 1)1×LD
50量(ラットの経口LD
50=0.149mg/kg)において白血球数と血小板数の著しい減少, プロトロンビン時間と活性化部分トロンボプラスチン時間の延長, フィブリノーゲン濃度の減少を認めた. 2)1/2×LD
50量において血清AST・ALTの著しい増加と病理組織学的に肝細胞壊死を認めた. さらに, 1×LD
50量で肝組織における過酸化脂質量の増加, 還元型グルタチオン量の減少とグルタチオンS-トランスフェラーゼ活性の低下を認め, ジクロロプロパノールの肝毒性にフリーラジカルの関与が推測された. 3)1/2×LD
50量において海馬CA1領野の脱抑制が見られた. これらの結果を踏まえ, ジクロロプロパノールの毒性について概説した.
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