第四紀研究
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42 巻, 2 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 房総半島南端の完新統の例
    藤原 治, 鎌滝 孝信, 田村 亨
    2003 年 42 巻 2 号 p. 67-81
    発行日: 2003/04/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    南関東における完新世の溺れ谷に堆積した津波堆積物の粒度分布の垂直変化は,津波の波形と関連したTna~Tndの4ユニットの重なりからなる.なかでも,ハンモック状斜交層理の一次侵食面で区切られたサブユニットが重なったユニットTnbが,津波の特徴をよく表している.各サブユニットは,逆級化する下部と正級化する上部からなる.分級はサブユニットの中部でよく,上・下部で悪い.含泥率は逆級化部で減少し,正級化部の上方へ増加して20%に達する.逆級化部はトラクションカーペットないしtransport-lagで,正級化部とそれを覆う植物片に富む粘土質のラミナは,それぞれ波動の減衰に対応した細粒粒子の沈積の増加と,波動の停滞期における泥粒子などの沈積によって形成された.
    鋸歯状の粒度変化を示すサブユニットの重なりは,非常に長周期で高エネルギーの波動の繰り返しを示し,ストーム(周期10~20秒)では説明困難だが,津波(周期10分オーダー)ならば可能である.ユニットTnbの中部に,一連の波動のうち最大波で形成されたと考えられる顕著に粗粒なサブユニットが挾まれる.最大波が遅れて到着する原因は,陸棚での反射で増幅されたエッジウェーブによるものと解釈され,深海に波源をもつ津波の特徴である.
  • 北海道網走沖北見大和堆周辺で採取された2本のコア試料
    川村 紀子, 池原 研, 小田 啓邦, 鳥居 雅之
    2003 年 42 巻 2 号 p. 83-97
    発行日: 2003/04/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    北海道網走沖のオホーツク海海底には,堆積速度の速い堆積物が分布している.この海域の堆積環境の変動を復元するため,過去2,700年の堆積物で堆積速度150cm/kyと考えられる北見大和堆の北および東側の海底で採取したグラビティ・コアGH00-1001(水深461m)とGH00-1006(水深1,348m)に,岩石磁気学的分析法を適用した.
    その結果,各コアに含まれるおもな強磁性鉱物はマグネタイトと推定できた.各種の岩石磁気学的パラメータは,火山灰と礫の存在を示唆するスパイク状の異常値,堆積場の化学的環境変化を示すステップ状の変化,砕屑性粒子の給源の変化を反映する幅広いピークの3種類の変動を示した.GH00-1001の300cm以深とGH00-1006の150cm以深では,細粒なマグネタイト粒子が選択的に溶脱されて,平均粒径が大きくなった可能性があり,還元的環境であったと推定できる.また,GH00-1001の粒径や組成の異なる強磁性粒子のエピソディックな供給を示唆する深度275cmと420cm付近の層準も,磁気的パラメータの変化としてとらえることができた.粒径や組成の変化は,古墳寒冷期に対応した供源の変化を示す可能性がある.
  • 北村 晃寿, 加瀬 友喜, 大橋 秀一, 平本 真弓, 坂口 佳孝, 田辺 晶史, 間藤 基之
    2003 年 42 巻 2 号 p. 99-104
    発行日: 2003/04/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    生きている化石の宝庫として海底洞窟は1960年代より世界的に知られていたが,そこの堆積物に関する研究は行われていなかった.サンゴ礁における古環境解析のための新たなる地質記録としての有効性を検討するため,我々は沖縄県伊江島の海底洞窟(通称“大洞窟”)から堆積物のコア試料(長さ43cm)を採取した.堆積物はシルトからなり,葉理や生痕などの堆積構造は見られない.堆積物粒子は石灰質岩片を主とし,コッコリス,底生有孔虫や浮遊性有孔虫などを含む.貝化石の産状と14C年代測定の結果,コア試料は1,500年間以上の記録を有していることが分かった.また,平均堆積速度は2~4cm/100年と算出された.
    以上のことから,海底洞窟堆積物はサンゴ礁の後期完新世の環境・気候変動を解明できる記録媒体として有効であるといえる.
  • 小泉 明裕
    2003 年 42 巻 2 号 p. 105-111
    発行日: 2003/04/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    鮮新-更新統,加住礫層上部の泥層から大型のイヌ属,Canis(Xenocyon)falconeriの骨格化石が発掘された.化石包含層の上位層に挾まれる第2堀之内タフの年代が約1.6Maと推定されることなどから,本報告のイヌ属化石の年代は1.8Ma前後と考えられる.
    本骨格化石は広い範囲に分散した産出状態を示すが,1個体分のものと考えられる.臼歯の大きさは,現生種ハイイロオオカミCanis lupusの亜寒帯地域に生息する亜種の大きさに匹敵する.裂肉歯の形態は,上顎第1大臼歯のhypoconeがprotoconeよりも小さく,遠位側に位置し,下顎第1大臼歯のentoconidがhypoconidに比べてかなり小さいが,舌側に独立した咬頭で,hypoconidよりもやや近位にあり,中程度に純肉食性に特殊化している.また,上顎第4前臼歯は低冠歯で,protoconeが小さく,下顎第3大臼歯がある.
    このイヌ属化石の産出は,日本の鮮新-更新統から初めての記録であり,日本の鮮新-前期更新世の脊椎動物相の成立を検討する上で,重要な価値を持つものである.
  • レスの色相(L*,a*とb*)による推定
    漆 富成, 遠藤 邦彦, 鄭 祥民, 周 立旻
    2003 年 42 巻 2 号 p. 113-119
    発行日: 2003/04/01
    公開日: 2009/08/21
    ジャーナル フリー
    本研究は,レスの色相(L*,a*とb*)を用いた東シナ海Shengshan(〓山)島のレス-古土壌堆積物から復元される過去5万年間の気候変動の解析結果を示す.Shengshan島のレス-古土壌堆積物の色相指標(L*,a*とb*)変動パターンと帯磁率変動パターンには,同期,同調する傾向が認められる.これらの変動とグリーンランド氷床コアの酸素同位体比変動とを比較すると,帯磁率だけでなく,色相指標も高精度な気候変動指標になりうることが明らかになった.さらに,過去5万年間のShengshanレスの色相指標(L*,a*とb*)変動には,H1~H5のハインリッヒイベントとダンスガート・オシュガーサイクルのIS1,2,4,8,12各亜間氷期ピークに対応する気候湿潤化が確認できた.本研究によるレスの色相と帯磁率分析により得られた気候変動は,黄土高原から中国東南部Shengshan島,朝鮮半島,日本列島にかけての広域的な古気候の変動の対比を行う上での新しい根拠となるであろう.
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