関東平野南東部,八千代市勝田の新川低地で得られたボーリングコアの珪藻分析および花粉分析によって,この地域における約4,500年前以降の古環境変遷を以下のとおり明らかにした.
台地および段丘崖の植生変遷史は,古い順にコナラ属(コナラ亜属)を主とする落葉広葉樹林期(KaP-I),スギ林拡大期(KaP-II),マツ属(複維管束亜属)林期(KaP-III)に区分される.KaP-IとIIとの境界は約3,400年前,IIとIIIとの境界は早くとも約1,400年前である.一方,低地の環境は,(1)恒常的な水域が存在せず,イネ科とキク科草原の広がった時期(KaD-ib,KaP-IA),(2)ごく浅い水域が出現し,そこにカヤツリグサ科,イネ科などの挺水性群落の生育する時期(KaD-ic,KaP-IB),(3)地下水位の低下によって水域が狭まり,トネリコ属とハンノキ属の湿地林の成立した時期(KaD-iia,KaP-IC),(4)地下水位の低下が進行し,ニレ属-ケヤキ属林の広がった時期(KaD-iibおよびKaP-IIA,C),(5)再びカヤツリグサ科,イネ科などの挺水性群落を伴う池沼が広がった時期(KaD-iiia,KaP-IID)などを経た後,(6)水田となって(KaD-iiia,bおよびKaP-III)現在に至った.
さらに,ほぼ3,000年前のKaP-IIB亜帯において,少量のソバ属花粉が産出し,マツ属とイネ科花粉も急増する.同一層準からはイネ起源の植物珪酸体も産出し,オモダカ属,イボクサ属,ミズアオイ属などの水田雑草を含む分類群の花粉を伴う.このことは,縄文時代後晩期における畑作とマツ二次林の成立,および低地での水田稲作を示唆している.
抄録全体を表示